6月初旬に『都心集中の真実――東京23区町丁別人口から見える問題』(ちくま新書)という本を上梓したので、その内容についてお知らせしたい。
東京23区の人口が増え続けているのは周知の通りだ。23区人口は2035年に980万人まで膨張すると予測されている。なかでも増加が著しいのは千代田、中央、港の都心3区。足立、葛飾、江戸川など下町の伸びは鈍く、23区内でも人口格差が生じている。
実際のところ、どこで、誰が増えているのだろうか。本書では町丁別人口分析から、つまり~町~丁目という単位で統計を分析し都心集中の実態に迫った。
たとえば、外国人、女性、子ども、そして貧困層と富裕層が増えた地域を分析すると、大久保一丁目では20歳の87%が外国人といった衝撃の数字が見えてきた。23区人口は過去30年で日本人は67万人増加したが、外国人も29万人増加したのだ。就労外国人の枠を広げる方針が政府から出たが、もはや日本は外国人がいなければ成り立たない。特に都心はそうなのである。
外国人というと労働者のイメージがあるが、江戸川区では日本人よりインド人のホワイトカラー率が高い。2001年問題で流入したIT技術者が、その後も定着し、さらに増えたからである。これからの日本ではブルーカラーだけでなく、ホワイトカラーのエリートも外国人が増えていくのだろう。
また、よく言われる23区内の格差であるが、詳しく見ると、港区と足立区の格差は昔は小さかったことがわかる。港区にも工場地帯が多く、ブルーカラーが多かったからだ。しかし現在はホワイトカラーが増えた地域ほど所得が伸びている。しかも職業分類が不明の人が増える区ほど所得が高いのだ。正確なところはわからないが、いくつもの仕事をする「複業」の人が都心で増えていて、彼らが比較的所得が高いからではないかと思われる。
次に男女差に目を向けると、中央区の30−50代の未婚女性はこの10年で6000人も増えている。また未婚女性と未婚男性の人口比率を見ると、未婚女性は東横線沿線に多く住んでいることがわかった。
他方、未婚男性が多いのは東京の東側の下町である。これは所得が低く結婚をしない男性が多いからだと推測される。
中央区などの都心に女性が増えたのは働く女性が都心を好むからだ。女性の就業率が高い町丁を地図にすると、中央区、墨田区、江東区、港区など隅田川や湾岸沿いに集中していることがわかった。
だが未婚女性だけが増えているのではない。子どもについては、江東区東雲1丁目だけで10年で2400人増加しており、南千住も夫婦と子どもの世帯が増えている。そのため南千住は昨年の地価上昇率ナンバーワンになったのだ。
郊外で増えるパラサイトシングル
それに対して郊外は人口減少が始まった。たとえば2016年の八王子と立川の出生数は合計で4976人だが、港区と中央区は合計で5022人いる。中央区と多摩ニュータウンのある多摩市は人口規模は同じだが、35歳以上の未婚女性も、結婚している女性も、子どもの出生数も、働く女性の割合も中央区のほうが多い。
つまり中央区は、未婚女性も既婚女性も子どものいる女性も、働く女性も多い。働くからこそ所得が高まり、働く女性は都心に集まってくるのである。
対して郊外は、専業主婦の街である。最近は30代以上でも結婚せずに親元に暮らすパラサイトシングルも郊外に増えている。彼女らは所得が少ないから都心には住めない。このように同じ女性でも、所得の高い女性は都心に集まり、低い女性は郊外に停滞するという傾向があるのかもしれないと思っている。
私は40年ほど前、地方から出てきた。入学した大学は多摩地区にあったから、東京という大都市を実感することも、都市について考えるということもなく大学時代を過ごした。当時もし都市を考えるとしたら、都市問題を考えることにほかならなかったのであり、それくらい当時の東京は、まだ空気が汚く、川は汚れ、住環境も貧しかった。
だが今、都市は清潔になり、住環境も整備された。今年は日本初の超高層ビルである霞ヶ関ビルができて50周年だが、オフィスはもちろん住宅も50階建てが珍しくない時代になった。都心のタワーマンションに子どものいる家族がたくさん住む時代が来るとは、40年前にはまったく想像もしなかった。
簡単に言えば、昔の都市の主役は働く男性であり、女性は郊外の主役であった。都市にとって女性は、男性を補助するか、接待するか、あるいは街で消費をする存在だった。
ところが今や、都市の主役は男女ダブルキャストか、女性優位となってきており、対して郊外は女性が主役を降りて空位時代に入ったのかもしれない。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)