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新体制ジャニーズ事務所、難局を乗り切る「再成長プラン」…経営コンサルが検証

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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ジャニーズ事務所

 ジャニーズ事務所は先月29日、故ジャニー喜多川前社長による性加害問題をめぐり再発防止特別チーム(座長:林眞琴元検事総長)が取りまとめた調査報告書を公表。報告書は「(同社は)解体的出直しをするため、経営トップたる代表取締役社長を交代する必要があり、ジュリー氏は、代表取締役社長を辞任すべきと考える」としているが、藤島ジュリー景子社長が退任して後任に所属タレントの東山紀之が就任し、さらに同社株式を100%保有するジュリー氏が取締役として残留するとも伝えられており(「文春オンライン」記事より)、事務所の再出発に不安の声も広がっている。同社の経営継続、そして再成長に必要な方策とは何か。専門家に聞いた。

 事の発端は海外メディアの報道だった。今年3月に英国公共放送(BBC)が『Predator: The Secret Scandal of J-Pop』という番組タイトルでジャニー氏の性加害を特集。同番組には、ジャニー氏から被害を受けたという複数の男性が出演し、証言。4月12日には、ジャニーズJr.メンバーとして活動していた岡本カウアン氏が日本外国特派員協会で会見を開き、被害を告白。大手メディアが一斉に報じ、世間の知るところとなった。

 ジャニー氏の問題をめぐっては過去、元所属タレントの著書などで明かされていたが、それが広く世間に知れ渡るきっかけとなったのが、1999~2000年にかけて大々的に特集記事を展開した「週刊文春」(文藝春秋)の報道だった。これを名誉棄損だとした事務所側は、東京地裁に民事訴訟を起こしたものの、裁判所は04年2月、「(ジャニー氏の)セクハラについての記事の重要部分は真実と認定する」との判決を確定させたのだ(ジャニー氏が「合宿所で少年らに飲酒や喫煙をさせている」と報じた部分は名誉棄損が認められ、「文春」は計120万円の損害賠償の支払いを命じられた)。

 この「文春」裁判の結果に対し、当時のテレビ、スポーツ紙など大手メディアは沈黙を貫き報道を自粛したが、それから約20年の時を経て、ジャニーズ事務所は今年4月、取引先企業へ文書を送付し、社員や所属タレントにヒヤリング調査を行い問題が確認されなかった旨と、元所属タレント向けの相談窓口を設けたうえで個別対応を行う予定であることを報告。5月にはジュリー社長の謝罪動画と文書を公開し、8月には国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家たちがこの問題について聞き取り調査の中間報告を発表するなど、動きが出ていたなか、今回の再発防止特別チームによる調査報告書の公表となった。

ジュリー氏・東山コンビへの不安

 調査報告書は一連の問題の原因について、「ジャニーズ事務所の不作為」「同族経営の弊害」「取締役会の機能不全と取締役の監視・監督義務の懈怠」「マスメディアの沈黙」などを指摘。とるべき対応として、「被害回復のための適正な補償をする『被害者救済措置制度』を直ちに構築すべき」などとするほか、前述のとおりジュリー社長の退任を迫っている。

 百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「今回の再発防止特別チームの提言は極めて踏み込んだ内容になっています。その背景を理解することが重要です。本件は国連の人権理事会が取り上げている事件です。国際社会では人権にかかわる犯罪については、その国の法よりも上位の対応が求められます。

 そのため報告書で提言されている3点セットとしての(1)事件を認めること、(2)被害者を救済すること、(3)ジュリー藤島氏が代表取締役から離れることの3点を実行することがジャニーズ事務所には強く求められている。これがいわゆる普通の不祥事とは根本的に異なる点であることを、まず理解する必要があります」

 被害を訴える元タレントらは「ジャニーズ性加害問題当事者の会」を結成し、事務所に対し被害者への補償に向け救済基金を設立するよう正式に要請。刑事告発も検討しているが、スポーツ紙記者はいう。

「事務所は今後、被害者への補償や新たなガバナンス体制の整備、取引先であるテレビ局をはじめとするメディアや企業への対応、所属タレントのケアなど、山積する複雑な問題に対処していかなければならない。そのようななかで経営の素人である東山が社長となっても、やれることには限界があり、お飾りにすぎなくなり、結局は現経営陣がすべてを取り仕切ることになる。さらに100%の株を持つジュリー氏が取締役に残るとなれば、ジュリー氏が名実ともに経営権を握ることになるわけで、事実上、これまでと何も変わらない。

 だが、ジュリー氏は自身への異論や批判を受け入れるのが苦手で、それがKing & Princeの分裂や滝沢秀明元副社長の退任といったゴタゴタの根底にある。そんなジュリー氏と東山コンビで事務所の難局を乗り切れるかは疑問」

今後想定される現実的なシナリオ

 もし仮に東山が社長に就任し、ジュリー氏が取締役として残留した場合、このような体制での再出発をどのように評価すべきか。前出の鈴木氏はいう。

「現時点でジャニーズ事務所のトップに求められることは経営手腕ではなく、事態に真摯に向き合えるかどうかの資質です。東山氏が経営のプロであるかどうかは、その観点では重要ではありません。100%株主であるジュリー氏には株主総会を開いて取締役を解任する権力があります。しかし東山氏にお願いして事態の収拾を図ろうとしているわけで、それを解任するわけにもいかないでしょう。当面はジュリー氏は経営に関与できないと考えられます」

 今後の事務所の経営継続・拡大・再成長に向けて、経営面で取り組むべき方策とは何か。

「被害者への贖罪に関しては巨額の補償が発生してもおかしくはありません。一方で事務所が立ち行かなくなれば補償することもできない。事務所が発展しつつ補償が担保されるようなゴールを目指す必要があります。つまり報告書の提言に沿って事件を認め、被害者を救済する一方で、コンプラ体制を構築して所属するタレントの動揺を防ぐ施策を同時に推進することが求められます」(鈴木氏)

 では、ジャニーズ事務所の経営について、今後想定される現実的なシナリオとは。

「そんなことは起きないと、これまでは考えられてきましたが、仮に所属タレントが一斉に退所するようになれば、事務所はそれでおしまいです。今は瞬間風速的にそれが起きる可能性がある。そうならないように新体制のジャニーズ事務所はきちんと事件に向き合うことになると思います。過去起きたことは悲惨な事件ですが、才能のある人材の宝庫でもある事務所です。状況を見間違えさえしなければ、正しい対応をして事態を乗り切れると期待してよいのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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