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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

豪雨、浸水で“二重住宅ローン”問題が多発…ローン免除にならず、公的支援の対象外も

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
豪雨、浸水で“二重住宅ローン”問題が多発…ローン免除にならず、公的支援の対象外もの画像1
「Getty Images」より

 9月11日に鹿児島で1時間に120ミリの記録的な豪雨が降るなど、近年は台風被害とともに集中豪雨の被害も知られるようになってきている。水害被害は水が引けば終わりだと思う方も少なくないが、大きな間違いだ。浸水被害で住宅の建て替えを余儀なくされる方も少なくない。豪雨被害が多くなるにつれ、取り沙汰されるのが“二重住宅ローン”問題だ。なぜ二重ローン問題が起こるのか、公的支援はないのか、民間保険ではサポートできないのか。SBI損害保険株式会社代表取締役社長の五十嵐正明氏に話を聞いた。

汚水のすさまじい臭い

 気象庁は雨の強さと降り方をHP上にまとめている(表)。ちなみに、「1時間で100ミリの降水量」とは、降った雨がそのままたまった場合、1時間で雨が水深10cmとなることを意味する。詳細は以下の同省HPをご参照いただきたい。

気象庁HP「雨の強さと降り方」

 豪雨の被害といえば、死者数が200人超の甚大な災害となった西日本を中心とする「平成30年7月豪雨」が記憶に新しい。今年に入ってからも「令和2年7月豪雨」として、それぞれ発生した日時は違うものの熊本南部を中心に九州全体や、広島・島根、岐阜・長野、山形・青森など各地で被害が発生している。

 9月の台風10号は100年に一度の大雨と予測され、日本時間の同月8日午前3時には温帯低気圧に変わった。一部で騒ぎすぎたとの報道もあった。しかし鹿児島市内の50代の方に話を聞くと、経験したことのない豪雨で、浸水はしなかったものの自宅の木造住宅が雨を吸収しきれず、玄関ドアが膨張し、開閉ができなくなったほどだという。

 集中豪雨の一種で、さらに局地的となるのがゲリラ豪雨被害だ。9月11日には大阪府枚方市で巨大な雨柱が出現し、ゲリラ豪雨に見舞われたが、なぜゲリラ豪雨は予測が困難なのか。集中豪雨は積乱雲によりもたらされるが、なかでもゲリラ豪雨の原因となる積乱雲は、10分程度のうちに急速に発達し、1時間程度で姿を消してしまうという。このように積乱雲の発生から消滅までの時間が極めて短いため、現代の技術でも発生日時や発生場所を正確に予測することが困難だといわれている。

 前述のとおり、水害被害は水が引いたら元通りとはならない。ボランティアや損害保険関係者の話によれば、氾濫した川は汚物をはじめあらゆるものを飲み込んでいるため、凄まじい臭いだという。「現地で着用していた服を洗濯しても臭いが抜けない」という。

 ひとたび泥水に浸かった家屋や生活用品も同様だ。水が引いたとしても、室内に染みこんだ臭いや汚れは、やがて広範囲にカビの発生を誘発する。健康・衛生・精神面を考えると、「とてもじゃないが住み続けることはできない」と考える被害者は少なくない。

公的支援の種類

 水害被害で家の建て替えを検討する際に直面するのが、経済的な問題だ。一定規模の住宅被害を受けた時の公的な支援制度が、「被災者生活再建支援制度」と「災害救助法」だ。「被災者生活再建支援制度」は別荘を除く借家も対象になるが、都道府県なら100世帯以上、市町村なら10世帯以上の住宅全壊被害が発生した場合などに適用となる。

 例えば住宅が全壊等した場合、被害状況に応じて支給される基礎支援金の100万円に、住宅の再建方法に応じて支給される加算支援金の建築・購入費用の200万円がプラスされた最大300万円の支援金が支給される(単身世帯の場合は金額がそれぞれ4分の3となる)。

 災害救助法は、災害により住宅が半壊するなど、自ら修理する資力のない世帯に対して、被災した住宅の居室、台所、トイレ等日常生活に必要な最小限度の部分を応急的に修理する。修理限度額は1世帯当たり57.4万円(平成29年度基準)だ。

 これ以外にも災害で被害に遭った家屋の復旧に対する災害復興住宅融資(住宅金融支援機構)制度もある。住宅再建方法により融資限度額、返済期間等が異なるが、住宅を建設する場合の融資限度額(基本融資額)1,680万円等の資金が融資される。

 結局、資力がある全壊被害の世帯には300万円、資力がない全壊被害の世帯には357万4000円の支援が限界なのが現実だ。

 ところで、支援制度の盲点ともいえるのが、一定の被害世帯数を前提としていることだ。こんな実例がある。ゲリラ豪雨が襲い、周辺住宅の中では少し低い位置にある1軒の民家の1階半分が浸水したが、こうした場合には、公的支援の対象外となることも覚えておきたい。

「全壊した住宅ローンの残高が300万円以下だから、支援制度を使えば、うちは大丈夫」と思うのも早急だ。生活するには家具や衣類、生活用品などが必要となる。各保険会社が家財保険金額の目安を算出しているが、家族構成、年齢などによっても違うが、単身世帯で300万円、世帯主の年齢が40歳、夫婦2人に子ども2人の世帯の家財保険金額の目安を1300万円とする保険会社もある。

 貯金がよほど潤沢にある世帯は別だが、全壊して被害に遭った方が、自力で元の生活に戻ることが、いかに大変か想像できるのではないか。

家屋の二重ローン

 誤解されている方が多いので強調したい。地震であれ、土砂崩れであれ、水災であれ、住宅ローンが残っているマイホームが被害に遭っても、住宅ローンは免除にならない(特約付帯により、一部免除される住宅ローンもある)。たとえそれが全壊であってもだ。つまり、住宅ローンが残っているマイホームが全壊し、新たに住宅を購入すると、全壊した住宅ローンの残額と新たな住宅ローンの二重ローンを抱えることになる。

 東日本大震災でも地震で家が全壊した場合の“住宅の二重ローン問題”は、大きな問題となったが、損保関係者からも水害被害でも同様の問題が発生していると聞く。

 これは地方に住む夫婦と高校生と中学生の4人家族のケースだ。新築でマイホームを購入し、あと少しでローンの返済も終える目処もついた。子どもは大学進学を控え、都内で一人暮らしを希望していた。余裕はないが、何とか叶えてやれそうだった。そんな家族の夢と思い出が詰まった家が豪雨被害で全壊した。

 夫婦は水害で全壊した家の住宅ローンは免除になると思い込んでいた。こうなった以上、進学先を変更させるか、住宅を建築するか。妻がパートの掛け持ちをしたところで、どちらも解決できるはずもなく、子供になんと言ったら良いかと途方にくれているという。

民間の保険を利用する

 前述のとおり公的支援には条件と限度額がある。住宅の二重ローンの発生リスクを民間の保険で軽減させる術はないものだろうか。SBI損保社長の五十嵐正明氏はいう。

「そうした悲劇を回避するために、火災保険の水災補償が準備されています。台風、暴風雨、豪雨などによる洪水・融雪洪水・高潮・土砂崩れ・落石などが原因で、床上浸水などの損害を受けた場合に、損害保険金をお支払いするものです」

 現在の損保各社の主力商品は、基本的に実損払いである。ただし、2000年代前半以前の契約では実損額が支払われず、損害の程度に応じて保険金額の一定割合を支払う商品が主流であった。最大でも損害額の70%の支払いとなる。また、オプションでセットするタイプのなかには、特約で70%の縮小補償となってしまう場合もある。

「水災補償がセットされているからといって安心せず、事前に補償内容の再確認を行っていただきたいと思います」と五十嵐氏は注意を促す。

 損害保険料算出機構のデータによると、火災保険で水災を対象としている水災補償付帯率は69.1%(2018年全国平均)。水災補償が付いていない商品が3割にも上る理由はなんだろうか。

「マンションの高層階にお住まいの方などは水害被害に遭う可能性は低いと判断されたのだと推測します。また、水災補償はセットするのとしないのとでは、年間で数万円前後も保険料が違ってくるため、保険料の観点からセットされない方がいらっしゃる場合があります」(五十嵐氏)

 ちなみに高層階などに住む人には、水災補償をオプションでセットできる保険商品が合理的だと人気を集めている。

 ここ数年、50年に一度と言われる豪雨が、毎年のように日本各地で発生するようになった。ある豪雨被害者はこう述懐する。

「自宅から1キロ以上も離れている河川は、日頃はちょろちょろと流れる程度だった。それが集中豪雨により河川は決壊、我が家の周辺まで濁流が流れ、1分程度で1階から2階まで浸水した。牙を剥いた水の恐怖を痛感した」

 明日は我が身だ。豪雨被害が増加すれば、住宅の二重ローン問題も今後増えるかもしれない。五十嵐氏は、「発生してから、被害に遭ってからでは、どうすることもできません。リスク回避の観点からも、定期的に加入されている火災保険の補償内容の点検が必要です」と語気を強める。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

●五十嵐正明氏プロフィール

58歳。東京都出身。立教大学卒。アリコジャパン、ING生命、三井住友海上、あいおい損保に勤務ののち独立。ブロードマインド少額短期保険(現アスモ少額短期保険株式会社)を創業。2011年、少額短期保険協会専務理事に選任。2015年、日本少短(現SBI日本少短)に参画。翌年、代表取締役に就任。その後、2017年SBIリスタ少短取締役(兼任)、2017 年SBI少短保険HD取締役(兼任)を経て、2019年SBI損保代表取締役に就任。2020年よりSBIインシュアランスグループ取締役を兼任。

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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