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「タワマン最上階に住んだら地獄だった」は本当か…夏は冷房入れても蒸し風呂状態

協力=榊淳司/住宅ジャーナリスト
「タワマン最上階に住んだら地獄だった」は本当か…夏は冷房入れても蒸し風呂状態の画像1
※写真は本文内容とは無関係です(「gettyimages」より)

 タワーマンション、特にその最上階での生活に憧れを抱く人は少なくないかもしれない。だが、実際に住んだ経験のある人からは「地獄だった」「不便で仕方ない」という声も聞かれる。賃貸だと家賃が月100万円以上、購入だと数億円かかることも珍しくない高級物件であるにもかかわらず、なぜ不評の声が聞かれるのか――。専門家に話を聞いた。

 まずは経験者の話を聞いてみよう。かつてタワマン最上階に住んでいた40代男性はいう。

「私が住んでいたのは東京都内の物件なので、地方だと事情が変わってくるのかもしれませんが、周囲に遮るものがなく、夏は日当たりが良すぎて、一日中クーラーを入れても、とにかく暑くて蒸し風呂状態、そして、まぶしい。ちょっとコンビニに買い物に行くのでも、エレベーターで下に降りて上がってくるまで、ものすごく時間がかかる。私が住んでいたときはありませんでしたが、東日本大震災のときには都内のマンションで数日間エレベーターが使えないところも発生していました。いくら『自家発電があるから大丈夫』といっても、安全点検やら故障やらで止まるときは止まるでしょうし、そうなればタワマンの最上階は陸の孤島状態。水などの重い荷物を部屋まで運べないどころか、荷物がなくても30階や40階の自室まで上り下りできるものではない。エレベーターが止まっても自分が階段で行き来できる範囲の階に住むというのは、結構大事だなと感じています」

 なぜタワマン最上階の物件はデメリットが多いのか。住宅ジャーナリストの榊淳司氏はいう。

「タワマン最上階のデメリットは大きく3つあると考えます。

(1)室内の温度が『熱く』なること
(2)マンション外部と時間的・距離的に最も『遠い』こと
(3)最上階であるがゆえに『揺れ』が避けられないこと

 まず(1)について、タワマンに限らず、マンションの最上階は防水加工が最優先で断熱は二次的な配慮にならざるを得ません。さらに、最上階以外の住戸は日照面は外壁やサッシュ、窓など側面のみ。それでも南面住戸は夏場の日中はエアコンをつけっぱなしにしないと過ごせません。これに対し最上階住戸は、屋上部分が一日中直射日光にさらされるので、日照を受ける面積が数倍以上に増えるケースがあります。室内温度が上がるのも当然の構造です。住戸によっては『灼熱地獄』という状態になってもおかしくありません。

 次に(2)について、タワマンの最上階は、外部から見ると一番遠いところにあり、タワマンの外に出るのにもっとも時間と労力を費やす場所にあります。普段は『エレベーターが来なくて不便』程度の不自由さです。特にお出かけするときにはエレベーターに乗るまでにもっとも多くの待ち時間を費やすのが最上階。これは数学の確率論で導けば自明。不便だけだったらいいのですが、1分1秒を争う場合は困ります。例えば心臓病や脳梗塞で救急車を呼んだ場合、救急隊が最上階住戸に到着するまでにも、そこから搬出するにも多大な時間を要します。これは往々にして命の保全にかかわります。

 最後に(3)について、まず最上階あたりは365日24時間、揺れています。風が吹くからです。最上階住戸の浴槽に水を張った場合、常に水面にはさざ波があるといいます。地震の時には地上で揺れが収まったあとも、最上階あたりでは揺れが続きます。ときにそれは何分間にも及びます。東日本大震災のときには、その揺れ幅が何メートルにも感じたという証言もたくさん見かけました。その体験をなさった方にとっては、言い知れぬ恐怖感であったかと推察します。

 多くのタワマンは、揺れを力づくで抑えるのではなく、免震ゴムの作用などを利用して揺れを逃がす仕組みになっています。よくいえば『しなやかに』に揺れを受け止めるのです。建物を倒壊させない代わりに、揺れの吸収で事なきを得ようという仕組み。それによって最上階は最も多くの揺れのエネルギーを受け止めることになります。そういう状態に平気な人はいいのですが、三半規管が弱い人は体調不良につながるようです。統計上の数字はありませんが、タワマンの上層階では、新築入居後数カ月で一定数の退去・引越しが発生するという現象は不動産業界では割と知られる『常識』です」

(文=Business Journal編集部、協力=榊淳司/住宅ジャーナリスト)

 当サイトは7月7日付記事『タワマンに住んで後悔・退去した人たちの理由…住民トラブル、騒音、体調不良』でタワマンに住むデメリットについて報じていたが、以下に再掲載する。

――以下、再掲載――

 タワーマンションが売れている。2000年に火がついたタワマンブームは20年以上が経過しても衰えを見せていない。ニッセイ基礎研究所の調べによると、東京23区内で分譲タワマンに住む世帯数は、2005年の5.5万世帯から2020年には16.5万世帯と約3倍に増加した。アベノミクスに沸いた2013年以降の第2次タワマンブームでは、都内北部のほか都市郊外や地方都市へのタワマン供給が目立つようになっている。

 人気化に伴って価格も上昇の一途をたどっている。2005年を100として算出される価格指数(ニッセイ基礎研究所算出)では、2022年の東京23区のマンション価格は92.4%の上昇となっているのに対し、タワマン限定では120.6%の上昇。タワマンのデベロッパーはカンカンの強気だ。

 ところが、それと並行してSNSなどで拾える人々の声をみると様相はにわかに異なってくる。タワマンに注がれる「シニカルな視線」の可視化が進んでいるのだ。以前からタワマンの威圧感や、地震の際の揺れやすさはよく指摘されていた。それに加えて、近年では住民間で交わされる微妙な価値観のさや当てや、人間模様を面白おかしく戯画化したテキストがTwitterで注目を集めている。書籍化され幅広く知られるようになった、いわゆる「タワマン文学」の誕生である。都市に生活する「新しきブルジョアジー」というべき人々の間で生まれては消える、格差や嫉妬心のほろ苦い味わいは一読に値するものだ。その舞台であるタワマンは、都市住民にとって今、はたしてどのような存在なのだろうか。

「タワマンへの懐疑」広がるも「住めるなら住みたい」人が多数派

 住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、近年、世間において「タワマンへの懐疑」が広がってきたと語る。

「この2年くらいで、タワマンについての世間の風向きは明らかに変わりました。私が10年前にタワマンについて書き始めた時は称賛一色だったのが、この取材もそうかもしれませんが、否定的な記事が受けるようになっていますね(笑)。地べたからタワマンを見上げる人々の、『あんなに高くて威張っているようなマンションはなんだか変だ』という素朴な意見が市民権を得るようになってきたのだと思います」

 タワマンはもともと好き嫌いが分かれやすいものだ、と榊氏は言う。住みたい人(ワナビー)や住民にとって、タワマンは立派で、都市生活の粋を具現化した憧れの対象であり、自尊心の拠り所である。ところがそれ以外の人にとっては、パッと見の違和感や威圧感を与える巨大な建物でしかない。

「欧州では、タワマンが低所得者向けの公営住宅として建設されることも少なからずあり、憧れられるような住宅ではありません。米国でも、子育て世帯では地べたが遠いタワマンに住むことなどありえないと考える人が多いのです。ただしアジアでは、ドバイや韓国、中国でもタワマンは好意的に受け入れられています。日本でも、私の肌感では、7~8割方の人がフワッと、タワマンに住めるなら住んでみたいと思っている気がします」

 タワマンに対して、好意であれ否定であれ強い思いを抱く人はともに少数派だというのが、榊氏の見立てだ。

住民の「タワマン離れ」は「見栄の張り合い」と「健康問題」から起こっている

 タワマン住民がタワマンを離れるケースについても榊氏に聞いてみた。タワマン住まいを後悔し、退去に至る理由は主に2つあるという。

「よく聞くのは住民トラブルと健康問題です。前者は、タワマン住民の一部に意識されている『階層ヒエラルキー』が原因となっているようです。東京湾岸や川崎市の武蔵小杉など、エリートサラリーマンやパワーカップルでも手が届くタワマンを好む人のなかには見栄っ張りが少なくありません」

 子育て世帯は幼稚園や学校を通じて親同士のつきあいが発生する。その『子育てコミュニティ』において、より高い階数、より広い間取りに住むママ友に対して劣等感にさいなまれた女性が、引っ越したいと言い出し家庭内で激しい言い合いになったり、あげくに退去したりするケースがあるというのだ。メンタルが弱い人はタワマンに向いていない、ということなのだろうか。

「健康問題というのは、高層階での生活が体質に合わない人がいるようです。タワマンは免震構造のため、上層階では気づかない程度のわずかな揺れが常に発生しているといわれます。強風や地震が起きると、もちろん低層マンションより大きく揺れます。そのため、三半規管が弱い人は体調を崩しやすくなることがあるのです」(榊氏)

 湾岸タワマンの近くで開業している内科医によると、タワマン住まいの子どもは耳の病気になりやすいという。これはあくまでもその医師の実感で、大規模調査などのエビデンスがあるわけではない。とはいえ、このような話は引きも切らず耳に入ってくると榊氏は語った。

エレベーター待ち、災害への弱さ、修繕コストの高騰……デメリットは少なくない

 ここで、改めてタワマン住まいのメリットとデメリットをまとめておこう。

「タワマンのメリットの第一は眺望です。100メートルの高さから都心の夜景を眺めればその美しさは格別で、達成感を得られるでしょう。高収入の世帯が多く住民の同質性があり、セキュリティの面でもメリットがあるといえます。

 ただし、メリットを裏返せばデメリットになり得ます。高層で住戸の多いタワマンでは、外出の際に歩く距離が長くなり、その上エレベーター待ちが発生します。朝の出勤の際、タワマンの敷地を出るまでに15分かかるのが日常という物件もあります」

 子育て世帯の場合、子どもだけで外出させるのが難しい点も気にかかる。結果、外出の機会が少なくなりがちな点もデメリットになるだろう。構造面から発生するデメリットもあるという。

「タワマンは地震や突風で揺れやすいことに加え、低層マンションに比べて地震などの災害に強くありません。2019年秋の台風で地下の電気室が浸水したタワマンでは、エレベーターやトイレが使えなくなり自宅で生活することが難しくなりました。隣の部屋や上下階の部屋の音が響きやすい点もよく指摘されます。住戸と住戸の間が鉄筋コンクリートで仕切られている低層マンションとは違い、タワマンは吸音材と石膏ボードで仕切られています。接合部の施工が甘い物件では、隣戸の音が響きやすく問題化しているのです。エレベーターなどの共用設備も多いことや、高層ゆえの外壁修繕の難しさなどから、管理費・修繕費の負担が大きいのもつらいところです」

 インフレの波は施工・修繕費にも当然のようにのしかかっている。修繕積立金で賄いきれなくなれば、一時金の負担も生じてくるだろうと榊氏は予測する。タワマン住まいで味わえる都市生活の先端を行く悦楽と、まさに「地に足をつけた」低層マンションや一戸建ての生活は、まったく異なるものであるようだ。

(文=日野秀規/個人投資ジャーナリスト、協力=榊淳司/住宅ジャーナリスト)

榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト

榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト

不動産ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。
東京23内、川崎市、大阪市等の新築マンションの資産価値評価を有料レポートとしてエンドユーザー向けに提供。
2013年4月より夕刊フジにコラム「マンション業界の秘密」を掲載中。その他経済誌、週刊誌、新聞等にマンション市場に関するコメント掲載多数。
主な著書に「2025年東京不動産大暴落(イースト新書)※現在8刷」、「マンション格差(講談社現代新書)※現在5刷」、「マンションは日本人を幸せにするか(集英社新書)※増刷」等。
「たけしのテレビタックル」「羽鳥慎一モーニングショー」などテレビ、ラジオの出演多数。早稲田大学オープンカレッジ講師。
榊淳司オフィシャルサイト

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