2019年、金融庁の報告書で「老後が20~30年続くとすると、公的年金以外で必要な資金は単身で2000万円」と発表された。病気や介護も想定すると、安心して老後を過ごせる目安は2000万円+1000万円=3000万円ともいわれる。
薄々感づいてはいたものの、現実的な数字を突きつけられて愕然とした。「お金が足りない」「このままでは生活保護しかない」――こんな声も多数耳にする。ギリギリでどうしようもないとなる前に、可能な限り対策は考えておくべきだ。
その一つが、所有している不動産を活用するという方法。不動産や金融については難しい話が多くわかりづらいが、これから老後を迎えるにあたって、基本的な知識は知っておきたい。そこで、不動産コンサルタントの小林寛史氏に話を聞いた。
「リースバック」で自宅を現金化する方法
まずは、住んでいる家が持ち家の場合は「リースバック」というやり方がある。家を買い取ってもらい、その後も住み続けられるというシステムだ。
「リースバックは、たとえば持ち家に住んでいる人が突発的に病気になったり会社が倒産したりして、収入源が途絶えた状況になったときに選択肢となります。住宅ローンの支払いができない、税金を滞納している、生活費もままならない……といった差し迫ったときですね。これはまったく珍しいことではなく、よくある案件です。最近では、漠然と『家を売りたい』と連絡をいただくオーナーさんの多くにおすすめしています」(小林氏)
最初から不動産業者に依頼する人もいるが、銀行や弁護士経由で話を持ちかけられることも多いそうだ。
「所有権を売ることにはなりますが、ローンを払えない、お金不足で生活できない、という状況の方にとってはいいシステムです。滞っている税金や払えない借金の部分を立て替えて、さらに現金も入ってくるわけですから。放っておけば、債権者に取られてしまうだけですからね。ただ、そのまま住み続けることはできますが、リース料(家賃)の支払いは必要になります」(同)
リースバックを希望する人は焦っていることが多く、たとえば3600万円で売れる物件を3000万円で売ることになってしまうケースもあるという。それでも、本当に困窮したときは頼りたくなるシステムだ。
重要性を増す「家族信託」
ここ2、3年で浸透してきた「家族信託の重要性」についても、知っておきたい。
「これまで相続で重要とされてきたのが遺言書ですが、その内容をめぐってトラブルになるケースもあります。そのため、生きているうちに双方の希望通りの相続を決めることができる家族信託が重要になります。長男が中心になって話が進められることが多いですが、もちろん遺したいというご本人から依頼されることもあります。そういう方は多くの不動産を所有していることが多く、『遺言書だけでは心配、死んだら絶対に紛争が起きる』という方にとって、家族信託はより重要ですね」(同)
また、認知症などのリスクを考慮しても、家族信託は必要だと小林氏は続ける。
「たとえば認知症になると、会話の内容が変わってしまうケースもあります。今日は親しい友達でも、明日になったらまったく覚えていない。私も、家族信託の話を進めているオーナーさんに会いに行ったら『お前、誰だぁ!』なんて言われて水をかけられたことがあります。また、離婚して精神的に不安定になり、正常な判断ができなくなるケースもありますから、遺す側も遺される側も、もめないうちに話し合っておきたいものです。手続きは司法書士か弁護士のところに行けば、簡単に済みます」(同)
これから相続問題に直面しそうな人にとっては、家族信託は安心材料となるだろう。また、老後資金への不安も減るというものだ。
売り手側が有利な「等価交換」とは
さらに、土地や家を一つでも所有していれば、「等価交換」は有効な手段になるという。
「等価交換は売り手側にメリットが多いので、話を持ちかけられたら真剣に検討した方がいいでしょう。相手がその土地や家を強く欲しがっているケースが多く、同等以上のものに交換してもらえます。売り手側にとっては好条件となるのです」(同)
コロナ禍もあり、地方移住が増えている昨今。これまで価値がなかった場所に突然、価値が生まれる可能性もある。少しでも先の不安をなくしたいと考えるのは人間の常だ。老後資金を確保する方法の一つとして、不動産の活用を頭に入れておきたい。
(文=桜木ピロコ/ライター)