英紙フィナンシャル・タイムズ(FT紙)は、業績不振にあえぐ日産自動車の上級役員が「我々が生き残りのために残された時間は12~14カ月しかない」と語ったと報じている。26日付FT紙記事によれば、日産は経営再建策の一環としてホンダに株式を保有させることも検討しているという。4~9月期の純利益が前年同期比94%減の192億円となり、グローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行う日産は、深刻な経営危機に陥っているとみるべきなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
日産の業績が急速に悪化している。7~9月期の純利益は93億円の赤字であり、当初は3000億円の黒字予想だった25年3月期通期の純利益は今月に「未定」に修正された。通期では数千億円規模の最終赤字になるとの予想も出ている。大きな要因が海外事業の悪化だ。特に前年まで好調だった北米市場で電気自動車(EV)の販売が失速してハイブリッド車(HV)人気が盛り上がるという変化が生じ、HVを販売していない日産の売上が低迷。販売台数を維持するための販売奨励金への依存が高まり、これが収益悪化要因となり4~9月期の北米事業の営業損益は赤字に陥った。
先行きは暗い。3月に発表した中期経営計画「The Arc(アーク)」では26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上に引き上げるとしていたが、11月には撤回を余儀なくされている。
資金調達面は非常に苦しい状況
日産は「残された時間は12~14カ月」と表現されるほどの危機に面しているのか。自動車業界に詳しいジャーナリストの桜井遼氏はいう。
「手元資金が4~9月期だけで5000億円以上も急減し、7~9月期だけをみると純利益が赤字に転落しており、かなり厳しい状況なのは間違いないですが、減ったとはいえ手元資金は9月末時点で1兆4000億円あるので、12カ月後に倒産する可能性もあるほどの危機というわけではないでしょう。ただ、今の状況が続いて格付け会社各社が日産の格付けを引き下げれば、社債発行時により大きな上乗せ金利が必要となるなどして資金調達コストが上昇していきます。26年3月期には5000億円以上の社債の償還期限を迎えますし、資金調達面は非常に苦しい状況が続くのは事実です。
本来であれば販売台数の回復に伴って業績が回復するのが、あるべき姿ですが、他社と比べて日産の新車投入頻度は少なく、新たなヒット車が出ていない、そしてモデルチェンジできていないことで経年劣化しているモデルばかりというのは、自動車メーカーとして本質的な課題を抱えているといえます」
日産は8月、ホンダと三菱自動車との間でEVの分野などで戦略的パートナーシップを締結すると発表したが、FT紙は日産がそのホンダに日産株を保有してもらう計画を持っているとも報じている。
「日産はルノーが保有する日産株のうち信託会社に信託されている株を段階的に買い戻す必要があり、買い戻した株をどうするかという問題もあるので、ホンダに株を持ってもらいたいという思いはあるとみられています。ただ、日産とルノーは現在、お互いに株を15%ずつ保有している関係にあるのでルノーの合意を得る必要があるため、現実的には難しいです。また、ホンダは昨年にGMとの量販EVの共同開発を中止したばかりで、他社との提携はなかなか難しいという意識を持っており、事業提携よりもさらに踏み込んだ資本提携までは行うつもりはないとみられています。現在、自動車業界の変化スピードはますます速くなってきており、メーカーは機敏な動きを求められているなか、いったん日産の株を持ってしまうと手離すのが難しく機動的な動きの妨げになる恐れもあり、ホンダ側にその意向はないでしょう」
日産は経営的にも混乱が続いている。日産株の43%を保有する筆頭株主だったルノーの出資比率は昨年11月に15%に引き下げられたものの、常にルノーとの関係に配慮した経営を行う必要がある。2018年に会長だったカルロス・ゴーン氏が逮捕され、後任の西川廣人氏も不当な報酬が発覚して辞任。その後任に現社長兼CEOの内田誠氏が就任したが、直後に副COOだった関潤氏が辞任。さらにCOOだったアシュワニ・グプタ氏も不正の疑いによる社内調査を理由に23年に辞任。現在は業績不振により内田社長の手腕を疑問視する声も社内外で広まっている。
(文=Business Journal編集部、協力=桜井遼/ジャーナリスト)