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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

「地震保険」加入のおかげで震災1年後に自宅再建、子供が大学進学…人生を大きく左右

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
「地震保険」加入のおかげで震災1年後に自宅再建、子供が大学進学…人生を大きく左右の画像1
被災後の南気仙沼

 2011年3月11日午後2時46分、その時がきた。オフィスでお客様と打ち合わせをしていた保険代理店、株式会社Miriz(宮城)代表取締役の渡辺健一さんは、揺れを感じた瞬間、社員に机の下に身を隠すように指示をした。東日本大震災では、幸い同社の社員にも来客にもケガはなかったが、すべてのライフラインが使えなくなっていた。渡辺さんが慌てて外に出ると、あちこちの外壁にひびが入り、建物が倒壊しており、道路はゆがみ、マンホールは隆起し、信号機は消えていた。

「とんでもないことになった。きっと津波も発生しているに違いない」と、お客様が心配になり、車を走らせてみるも、道路が寸断され、ほんの5分ほど走っただけで先に進むことはできない。余震は頻繁に発生し、不安だけが高まる。陸の孤島状態になってしまった渡辺さんの会社は、情報を得る方法がなく、翌日に「宮城震度7」と一面に大きな見出しがついた新聞で全容を知ることになった。

 保険代理店は、災害発生時に迅速に契約者に保険金をお届けしなければならない。このため、外部との連絡がつかず情報が遮断されたことは何よりも困る。ようやくお客様の契約確認を開始することができたのは、震災5日目だった。「地域のどこよりも早い保険金のお支払いを目指して、1日でも早くお客様に安心をお届けしましょう。お客さまの被害状況は一軒ずつ違いますが、それ以上に同じ家族であっても、おひとりずつ心理状態は違います。それを忘れず、当事者になったつもりで、手続きをしてください」と社員に呼びかけた。

 お亡くなりになられたお客様はいなかったものの、津波被害で家を流された人も少なくなかった。一心不乱に手続きを行ない、3月中に9割、4月第1週にはすべてのお客様の保険金請求手続きが完了した。

 震災当日の午前中に契約を申し込んだお客様がいた。その方の自宅は津波で全壊したものの、地震の直前に契約した地震保険および「地震危険等上乗せ補償特約」のおかげで、二重ローンに陥ることなく、自宅を再建することができた。渡辺さんは「助けてもらって、ありがとう」と言われた。

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Miriz代表取締役の渡辺健一さん

「もっと強く勧めて背中を押してくれていたら」

 東日本大震災で渡辺さんの会社は損保業界にその名を留めた。当時、損保業界全体でも地震保険の世帯加入率は53.7%というなか、渡辺さんの会社の契約者では、地震保険および「地震危険等上乗せ補償特約」付帯率は95%だったからだ。約1200人におよぶ被害にあった世帯を経済的に救うこととなり、特約の加入者は誰一人として二重ローンに苦しむことはなかった。

 その一方で、渡辺さんと社員には、ある後悔が残った。仲の良い友人2人が連れ立って火災保険の相談に来られ、どちらにも同じ説明をしたが、Aさんは地震保険に「地震危険等上乗せ補償特約」をセットして契約し、Bさんは地震保険にも加入しなかった。

 地震保険や「地震危険等上乗せ補償特約」をセットすれば、その分、保険料も加算される。保険料の問題は家計の大きなテーマだ。いつ、どこで地震が発生するかは、誰もわからず、そうした未知のリスクの捉え方は人それぞれだ。保険業法上、保険代理店に地震に備える保険の説明をする義務はあるものの、強引に勧めたり、誘導することはできない。

 AさんとBさんは、その後どうなったのか。2人とも津波で家が全壊し、しばらくは避難所で過ごしていた。Aさんは1年後に家を再建し、Bさんは子供が社会人になってしばらくしてから、子供が住宅ローンを借りるかたちで新築し、同居することとなった。

 渡辺さんがBさんの新築の家を訪問した時に、Bさんは笑いながら「もっと強く勧めて背中を押してくれていたら、私たち一家もその後が違っていたのに」と冗談めかして言われたが、言葉に詰まった。災害からの復興には資金が不可欠で、被災後の立ち上がりも違ってくる。Bさんの言葉を社員にも話し、心の奥に深く刻んだ。

 筆者の経験からすれば、いいとか悪いという意味ではなく、自分の主張を曲げない方は一定数いらっしゃる。そういう人にどうすれば、未知数のリスクを共有してもらえるのか。「『背中を押してくれていたら』という言葉を二度とお客様に言わせない」と誓った渡辺さんは、「自分が被害に遭った場合をリアルにイメージしてもらえるように」と地震関連のアプリも活用するようになった。震災後、地震保険と「地震危険等上乗せ補償特約」の付帯率はさらにアップして、今では付帯率は全契約者の98%となっている。

 地震保険には加入したいが、保険料を安くするために建物と家財の補償額を低めに設定する人もいる。気持ちは理解できるし、納得されてのことなら他人は口が挟めない。

「地震による火災だけが補償対象であったり、自宅の再建のためには補償額が不足している場合があります。自分の契約内容を理解されていなかったり、誤解されている方も珍しくないので、必ず補償内容の確認をしていただきたいと思います」(渡辺さん)

地震保険への誤解

 地震保険は、地震により損傷したものの修理費用が支払われるのではない。被害の程度によって保険金の支払い割合が決まる。建物と家財それぞれを補償対象にできるが、被害を確認する際、建物の場合は主要構造部(基礎、壁、柱、屋根)の被害状況で保険金の支払い可否等を判定する。そのため、給湯器、配水管、室内のクロスのひび割れや門扉、物置などが壊れていても、建物自体の損傷の程度が大したことがなければ、保険金が受け取れない場合があることに、注意が必要だ。

 東日本大震災から10年が経過した。最近では地震に強い住宅が建てられている。地震保険など、もはや不要ではないのか。

「私のお客様にも東日本大震災当時、地震に強い家屋に住んでいる方がいらっしゃいました。最初は『地震保険は不要』とおっしゃっていましたが、地震が原因で火災になった場合、通常の火災保険からは保険金が支払われないことを説明させていただくと、地震保険にご加入されました。東日本大震災で、その方のご自宅は半損になりました。想像を絶する揺れで、地震に強い家だったから半損で済んだと思います。このような規模の災害が、今後発生するかどうかはわかりません。しかし、日本のどこで大規模震災が発生しても不思議ではなく、自分の地域は大丈夫ということはあり得ないと思います」

 先日、東日本大震災の津波で被災されたお客様から、渡辺さんのもとにメッセージが届いた。避難所、仮設住宅での生活を経て、住宅を再建、今春からお子様が大学に進学する方で、地震保険以外に学資保険にも加入されていた。

「あの時、地震保険を案内してもらってたから、学資保険もやめないですみました。これを使って子供の夢を応援してあげれます」

 震災後すぐに渡辺さんの会社はオフィスを移転し、耐震性能の優れた建物にした。デスクトップだったPCをノートPCに切り替え、スマホとタブレット用に携帯できるソーラー充電器も完備し、ソーラー式の自家発電機も購入した。ペーパレス化を進め、文書やメールもクラウド対応に変えた。

「保険は目の前の不安の解消ができるだけではなく、地域の人や企業の夢の実現、何十年先もの未来をつなぐ役割であることを再確認しました。これからも、お客様の大切な夢や叶えたいことをお聴かせいただき、おひとりおひとりの夢が実現できるように、また不安を解消できる保障を一緒に創っていきます。

 当社の本当の仕事は、保険のご契約をお預かりしてからが始まりだと思っています。いつでも「顔の見える安心感」をお届けするために、使命感を持って、これからも地域の方に貢献していきたいと思います」(渡辺さん)

 渡辺さんの使命感溢れた活動は今日も続く。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

●渡辺健

株式会社Miriz(ミライズ)代表取締役

本社所在地:

〒989-1225

宮城県柴田郡大河原町字広表29-14 TEL/ 0224-52-6818

仙台支店:

〒980-0811
宮城県仙台市青葉区一番町2-1-2 NMF仙青葉通りビル8F TEL/ 022-393-9650

1977年1月11日生まれ 宮城県柴田郡大河原町出身

趣味 一人旅(47都道府県 海外42か国訪問)

特技 アームレスリング東日本大会優勝

   2005年から2010年まで全国大会出場 全日本選手権5位

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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