今や住んでいることがステータスとなっているタワーマンション。不動産経済研究所が発表した「超高層マンション市場動向2017」によると、2017年以降に完成予定の高層マンションは日本全国で285棟もあり、東京都心部や東京湾岸エリアを中心にハイペースで供給が進んでいる。
現代の日本人にとって、それだけタワマンは“憧れ”であり、人気の物件なのだ。しかし一見、快適そうに見えるタワマンも「いいことずくめ」というわけではなさそうだ。なかでも意外と知られていないのが、高層階がもたらす「健康被害」の可能性である。
タワマン居住で健康被害が発生する?
そもそも、タワマンの高層階に住めば、少なくとも地上から15m以上は離れた場所で生活することになる。そこで危惧されるのが、抑うつなどの症状だ。
建設省建築研究所(当時)の渡辺圭子教授が1994年に発表した論文「集合住宅のストレスと居住者の精神健康」は、「高層集合住宅はその高さゆえに、外の明るさ、雨の音、樹木の緑といった外界による刺激が乏しい」と指摘する。
また、感覚遮断研究では「刺激を極度に絶たれた被験者は無気力、抑うつなどの症状に陥りがち」だといい、渡辺教授は、高層階でもそれと同様の傾向が表れるのでは、と類推している。
さらに、高層階での居住は「流産率が高まる」との報告もある。公衆衛生学の権威で『コワ~い高層マンションの話』(宝島社)の著者である逢坂文夫氏は、94年の研究「住居環境の妊婦に及ぼす健康影響について」で「高層階の居住者ほど流産の割合が高くなる」と発表しており、10階以上の高層階に住む女性の流産割合は38.9%に達するとしている。
その原因についてはまだわかっていないが、同研究によると、戸建てに住む女性の流産割合は8.2%なので、高層階に住む女性との差は4倍以上になる。眺望の良さはタワマン高層階の魅力のひとつだが、それが逆に健康を蝕む要因になっているのだとしたら、驚きである。
タワマン特有のマウンティングもストレスに
また、不動産投資顧問で金森実業代表取締役の金森重樹氏はこう語る。
「高層階の住人は富裕層が多いため、その直下の低層階に住んでいると、『上と比べれば自分はたいしたことない』といった劣等感を抱きやすい。それが慢性的なストレスを生み、健康を害する可能性も考えられる」(金森氏)
文部科学省のレポート「日本の『健康社会格差』の実態を知ろう」では、学歴や所得と健康状態の関係について、いくつかの仮説が挙げられているが、そのひとつに「相対的剝奪仮説」という項目がある。
相対的剝奪感とは、周囲と自分を比較したときに芽生える劣等感やあきらめ、ねたみといったマイナスの感情のこと。同レポートでは、相対的剝奪感を持ちやすい状況にある高齢男性は、そうでない人に比べて死亡リスクが1.2倍も高いという研究結果も報告されている。
「外から見ればタワマンに住んでいる人に憧れるかもしれませんが、マンションによっては高層階の住人が下層階の住人を低く扱うというマウンティングがあります。賃貸か購入かによっても序列があり、そのプレッシャーがマンションに住んでいる限りはずっと続くため、ストレスの原因になることもあり得るのです」(同)
仮に人並み以上の暮らしをしていても、まわりがそれ以上に裕福なら、劣等感を抱くことになる。「階層」というわかりやすい格差が存在するタワマンの住人は、相対的剝奪感が芽生えやすい環境といえるのではないだろうか。
同調圧力が強い?タワマン内の住人コミュニティ
しかし、「それでもタワマンに住みたい」という人もいるかもしれない。その場合は、どんな対策を立てればいいのか。金森氏は「必要なのは出費に対する見極め」とアドバイスする。
「居住用としてタワマンを購入する人の多くは経済的に恵まれていて、それなりに社会的信用も高い。しかし、多くのタワマンでは住人コミュニティ内の同調圧力が強く、保有する車のグレードや余暇の過ごし方、さらに子育てなどについて、ある一定のレベルを超えていないと仲間外れにされてしまうことがあります。
タワマンに住めば、そうした生活費以外の部分での出費が増加しがちです。そのため、そうした生活に耐えていけるかどうかを見極める必要があるでしょう」(同)
タワマン購入が身の丈に合っていなければ、それだけ経済的にも健康的にもリスクが高まるということなのかもしれない。
(文=喜屋武良子/清談社)