しかし三菱重工業は、2012年6月、神戸造船所における商船建造の撤退を決め、以降、商船建造は下関、長崎の造船所に集約。神戸造船所は潜水艦建造のみを行うことに決めた。これにより長らく神戸造船所で仕事を行ってきた下請け、孫請けの企業で働く人たちのなかには、路頭に迷う人も出てくることになる。
●協力会社も「三菱」を誇りに
Aさん(仮名)は、中学校卒業後、いくつかの職を転々とした後、三菱重工業神戸造船所の1次下請け会社の出入り職人となった。協力会社の派遣工員として、ありとあらゆる雑用を引き受ける職人–配線、塗装、電気といったなにがしかの職を持たない、「雑工」と呼ばれる職を通して、神戸造船所に携わってきた。
–三菱重工業が神戸造船所の商船建造撤退を決めました。第一報を聞いたときのお気持ちは?
A いや、びっくりしたの一言です。大三菱ですもの。これまでも景気の悪い時などはありましたが、三菱の傘の下なので大丈夫でした。でも、今回は、仕事そのものがなくなるので、かなりの痛手です。下請け会社らも、長年、三菱に協力してきたのに、こんな形で用済みにされるとは思ってもみなかったという思いです。
–Aさんがお勤めなのは三菱重工業の協力会社、つまり取引先ですよね? 三菱重工業神戸造船所以外の取引先は、なかったのですか?
A ないです。大体、神戸造船所に協力会社として入ってる会社は、三菱【編註:神戸造船所の意味】に、みんなおんぶに抱っこというか、もう社員みたいな気持ちでやってました。うちの会社もそうで、実際、協力会社の社員は、三菱の作業服を着ていました。
–それは三菱重工業側から支給されるのですか?
A 細かいことはわかりませんが、三菱の正社員はさら【編註:関西弁で新品の意味】を着ています。私たち協力会社社員は、そのお古ですね。それでも三菱の社員と同じ作業服を着ているので、三菱への愛着はあります。協力会社の社員や出入り職人は、みんなそうです。
–神戸造船所では、これまでAさんはどんなお仕事をしてこられたのですか?
A 船の掃除、塗装、アンカー(碇)の錆落とし、造船所の建物の補修や整備、階段をつくったり壊したりもしていました。
●三菱重工業から下請けへの職業斡旋などは特になし?
–三菱重工業では、神戸の近隣に高砂製作所や明石工場といった事業所があります。協力会社に、こちらでの仕事を斡旋されたり、便宜を図られたりはしなかったのでしょうか?
A ないです。あっちはあっちで協力会社があるので。神船【編註:神戸造船所の意味】に出入りしている業者が、高砂や明石に行くことは、私の知る限りではありません。
–三菱重工業が商船建造から撤退し、Aさんの協力会社は、まさに路頭に迷っている状況です。伺いにくいのですが、逆に、この状況下でも、神戸造船所に出入りしている工員さんとか協力会社というのは、どんな人、どんな会社なのでしょうか?
A 潜水艦の関係者ですね。潜水艦の仕事ができるのは、身元もしっかりしとって、教養のある人間が多い。造船所のなかでもプライドの高い人が多いです。
–失礼ですが、今Aさんはどのようなお仕事を?