“介護で親子共倒れ”を避ける4つのポイント…親子で“お金について話し合う”が明暗の分かれ目
コロナ禍でなかなか親に会えない状況が続いている。ようやく、会えたと思ったら、久々に見た親の背中は丸く、動作も何だか覚束ない。まだまだ元気(そうに見える)とはいえ、老いは確実にやってくる。
そんな親の様子を見て、「そろそろ、何かあった時のことを考えておいたほうが良いかも」と感じた人も多いのではないだろうか?
そんな40代~50代の子ども世代にぜひ読んでいただきたいのが、6月21日に発売された『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(主婦の友社)である。著者は『キッパリ!たった5分間で自分を変える方法』などで知られるミリオンセラー作家の上大岡トメさん。ファイナンシャル・プランナーである筆者は監修を担当している。
本稿では、タイトルのように「親の介護」と「お金」に不安を抱える人が今できることを、本書のエッセンスを凝縮してご紹介しよう。
どんなに元気でも「75歳」を境に親と子の今後を考えたほうが良い
厚生労働省「平成30年度介護保険事業状況報告(年報)」によると、要介護(要支援)認定者(以下「認定者」)数は、平成30年度末現在で658万人。このうち、65歳以上の第1号被保険者は645万人(男性200万人、女性446万人)で、高齢者の増加に伴って、その数はいうまでもなく右肩上がりである。
内閣府「令和2年版高齢者白書」では、認定を受けた第1号被保険者のうち、前期高齢者(65歳~75歳未満)は73万人、後期高齢者(75歳以上)は572万人で、第1号被保険者の認定者に占める割合は、それぞれ11.3%、88.7%と、75歳を境にして、ぐんと認定者が増える。
また、要介護状態や寝たきりになっていない、日常生活に制限のない期間(健康寿命)は2016年時点で男性が72.14年、女性が74.79年。
つまり、どんなに親が元気に見えていても、75歳をメドに親子で今後のことを考える機会を設けることをお勧めしている。
介護や医療の公的制度のすべてを理解する必要はない
さて、それでは本書が発売されるまでの経緯をご紹介したい。昨年の初秋、懇意にしている編集ライターのジンさんから単行本監修のご依頼メールが届いた。本の内容は、現時点で介護未満の70代~80代の親を持つ40代~50代の子ども世代を対象に、親の老後や病気、介護、死後などに関する情報を1冊にまとめたものだという(仮タイトルは、「高齢親のトリセツお助け委員会」)。
まあ、この手の本は、これまでも数多出版されているのだが、本の大半をイラストレーターでエッセイストの上大岡トメさんにマンガで描いてもらうというではないか。「え? あのトメさんに? それはぜひとも一緒にお仕事したいです!」と喜んでお引き受けした。
本全体の監修を担当するとはいえ、まずは執筆担当者に必要な知識と情報を理解してもらわねばならない。そこで、東京都内にある主婦の友社さんに集合し、同社編集担当のコンさん(本書にも登場)、編集ライターのジンさん、トメさんの御三方に、FPである筆者がレクチャーをすることになった。この辺りのやりとりは、まさにマンガでも再現されている。
内容は、筆者自身の遠距離介護の体験談から、親が元気なうちにしておくべきこと、介護保険や医療保険の基本的知識、介護にかかるお金の目安とそれをまかなう方法、きょうだい間の情報共有について、認知症になった場合の備え、実家の片付け・整理・売却法、お墓や葬儀、相続などなど、広範囲にわたる。とにかく、高齢期の親とお金にまつわる、さまざまな心配事について「講義」をしたわけなのだが……。
一通り説明し終わり、ふーっと一息ついて、「みなさん、おわかりいただけました?」みたいな流れで、みなさんの顔を見渡す。そのとき、全員の顔に浮かぶ何ともいえない表情が忘れられない。それはまさに、困惑というか混乱というか焦りというか。開口一番に発せられた言葉は「むっ、難しいですね……」だった。
自分で言うのもおこがましいが、説明自体は、わかりやすかったと思う。手元には、カラフルで詳しい補助資料も用意してある。恐らく御三方も概要はおおむね理解できたはずだ。いずれも仕事柄、リテラシーは高めの方々である。
それなのに、“高齢の親の介護やお金”問題を難しく感じた理由は2つ。1つは、介護保険や医療保険をはじめ公的制度や法律、税制など、それ自体が非常に複雑で難解だということ。今の日本において、親の介護を賢く上手にやろうと思えば、介護保険など公的制度の活用は欠かせない。が、いかんせん、ベースとなる知識がない人には、かなり難しいと思う。逆にいえば、わからないのが当たり前だと思っても良いくらいだ。
それに近年、医療・介護関連は頻繁に改正等が行われている。「利用できないと思っていたが、変更で対象に含まれることになったのに、それに気づかなかった」などといったケースもある。知識がある人も、過信してはいけない。こまめなアップデートが必要なのだ。
もちろん、筆者自身もすべてを把握しきれているわけではないし、そのつもりもない。はっきり言って、全部知っておく必要はない。肝心なのは、キーワードだけでも抑えておくこと。例えば、医療費が高額になった時に負担軽減策として「高額療養費」という制度があることを知っているだけでもまったく違う。
さらに、覚えておくべきなのは、誰に聞いたら最新の情報が確認できるかという相談先の情報である。例えば、65歳以上の高齢者に関するよろず相談所といえば「地域包括支援センター」が挙げられる。
“人生100年時代”の親の介護はまさに「未体験ゾーン」への突入
そして難しいと感じるもう1つの理由は、物事への理解が段階を踏んで行われるものだからではないかと思う。一般的に、人の理解は「頭」「身体」「心」の3つの段階がある。頭で理解するというのは、そのしくみや論理がわかったということ。介護に関していえば、介護保険という制度のしくみや成り立ちなどの概要を学んで理解するというのがこれに該当する。
また、身体で理解するというのは、要するに体験や経験してみること。親が要介護状態になったとき、介護保険の要介護認定の申請をしたり、手続きしたりすると、頭でわかっていたことが身体(体験)を通じて、「ああ、こういうことだったのか」とより理解が深まる。
そして、心で理解するというのは、感情が対象に傾く、寄り添う状態をいう。親が介護サービスを利用して、それによって、親や子どものQOL(生活の質)が向上して、「介護保険って今の時代に必要だ。こんな介護サービスがあって本当に良かった」と感じられれば、それは心で理解できたということではないだろうか。
つまり、物事を理解するときにストンと腑に落ちる場所は、人や状況によって、それぞれ違うのである。筆者のレクチャーを受けた御三方は、おそらく「頭で理解できた」状態であり、まだ「身体」と「心」が追いついていない。なかには、「あの時の●●は、このことだったのか」と自らの経験を振り返って納得できた部分もあっただろうが、大半、身体や心が理解するまでには至っていない。なぜなら、人生100年時代に生きる私たちは、介護する子どもも介護される親もかつてない未体験ゾーンに突入しているのだから。体験したことがないこと、実感しことがないことだらけである。
本書は、指南書やノウハウ本というよりも、こんな先行き不透明な時代の中で、親と自分が共倒れにならないよう、なんとかベストな選択肢はないかを模索する子どもたちの奮闘記だと思っている。本書を通じて、親のこれからについて不安を抱えている方にお伝えしたかったのは、誰しもみんな同じように悩んでいるという事実である。
親の介護とお金が心配な子ども世代が今からできること
さて、それでは本書の主なターゲットである40代から50代の子ども世代が、今からできることは何か? 本書で詳しくご説明しているが、筆者がお勧めするのは、主に次の4つである。
(1)できるだけ親と会話する機会を設ける
介護というと、食事や入浴のお世話など、「直接介護」のイメージが強いかもしれないが、介護サービスを選択するなど環境を整えたり、必要なものを揃えたりといった「間接介護」も重要な介護である。平日は仕事がある。遠方に住んでいるなど直接介護ができなくても、気に病む必要はない。そもそも、親の話をじっくり聞くことから、すでに介護が始まっているのだから。
(2)介護経験者の体験談を聞いておく
本書では介護に必要な3つのキーとして「お金」「情報」「ネットワーク」を挙げている。すでに介護を経験している人の話を聞くというのも立派な情報収集の一つ。職場や身の回りで、親の介護をしている人の話を積極的に聞こう。ノリは、子どもが小さかった頃のママ友との情報交換だ。親の介護も、あんなふうに気軽に話題にすることができ、助け合えるのがベストだと思う。ただし、比較する必要はない。自分たちは「わが家の介護」を模索すれば良い。
(3)きょうだい間はこまめに連絡を取っておく
親の介護やこれからの問題は、ある意味、家族の一大プロジェクトである。一人で抱え込んではいけない。そのためにも、プロジェクトに参画できる人間は多いに越したことがなく、コアメンバーとなるきょうだい間の意思疎通は、親が元気なうちから意識して密にしておくのがベストだ。もし、きょうだい間が難しければ甥・姪や、他の親類・知人等でも良い。きょうだい仲が悪い、何事も非協力的という場合は、最初から“いないもの”として考える。自分ばっかり大変で、腹立たしいかもしれないが、何事も因果応報。“そのような人は、いずれ報いを受けるハズ”くらいに思っておけば、多少は気が晴れるのではないか。
(4)お金について親子間で話し合いをしておく
親の介護にかかるお金は親自身のお金でまかなうのが基本だが、親に預貯金がないことも考えられる。
認知症の介護を行う家族等を対象に行った調査(※)によると、介護費用の負担者は、要介護者(本人)が全額負担は62.8%となっている一方、家族が一部を負担が22.2%、家族が全額または大半を負担が12.2%と、本人以外の家族等が負担する割合が4割近くにのぼる。
親の判断能力が低下した場合の資産管理や相続なども含め、親がどんなこれからを望むのか話をしながら、それにかかる費用の捻出方法や管理について話し合っておきたい。
※ニッセイ基礎研究所の調査「認知症介護家族の不安と負担感に関する調査」/認知症(診断確定の段階を含む)の主たる家族介護者または家族介護者の配偶者である40~70代の男女個人を対象に2019年7月19日~23日に実施)
本書でも、「お金があれば大抵のことは解決できる」など、経験者がお金は不可欠であることを語ってくれている。それはある意味で真実だ。しかし、筆者は、お金さえあれば最良の介護・老後を迎えられるとは考えていない。
ただ、経済的に余裕があれば、選択肢の幅が広がることは確実だ。子どもが仕事のため直接介護を担うことができないのなら、費用を負担してアウトソーシングすることができる。
もちろん、年老いた親の面倒をみるなど、ごめん被りたい子どもも少なくないだろうが、今の親の姿は将来の自分である。多少なりとも、いずれ自分が身の回りのことが難しくなったとき、子どもに助けてもらえればと思っているなら、ここが正念場かもしれない。
(文=黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー)