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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

「今、中古マンション高く売れる」の罠…売出価格・時期を誤ると100万円単位で損

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
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「gettyimages」より

 中古マンション価格が上がり続けており、売却にはこれ以上ない環境のように見えますが、いくら恵まれた環境とはいえ、値付けを間違うとなかなか買い手がつかず、仲介市場で野ざらしになってしまうことがあります。いったん野ざらし状態になると、購入希望者が現れず、大幅な値下げが必要になり、それでもなかなか買い手がつかないといった事態になりかねないので注意が必要です。

2021年には売出から成約までの期間が短縮

 中古マンション価格の上昇が続いているので、いつでも売却希望価格で売れるのではないかと考えがちですが、実はそうとも限りません。市場の変化を予感させるようなデータがあるのです。図表1は、民間調査機関の東京カンテイが中古マンションの売出から成約に至るまでの期間と、売出価格と実際に取引された価格との価格乖離率を調べたデータです。まず、売出から取引成立に至るまでの期間をみると、2020年には上期が4.18カ月で、下期が4.15カ月、2021年は上期が3.29カ月、下期が2.89カ月と売れるまでの期間が短縮されました。グラフをみれば分かるように、売却までに4カ月前後かかる時期が長かったのが、2021年には2カ月台まで短縮されました。それだけ中古マンションの人気が高まり、購入希望者が増加、短期間で売れるようになってきたわけです。

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 首都圏 2022年下期の価格乖離率は-5.58%、4期ぶりに5%台へ (kantei.ne.jp)

売出から成約までの期間が長期化しつつある

 しかし、2022年に入ると若干様相が変化してきました。2022年上期は成約に至るまでの期間が3.11カ月と、2021年下期の2カ月台から3カ月台に伸び、さらに2022年下期は3.22カ月とわずかとはいえもう少し長期化しています。2022年上期、下期と2期連続で成約に至るまでの期間が長くなっているのです。もちろん、2010年代の前半のように4カ月前後かかっていた時期に比べると、まだまだ短期間で売れる環境であるのは変わりませんが、それでも売りに出せば、すぐにでも購入希望者が現れて成約できる――そういう環境ではなくなりつつあるのかもしれません。適切な値付けで、適切な時期に売りに出さないと、すぐには買主が見つからない、そんな環境に変わりあるようです。それに、いまひとつ価格乖離率も仲介市場の環境変化を示しています。

2022年は売出と取引価格の乖離率が拡大傾向

 価格乖離率というのは、売出価格と実際の取引価格にどれくらいの差があるのかを意味しています。乖離率が小さいほど値引きが少なく、売出価格や売出価格に近い価格で契約が成立することを意味し、乖離率が大きくなると、大幅な値引きをしないと契約が成立しない環境であることを示しています。

 その価格乖離率、2020年には上期が-7.15%で、下期は-6.05%でした。つまり、売出価格から6、7%低い水準で取引が成立していたことになります。けっこうな値引きが必要だったわけです。それが、2021年には上期-4.63%、下期-4.55%と、乖離率が4%台まで縮小しました。6、7%の値引きが必要だったのが、4%ほどですむようになったのです。しかし、2022年には上期は-4.85%と何とか4%台を維持したものの、下期には-5.58%と5%台まで拡大しました。5%以上の値引きが必要な環境になっており、2021年に比べるとかなり売りにくくなっていることを示しています。

3カ月以内に成約できる値付けが不可欠

 このように、成約に至るまでの期間が長期化し、価格乖離率が拡大する傾向が強まっているだけに、安易に売却を考えると失敗しかねません。適切な値付けを行って、適切な時期に市場に出すことが大切になっているといっていいでしょう。中古マンション価格が上がり続けているからと、強気一辺倒の値付けでは、購入希望者から見向きされず、中古市場で野ざらしになりかねません。いったん売りに出してなかなかお客がつかないと、「不人気物件」の烙印をはられ、「何か問題があるのではないか」といった勘繰りをされることになりかねず、大幅な値引きが必要になることが多いのです。適切な値付けで、短期間、できれば3カ月以内に契約が成立するような価格設定が大切です。

 と同時に、お客が付きやすい時期を選ぶことも重要です。梅雨時や真夏の熱い時期、また動きが鈍る寒い時期はどうしても購入希望者が少なくなります。できれば、春先の人の動きが活発になる時期などを狙って市場に出すのがいいかもしれません。

短期間で売却できる適切な価格設定が大切

 なぜ、3カ月以内に買い手がつくような値付けが大切なのかは図表2をご覧ください。これは、売出から成約までかかった期間別の価格乖離率の変化を表しています。一見して分かるように、成約までの期間が短いほど乖離率が低く、長くなるほど乖離率が大きくなります。つまり、短期間で成約できる物件は乖離率が小さく、売出価格に近い価格で成約し、売却までの期間が長い物件は、値引き幅を大きくしないと契約が成立しにくいということになります。

 2022年の場合、1カ月以内に売却できた物件の価格乖離率は-2.62%でした。たとえば、5000万円で売りに出した物件であれば、100%-2.62%で、5000万円の97.38%、4869万円で売却できたことになります。それが、売却までの期間が3カ月の物件の価格乖離率は-5.70%ですから、100%-5.70%の売出価格の94.30%で契約が成立していることになります。売出価格が5000万円であれば4715万円ということです。1カ月以内なら4869万円で売れたのが154万円も安くなってしまったわけです。

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首都圏 2022年下期の価格乖離率は-5.58%、4期ぶりに5%台へ (kantei.ne.jp)

8カ月かかると売出価格から1割以上安くなる

 さらに、売却まで4カ月かかった物件の価格乖離率は-6.95%で、5カ月かかると-7.95%に拡大します。8カ月かかると-10.48%と売出価格より実際の取引価格は1割以上低くなってしまいます。その後、多少の上下はありますが、11カ月かかると-11.12%まで価格乖離率が拡大してしまいます。いかに適切な価格設定が重要であるかがわかります。

 最初から、市場で受け入れられる価格で売りに出して、短期間で決着を付けることが大切。価格が上がっているからと欲をかいて、市場にそぐわない値付けをしてしまうと、短期間では客がつかず、図表2にあるように売却まで8カ月以上かかり、売出価格から1割以上安い価格でしか成約できないような事態になりかねないのです。その意味では、売りに出すときには、周辺の相場をシッカリと調べて、実際にいくらで契約が成立しているかを確認して、それにふさわしい値付けを行う必要があります。

値付けの視点が甘くなりがちなので注意が必要

 周辺相場の調査に当たっては、実際にいくらで取引が成立しているのかを不動産会社などで確認してください。ネット上や雑誌などのメディアに掲載されている価格はあくまでも売主の希望価格にすぎません。取引が成立している価格は、それより幾分低い価格になっているはずです。その「幾分」という範囲も場所や物件の条件などによってかなりの差があります。人気のエリアで、管理状態などがいいマンションであれば「幾分」の範囲が小さくなりますが、反対のケースもあります。売主は、自分が住んでいるマンションを売り出すことが多いでしょうから、値付けの査定がついつい甘くなりがちです。不動産会社の専門家などに客観的な評価を聞いて、より確実に売れる価格帯で値付けしなければなりません。中古マンションの市況を甘くみたり、自分が住んでいる物件だからといたずらに高く評価するのではなく、売れる価格を見つけることが何より大切です。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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