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●金利急上昇
今回急上昇したのは「上海銀行間取引金利(SHIBOR)」と呼ばれる、上海の銀行間が互いに資金をやり取りする際の金利指標です。意外に思われるかもしれませんが、銀行というのは自身の資本だけでお金を回すというのは難しく、日々銀行間で資金を融通し合って業務を回しているわけですね。
ファイナンス(資金調達)の基本となりますが、金利が上昇するということは当然、銀行の資金調達コストが高くなり、銀行がお金を貸す先(企業)の資金調達コストも高くなります。資金調達コストが高くなり過ぎると、借金をしてビジネスを行っても十分な採算が取れず、このままでは中国の経済発展が止まってしまう、というのが中国バブル崩壊論者の論調です。
あながち間違いではないのですが、これだけだと40点といったところです。もう少し今回の問題を深く追求してみると、そこには「シャドーバンキング追放」の動きが見えてきます。
●「シャドーバンキング」とは?
シャドーバンキングを直訳すると「影の銀行」、つまりは日本でいう「地下銀行」のように、本来銀行の営業権を持たない業者が違法な金融業務(海外送金など)を行う場所だ、と考えるかもしれませんがそれは間違いです。
正しい「シャドーバンキング」の意味は「銀行を介さない、取引実態が不透明な融資」です。これを通して、銀行から融資を受けるのが難しい地方企業や個人などにお金が流れ込み、地方経済に資金を流しているわけですね。
これだけ聞くと「銀行であれなんであれ、資金が流れるんだからいいじゃないか?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。確かに、企業や国民にとってはその通りなんですが、中国政府にとっては違います。このあたりが、日本の方々が理解の及ばない点かもしれません。
中国という国は実際がどうであれ、建前上は「共産主義国」です。これはよくいえば「全国民、皆平等」ですが、もちろんそんなわけはなく、歴史をひもといてみればわかるように実際は「管理社会」です。
つまり、どれだけ経済が発展しようがなんだろうが、「政府が管理できないお金」が流れ込んでくることは容認されないわけです。このあたりは海外から中国株への出資金額に上限設定されていることからも見て取れます(2013年現在、いまだに中国への投資は証券会社ごとに取引枠が設定されており、それ以上の現物株式を取り扱うことはできません)。
●崩壊を防ぎたい中国政府
中国政府は「同国は発展した」などと大々的に宣伝していますが、同国の経済的競争力が上がったわけではない、ということは政府自身が重々承知しています。数字は刻々と変化するので確定的なことはいえませんが、気になる方は中国の「外資企業比率」と「賃金表」を調べてみることをお勧めします。
かいつまんで説明しますと、稼ぎ頭の企業および技術提供元は(中国にとっての)外資企業がほとんどです。賃金も地方ならまだしも都市部は年々上昇しているため割高傾向、といったように、はっきりと申し上げまして「砂上の楼閣」です。目端の利く企業はとっくに中国から逃げ出しています。
当然中国政府もこういった現状に気が付いており、6月19日に開かれた中国国務院の常務会議を見てもわかるように、同政府は「楼閣」を崩壊させるような可能性がある資金膨張を食い止めたいと考えています。
そして、ここへ来て問題となってきているのが「シャドーバンキング」。政府が実態をつかみきれない融資です。中国の4大大手銀行というのはすべて国有であり、過剰な資金供給は国がストップできます。しかし、もちろんシャドーバンキングは政府が管理できず、結果として融資総計が膨れ上がります。
実態にそぐわない融資総計が膨れ上がると、どうなるのか? というのは日本がバブル崩壊というかたちで実例を示しているので、中国政府としてはなんとしても歯止めをかけたいわけです。
そこで打ち出した政策が、今回の金利上昇を容認するという政策。銀行の資金調達コストを跳ね上げることにより、「シャドーバンキング」をワリに合わなくさせるのが目的です。銀行に預けておくだけで10%の利息が付くor返してもらえないリスクをとってまで個人や企業に利息7%で貸し出す、の二択なら、どちらを選ぶかいうまでもないですよね?
●結論と問題点
今回の金利上昇の動きですが、「バブルが崩壊した」のではなく「バブル崩壊の可能性を秘めたシャドーバンキングを追放するのが目的」であるというのが結論です。
ただし、銀行の資金調達コストが上がっているということは、つまり体力がない地方銀行や特殊金融機関が破綻する可能性があるということであり、もしそうなれば中国政府が回避したいと考えている「砂上の楼閣崩壊」を、自身の手で引き起こすことになる、という劇薬である点は否めません。
中国市場の株式が大きく暴落しているという現状もあいまって、「投資には絶好の機会だ」と考える方も多いかもしれませんが、株価低迷が続けば、ゆくゆくは国民の生活レベルが細々としたものになる、というのは日本の方々ならば特に身に染みていることでしょう。
中国バブルが崩壊したわけではないとはいえ、一朝一夕で解決する問題でもないので、今後注視していく必要があるでしょう。
(文=土居亮規/Business Library Butterfly)