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病院に経営コンサル入ったら経営ガタガタ…1人休むと業務回らない→退職が続出

文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表
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経営コンサル
「Getty Images」より

 ある病院で、経営コンサルタントのアドバイスによって人員が切り詰められ、一人も休めない状況に陥っているとの投稿が話題になっている。経営コンサルは経営体質を改善するために相談を受けているはずで、リストラをすること自体は珍しくない。だが必要以上に人員を削り、日常業務にまで支障が出てしまっては元も子もない。だが、SNS上では件の投稿に「あるあるすぎる」など、経営コンサルタントが入ることで、かえって経営がおかしくなることは珍しくないといった意見もみられる。なぜこのようなことが起こるのか。専門家の見解をもとに探ってみよう。

 ある外科医が11月25日にX上で以下のようにつぶやき、注目を浴びている。

「勤務先、非医療者のコンサルが入ってから明らかにおかしくなった 非常勤医をバンバン首切り、看護師他スタッフギリギリの数しか雇わずフル回転させ続ける 1人休んだらその日はもう色々アウト 残った人間に負荷がかかり続け、ついに優秀な常勤医の退職者が出始めた なんだかなあ…アホなの?としか…」

 この投稿は数日の間に500万回以上閲覧され、コメントも500件以上付けられている。経営コンサルタントが入ったことでスタッフが最低限の人数に絞られ、残った人員に過剰な負荷がかかっているという。人件費を削減して支出を抑えることは経営改善の王道ではあるが、一人も休めない状況をつくるのは、あまりにも極端なコストカットを行っているといわざるを得ない。

経営者の発注の仕方、経営コンサルタントの資質

 経営コンサルタントは経営改善とともに働く従業員にとっても働きやすい環境をつくるのが仕事ではないのだろうか。数多くの企業再建を手掛けてきた企業再生コンサルタントで株式会社リヴァイタライゼーション代表の中沢光昭氏は、この病院に関して、経営コンサルの質が悪い可能性と同時に、発注した病院経営者側にも問題があると指摘する。

「経営コンサルタントが入ったことで、かえって働く環境が悪くなるということが一般的にありうるかと聞かれたら、十分にありえます。その理由は、話題になっている件については真相はまったくわかりませんが、『経営者のオーダーに問題がある可能性』『コンサルタントの質が悪い可能性』『経営者によるコンサルタントの選定が限定的であった可能性』というあたりがあるように思います」

 まず、経営者のオーダーに問題がある可能性について説明してもらおう。

「スレッドの中にもそうしたコメントはありますが、発注者・経営側が、『とにかく人が多いから、もう少し少ない人数で回せるようにしてほしい』ということを伝え、受け手のコンサルタントが人数を減らすことありきで考えたプランを、現場に理解されないまま推し進めている状態です。

 本来は生産性を上げて業務効率を良くするために仕事の仕方や業務プロセスを変え、結果的に人員余剰になってから、いろいろなアプローチで人員削減を進めていきます。

 それが最初から『人を減らすためにやっているらしいよ』といった噂が回ったりすると、何をするにしてもナナメに受け止められて、単に人が減っていって残った人が貧乏くじを引いたような状態になります。ただ、そうしたことを含めて、うまく物事を進めるのがコンサルタントだとは思います」

 次に、コンサルタントの質が悪い可能性について考えてみる。

「きちんとしたコンサルタントであれば、少々発注者のオーダーが筋悪でも、本来望んでいることや目的をよく理解して、『ならば、こういうアプローチでいきましょう』など、よく発注者とすり合わせて進めていくものです。

 ただ、どうしてそういうことができない人・会社を、わざわざ高いお金を払って起用するのだろうかと、疑問にもたれると思います。それはもう、発注者の選び方に問題があります。

 医療の世界の論理は、一般のビジネスの論理とは異なります。ただ、病院を良くしようという目的に対して、何をどうしていくかを考えて取り組んでいくことにおいては、共通する要素もたくさんあります。したがって、病院が抱えている課題によっては、いわゆる『医療に詳しいコンサルタント』だけでなく、普通のビジネスコンサルタントでも十分に対応できます。

 しかし、不思議と医療の領域においては『業界経験がないとNG』としてコンサルタントを選ぶことがほとんどです。そうすると、選ぶ相手はぐっと限られます。

 言ってみれば『質が悪いけれど業界経験があるコンサルタント』と『質は良いが業界経験はないコンサルタント』がいた場合に、前者のほうが選ばれることが多い印象があります。前者と後者を比較したうえで前者を選ぶのではなく、最初から前者しかコンタクトしません。

 通常、質が悪いと評判が悪くなり雇ってくれる相手がいなくなっていく(そこそこお金がある会社でないと雇えないので、法人の数だけ可能性があるわけでもありません)ので、コンサルタントは生きていけないのですが、何かの拍子に医療の世界に携われれば、パイがそこまで多くない業界経験者グループでのサバイバルになるので、生きていけることもあるのかもしれません。

 ただ、質が悪かろうとも、コンサルタントがいきなりやってきて暴れるわけではありません。必ず発注者がいることから始まります。つまり、生かすも殺すも発注者次第で、混乱が起きたとしたら最終責任は発注者にあります。コンサルタントは無責任にその場を逃げることはできても、その先の道が通常は狭くなっていきます。それでも、医療の世界においては貴重な業界経験者として、また次の病院に行方を眩ませているかもしれません」

経営者と経営コンサルタント、両方に問題がある可能性

 ここまで、経営者と経営コンサルタントについて、考えられる問題点を指摘してもらったが、中沢氏はどちらか片方ではなく、両方に問題がある可能性が高いとみる。

「現場で混乱が起きているのに軌道修正しないのであれば、経営コンサルタントのレベルが低いのと同時に、発注主である経営者が悪いといえます」

 現場の声を聞かずに、経営者と経営コンサルタントが人員削減に踏み切った結果というわけである。SNS上では「あるあるすぎる」といった反応もみられるが、医療現場に限らず、一般企業でもあることなのだろうか。

「珍しくはないと思います。経営コンサルタントとしては、まず仕事内容を整理しておき、人員を削減する前に作業効率を上げる、余剰人員がどれほどあるのかを把握しておく、といった手順を踏んでから人を減らすべきなのですが、いきなり人員削減にとりかかると、現場に混乱が起きてメチャクチャになります」

 通常、いきなり人員を削減するのではなく、経営の方向性や、経営状況を確認したうえで、どのくらいの人数が適正なのかを経営者側と経営コンサルタントがすり合わせを行うべきだというわけだ。

「私であれば、現場を視察し、現場のスタッフの声を聞き、そのうえで経営者の依頼内容に合わせて、どのように改善できるのか、何をすべきかといった提案をします。経営者の多くは、現場の詳細を把握できていないものです。そこで、経営コンサルタントの立場で現場を見て、客観的に見た実情を伝えることを大切にしています。経営者の要望だけで方針を決めるようなことはせず、現状を確認したうえでの提案という段取りは必要だと思います」

 経営コンサルタントが入る価値というのは、経営者の一存で方向性を決めず、従業員の働く環境なども含めて外部から客観的に判断してアドバイスする点にあるはずだ。つまり、話題の病院における経営コンサルタントは、働き手の意見を無視した助言をしている可能性がある。

「医療機関は経営コンサルタントに対して、それなりに高額な報酬を支払うことが多いのですが、閉鎖的な環境であるがゆえに、広い視野で専門家を探すのではなく、“病院経営に携わったことがある人”といった条件をつけるため、資質が伴わなくてもずっと同じ業界に居座り続けることができたりするのです」

 経営コンサルタントの質が悪いだけではなく、そのようなコンサルタントの資質を見抜けず、現場の声も無視する経営者にも問題があるというのが、今回の問題の本質ではないだろうか。

(文=Business Journal編集部、協力=中沢光昭/リヴァイタライゼーション代表)

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表

企業再生コンサルタント兼プロ経営者。
東京大学大学院工学研究科を修了後、経営コンサルティング会社、投資ファンドで落下傘経営者としての企業再生に従事したのち、上場企業子会社代表を経て独立。雇われ経営者としてのべ15期以上全うし、業績を悪化させたのは1期のみ。
事業承継問題を抱えた事業会社を譲受け保有しつつ、企業再生とM&Aをメインとしたコンサルティングおよび課題内容・必要に応じて半常勤による直接運営・雇われ経営者も行う。シードステージのベンチャー企業への出資も行う。
株式会社リヴァイタライゼーション 代表・中沢光昭のプロフィール

Twitter:@mitsu_nakazawa

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