首都圏の中古マンション市場は、完全な“売り手市場”になっています。まだまだ上がるとすれば早めに買っておいたほうがいいかもしれないが、ここまで上がればそろそろ天井を打って、下落に転じるのではないか、そうなるとしばらく待ったほうが得策――いろんな考え方がありますが、さて実際にどうなるのでしょうか。
ほとんど値引きなしで契約が成立している
現在の中古マンション市場の過熱ぶりを示すデータがあります。不動産専門のデータバンクである東京カンテイがこのほど、『2021年中古マンションの売出価格と取引事例の価格乖離率&売却期間』を発表しました。価格乖離率は、中古マンションの売出価格と成約価格の格差を調査し、マンション仲介市場でどれくらいの値引きが行われているかを示しています。たとえば、5000万円で売り出された中古マンションが4800万円で成約したとすれば、(1-4800万円÷5000万円)×100で、価格乖離率は-4.0%です。この乖離率が小さいほど、値引き幅が小さく、売出価格に近い状態で売れる、売り手優位の“売り手市場”であり、乖離率が大きいとかなり値引きしないと売れにくい、買い手優位の“買い手市場“であるとみることができます。
その価格乖離率、図表1にあるように2012年には-9%台と売出価格より成約価格は1割近く安くなっていました。売り手からすれば、かなり値引きしないと売れない、買い手からすれば、相当な値引きが期待できる買い手優位の買い手市場だったわけです。
「2021年 中古マンションの売出事例と取引事例の価格乖離率」を発表 | リリース | 東京カンテイニュース | 東京カンテイ (kantei.ne.jp)
市場に出る前に売れる“瞬間蒸発”現象も
それが、2013年から価格乖離率が縮小、2013年の下期には-6%台まで縮小し、長く-6%台が続いたあと、2020年上期にはいったん-7%台に下がったものの、下期には-6%台に戻し、2021年上期には-4.63%まで縮小、下期は-4.55%とさらに縮小しました。2012年の半分以下の水準であり、値引き幅が極めて小さくなっています。
平均で-4.55%ということは、なかには築年数が長い、交通アクセスが悪いなどの悪条件が重なった、-10%以上の物件もあるでしょうから、逆に好条件が揃った物件であれば、ほとんど値引きなしで売れているといっていいでしょう。売り手優位の、完全な売り手市場です。
仲介大手の営業担当者によると、「人気エリアではウエイティング客が多く、あの物件の売りが出れば言い値で買うというお客もいます」という状況で、なかには市場に出ることなく、登録客に売れてしまう“瞬間蒸発”という現象もみられるほどです。
売却期間が長いと1割前後の価格乖離率に
ですから、売却までにかかる期間も短くなっています。先の図表1をみると、2014年には売出から売却までの期間は平均すると4カ月台だったのが、2015年には3カ月台に縮小、その後2020年には再び4カ月台に戻ったものの、2021年に上期には3.29カ月と4カ月を切り、下期には2.89カ月と3カ月以下になりました。調査に当たった東京カンテイによると、「売却期間が3カ月を切ったのは、2010年下期以来、22期ぶり」だそうです。つまり、11年ぶりに売却期間が2カ月台になったわけです。
この売却期間と価格乖離率の関係をみると、図表2のようになります。折れ線グラフの傾きからも分かるように、売却期間が短いほど価格乖離率が小さく、長くなれば乖離率が大きくなります。たとえば、1カ月以内に契約が成立した物件の価格乖離率は2021年が-2.41%で、2020年は-2.97%でした。それが、2カ月以内になると2021年が4.55%で、2020年が-5.22%、9カ月以内だと2021年は-9.55%ですが、2020年は-10.56%と二桁台に達します。2021年は10カ月以降も-9%台ですが、2020年は-11%に拡大しています。
なかなか契約が成立しないまま、仲介市場で野ざらしになると、1割前後の大幅な値引きを行わないと売れません。完全な売り手市場とはいっても、すべての物件がすんなりと売れるわけではないので注意が必要です。
「2021年 中古マンションの売出事例と取引事例の価格乖離率」を発表 | リリース | 東京カンテイニュース | 東京カンテイ (kantei.ne.jp)
新規売出件数が減少から増加に転じている
問題は、この完全な売り手市場がどこまで続くのかということですが、東京カンテイでは、「2021年下期には価格高騰に伴って在庫数が増加に転じる動きも出始めている」としています。これまでは価格高騰によってまだまだ上がる、売るのはまだ早いと売り惜しみ現象が生じた結果、売出件数が減少し、在庫も減り続けていたのが、潮目が変わりつつあるというのです。
事実、東日本不動産流通機構による四半期ごとの中古マンションの売出件数をみると、2019年には5万件前後だったのが、2022年1月~3月には3万9400件と大幅に減少しました。背景には上昇期待の売り惜しみ減少があったとみられますが、2022年4月~6月には4万2214件に回復しているのです。売主のなかには、「ここまで高くなっているのだから、そろそろ限界ではないか。値下がりが始まる前に売っておいたほうが得策だ」と売りに転じる人が少なくないのかもしれません。
中古マンションは新築以上に上がっている
東日本不動産流通機構の月々のデータをみても、新規売出件数は2021年8月の1万2319件からジワジワと増加、2022年6月には1万4461件に達し、在庫件数は2021年6月には3万3641件だったのが、2022年6月には3万7179戸と前年同月比10.5%の増加でした。買い手からすれば、売出件数や在庫件数が減って選択肢が限られた状態だったのが、物件数が増えて、選択の幅が広がり、売主との交渉に当たっても指し値を入れる余地が大きくなっているのではないでしょうか。
もちろんこのまま、いきなり売り手市場から買い手市場に転じるとは考えにくいのですが、それでもジワジワと潮目が変わる可能性はありそうです。
平均価格の動向をみても、図表3にあるように首都圏の新築マンションは2012年の平均価格4540万円から、2021年には6260万円に37.9%の上昇ですが、実は中古マンションはもっと上がっています。2012年の平均2530万円が、2021年には3869万円に、52.9%も上がっているのです。
Microsoft Word – 全国発表資料2021年.docx (fudousankeizai.co.jp)
sf_2021.pdf (reins.or.jp)
売り手市場から買い手市場に変化の可能性も
その結果、新築マンションと中古マンションの価格差をみると、2012年には44.3%だったものが、2021年には38.2%に縮小しています。つまり、中古マンションの割安感が6.1ポイント低下している計算です。
新築に比べて中古が安いのは、完成後の築年数に応じて老朽化が進んでいたり、住宅設備が傷んでいたりするため、リフォームなどに費用がかかるなどのデメリットがあるからなのはいうまでもありません。そのデメリットを考慮しても割安感があるかどうかは、新築に比べてどれだけ安いのかが影響してきます。その差がジワジワと縮小しているのですから、中古マンションに目を向けていた人たちの考え方も変わる可能性があるのではないでしょうか。
いつとは断言はできませんが、意外と早くその潮目の変化が顕在化するときがくるかもしれません。中古マンションの売り買いを考えている人は、その点を念頭においてタイミングを考えていく必要があります。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)