巨大企業と弱小銘柄が混在
TOPIX(東証株価指数)を構成する東証1部銘柄の1社当たりの平均時価総額は、およそ2800億円だ。
しかし、250億円で線引きしても「なんら問題ない」とはならないところが悩ましい。
巨大企業がある一方で、時価総額100億円未満の“超小型企業”がTOPIX構成銘柄の1割強ある。
TOPIXは国内外の機関投資家がベンチマークとしており、日銀のETF(上場投資信託)購入もTOPIX型が大半だ。
東証1部上場の全銘柄のうち、500億円で線引きすれば半分が脱落し、もし1000億円という、もっと厳しいプレミアムな条件を付けたりすれば、生き残る銘柄が全体の3分の1に激減する。「東証1部」をプレミアム市場と考えるなら1000億円で線引きしてもいいはずなのに、そうならないのが日本的といえるのかもしれない。
こうした状況を踏まえ、250億円を当落線とする案に落ち着いたということだ。
1部と2部(新しい基準では中堅市場)の違いは時価総額の差でしかないはずなのだが、実際には企業の「格」という話になる。東証1部に上場していると会社の格付けや銀行の融資条件、新卒採用で有利に働く。社員の住宅ローン借り入れなどでも1部上場企業の社員であるかどうかが審査で重要なチェックポイントとなる。
1部上場はブランドなのだ。「2軍落ち(2部市場への指定替え)」を通告されると、今まで得ていた信用を失うことになる。既存の1部上場企業にとっても、そこで働く社員にとっても、一大事なのである。
現在、時価総額が100億円程度の企業が一気に250億円以上の時価総額にするのは事実上、困難である。
問題は当落線上にある企業群だ。時価総額250億円近くにいる企業は、自社株買いやIRの強化によって株価上昇を目指すことになる。株価が上がれば時価総額が増えるからである。
「日経平均株価」は、ニュースで毎日流れる有名な株価指標である。単に「日経平均」や「日経225」とも呼ばれる。日経225銘柄とは、日本経済新聞社が選んだ日本を代表する225社のこと。時価総額の大きい企業が選ばれている。
日経平均は東証1部上場銘柄で構成されるので、東証1部から脱落すると、自動的に日経平均採用銘柄でなくなる。
機関投資家は上場基準の厳格化のリスクを懸念している。一斉に「2軍」に格下げになると、1部市場から外れる銘柄に、機械的に売りが出てくるからである。
機関投資家はベンチマークに日経平均株価やTOPIXなどの指標を使っているので、ベンチマークから外れた銘柄は自動的に売ることになり、当然、その銘柄の株価は急落する。
東証1部上場の新しい基準が時価総額250億円以上に決まれば、それを達成するためにM&A(合併・買収)が加速する。その一方で、上場維持が難しい企業はMBO(経営陣が参加する買収)で上場廃止に踏み切るだろう。
もし、東証1部上場の3割が「2軍落ち」になれば、各方面から疑問の声が上がる可能性がある。2020年春と想定されている新市場誕生までには紆余曲折がありそうだ。
(文=編集部)