たとえば、採算の合わない安値での船舶受注を繰り返し、経営難に陥った大宇造船に対し、公的金融機関の韓国産業銀行が2015年、1兆2000億円の大規模な金融支援を実施した。この金融支援で債務を圧縮した大宇造船を、今回、現代重工に買収させたわけだが、韓国政府には2つの狙いがある。一つは大宇造船という長年の懸案を処理すること。もう一つは、日本政府が大宇造船への公的支援に異議を唱えていたが、大字を消滅させてその批判を封じ込めるためである。
造船の花形は、1隻当たりの船価が200億円程度と高く技術的にも難しい液化天然ガス(LNG)運搬船だ。かつて日本勢の十八番だったが、16年以降は1隻も受注していない。
「韓国の業界関係者によると、日本勢が成長の柱に掲げる単価の高い液化天然ガス(LNG)運搬船は、19年年始の受注残が現代重工と大宇海洋の2社で世界の約6割(72隻)を占める」(3月9日付日本経済新聞より)
LPG運搬船はサムスン重工業を含めた韓国勢の独壇場となっているのだ。
中国も負けてはいない。傘下に多くの造船所を抱える国有の2大メーカー、中国船舶重工集団(CSIC)と中国船舶工業集団(CSSC)の統合がささやかれている。実現すれば、世界2位に躍進する。中国勢はタンカー船やバルク船(鉄鉱石や石炭など輸送するバラ積み船)で世界トップだ。
一方、日本は韓国や中国で進む造船再編から取り残されてしまった。JFEホールディングス傘下だった旧ユニバーサル造船とIHIの造船部門が13年に統合しJMUが誕生して以降、大掛かりな再編は起きていない。
国内の最大手の今治造船とJMUの2社がリードしている。全国に6カ所の造船所を抱え高コスト体質の改善に懸命なJMUと、主力のLNG船を1隻も受注できていない三菱重工は追い込まれている。三菱重工とJMUの母体企業であるJFEとIHIは、トンネル掘削事業を16年に統合している。今後、造船事業で三菱重工がJMUに合流することは十分にあり得る。
国内大手2社と距離を置く川崎重工や三井E&Sホールディングス(旧・三井造船)の動きも焦点だ。川崎重工と三井造船は13年に統合寸前までいったが、川崎重工の社内のクーデターで破談になった経緯がある。
中韓両国の攻勢で日本勢はグローバルな競争の土俵から姿を消そうとしている。JMUを核に大同団結する日が来るのだろうか。
(文=編集部)