自動車同士の交通事故で、一方が横転。ぶつけた側の保険会社担当者が、一旦は過失割合を「10対0」と認定したものの、被害を受けた側の積荷が高額であることがわかると、弁護士を挟んで再交渉。10割の負担を避けようとしているとして、SNS上で関心を集めている。さらに、その後は加害者側の保険会社が、弁護士を連れて損害確認に訪れるなど、異例の展開が続いているという。この保険会社の対応について、業界関係者に話を聞いた。
X上に10月17日、軽トラックが横転している写真とともに、「ブツケられて横転しました。 やっと病院出れそうです 最悪だぁ~」とのつぶやきが投稿された。投稿主はバイクショップのオーナーで、当日納品予定だったバイクを載せていたが、軽トラックとともに商品であるバイクも全損となったという。この模様については10月21日付当サイト記事『交通事故で保険会社「10対0」認定→積荷が高額と判明すると撤回…あり得る?』において紹介している。
重傷ではないと語っているものの、ケガの影響で右肩と右足には力が入らない状態となったと報告している。投稿者が負ったケガや被害については、もちろん心からお見舞い申し上げるが、毎日全国のどこかで同じような事故は発生しており、特に珍しくもないように思える。この事故が大きな注目を浴びている要因は、加害者側の保険会社の対応だ。
<今回の横転事故、10対0で決まり変えたりしませんと担当者行ってましたが、積載していた車両が高額だと分かったらいきなり弁護士さん入れて連絡してきました。10対0は撤回しますだって保険金支払額下げるのが見え見えだょ めっちゃ体痛いのに散々だぁ~ 支払い渋い某保険屋さん>
当初は事故の過失割合を「10対0」と認めていたにもかかわらず、示談の書類を取り交わそうとしていたタイミングで、急遽、前言撤回。弁護士を通して過失割合を見直すと通告してきたという。この報告を受け、SNS上は保険会社の対応を非難する声が続出。わずか数日の間にこの投稿は200万回以上表示されるほど拡散され、投稿主を応援するリプライも殺到したのだ。
とはいえ、一度は認めた「10対0」の過失割合を反故にしても、10割の損害賠償を求めるのは難しいと山岸純法律事務所の山岸純弁護士は言う。
「基本態様が『10対0』となるのは『停車時に後ろから衝突された場合』くらいで、そんなに例はありません。とすると、保険会社の人が、ぱっとみて『10対0』と言ったけど、後から資料を見てみたら(顧問弁護士に突っ込まれて)そうではなかったという可能性もあります」(山岸弁護士)
弁護士を連れて被害者のもとを訪問する異例対応
したがって、前言を撤回して過失割合を争うということは珍しくないとの見方を示す。だが、さらに事態が進展した。被害者のもとへ、加害者側の保険会社担当者が訪れた。しかも、弁護士を連れて現れたというのだ。
<本日某保険屋さんが鑑定士さん+弁護士さんと損害車両確認来ました。弁護士さんが何か自分に話そうとした時にすかさず当方弁護士の先生とお話下さいと言いました。面食くらった顔してました 20年以上この仕事していて弁護士さんが損害確認に来るなんて初めてです。そんなに損害金払いたくないんですね>
損害保険の業界関係者は、弁護士が確認に来ることは極めて珍しいと語る。
「この投稿者は保険会社の担当者と鑑定人、そして弁護士と書いているので、実際に損害の確認作業は担当者と鑑定人だけでしょう。仮に弁護士が車両などを見ても損害のことはわからないはずです。何か被害者の方から言質を取るためか、何らかの交渉をするために担当者に頼まれて来ただけだと思います」
今回、事故に遭って全損となったバイクは、本田技研工業(ホンダ)がかつて製造・販売していた「CBX1000」とのことで、車体やカスタム費用等を合わせて100万円と超えるという。だが、いくら人気があるとはいえ、古い車体のため、損害額でもめることが多いという。
「バイクはファンの間ではプレミアが付いて高額で取引されますが、減価償却で計算されると0円になったりすんですよね。なんとか、市場価格で賠償してもらえるように弁護士を立てて交渉するしかないですね」
この保険会社について、ある特定の会社ではないかと推測する向きが少なくないが、なぜそのような声が上がるのか。
「今回の事故担当の保険会社がどこか、今のところは明らかになっていないので、むやみに邪推するべきではないと思います。ただ、業界内では某社について、“支払いが渋い”というのは知られており、それがネット上の憶測につながっているのでしょう。
実際に私も某社との保険交渉を何度も行っていますが、毎回、過失割合でもめます。とんでもない理屈を持ち出し、自分の顧客側の過失を低くしようとしてくるので、交渉が長引くんです。毎回、『自分の顧客が被害者側だったとしたら、その理屈と過失割合で納得できるのか』と文句を言いたくなるくらいです」
弁護士の見解は、止まっているクルマに追突といったケースでない限り、「10対0」は難しいというものだったが、保険会社側の見解としてはどうか。
「必ずしも止まっていなくても、『10対0』になることはあります。動いていた場合でも、急ブレーキをかけたなど無理な運転をしていない限り、追突は『10対0』となるケースが珍しくありません。ただ、横からぶつかって横転とかであれば、『10対0』にはなりにくいかなと思います。いずれにしても、どのような状況で事故に遭ったかをドライブレコーダーなどの動画で録画していれば、確認がとれるので、今の時代は必須ですね。仮に全方向でなくて前だけを録画するタイプのレコーダーでも、追突された際の状況はわかるので、必ずしも相手車両が映っていなくても証拠になります」
今回の事故の被害者が、仮に一定程度の過失があるとされた場合、どのような対処をすることがよいだろうか。
「まずは自分が加入している保険会社にも確認することが重要です。仮に『9対1』になったとして、その1割の損害をまかなうために保険を使うのか、という点で十分な検討が必要です。保険を使えば、その際には自身の出費は抑えられますが、保険の等級が上がってしまい、翌年以降の保険料が高くなります。しかし、一部の損害保険会社の商品では、その保険会社の鑑定で『10対0』と判断されれば、車両保険などの保険金を使っても、翌年以降の等級が上がらないという特約が付いているケースもあります」
今回の事故の被害者は、事故に遭った苦しみとともに、その後の保険会社の対応にも悩まされるという“ダブルの被害”に遭っている。保険会社には保険金の出し渋りではなく、被害者の心身ケアにも心を割いてほしいものである。
(文=Business Journal編集部)