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トヨタ系ディーラーで過大請求相次ぐ…2千件以上でビッグモーター並み規模

文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター
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札幌トヨペットのHPより

 トヨタ自動車系ディーラーの札幌トヨペットが、自動車修理の塗装料金について顧客へ過大に請求していた事例が過去2年で1417件にも上ることがわかった。同社内のテクノセンター受付者から板金工場の作業者への情報伝達の仕組みに不備があったことが原因だという。自動車販売会社による過大請求としては、ビッグモーターが修理代を過大に見積もり損害保険会社へ保険金を水増し請求していた事例が現在、社会問題となっている。ビッグモーターの不正件数は昨年11月以降分だけでも1275件に上るが(自社調査による)、札幌トヨペットの不正も1000件を超える大規模なものとなっており、また昨年以降、ネッツトヨタ茨城、トヨタカローラ静岡、沖縄トヨタ自動車でも同様の不正が発覚しており、その件数は合計で2000件以上に上り、「トヨタ系ディーラー」への信頼が大きく棄損しつつある。

 札幌トヨペットの発表によれば、顧客から、傷への耐性・修復性に優れた機能を持つクリア塗装(耐スリ傷性クリア塗装)で請求を受けた塗装作業について、通常仕様のクリアを施工し、クリア塗装分の料金を請求していたという。同社は2021年4月以降の施工分に係る顧客に書面や電話で連絡し、無償でクリア塗装に再施工するとしている。

 トヨタ系ディーラーでは昨年12月、ネッツトヨタ茨城が塗装作業費用を実際の作業とは異なる金額で過剰に請求していたことが発覚。今年6月にはトヨタカローラ静岡が、20年5月以降の施工分のうち計124台について、本来の仕様と異なる作業を行い過剰に請求を行っていたことが判明。今月にも沖縄トヨタ自動車が、計1290台に上る車両で(対象期間:18年1月~22年12月)、顧客から依頼を受けた板金塗装修理をめぐり誤請求を行っていたことが発覚した。

「原因はいずれも社内の連絡ミスとされているが、顧客とやりとりした担当者が『クリア塗装』という意味で略して『クリア』と工場に伝え、工場側はそれを鵜呑みにして作業してしまったというような不注意によるものだろう」(ディーラー関係者)

 自動車販売会社による過大請求事案としてはビッグモーターの件が現在進行形だ。その影響は他業界にも広まり、金融庁は7月、同社と取引があった損害保険会社7社に報告徴求命令を発令。さらに金融庁は保険業法に基づきビッグモーターとの癒着が問題視されている損害保険ジャパンへ立ち入り検査を実施し、業務停止命令発出の可能性も取り沙汰されるなど、大きな社会問題に発展している。

「トヨタ系ディーラーのご請求問題は、ビッグモーターとは違い担当者たちに悪意があったわけではなく、単純なヒューマンエラーだと思われる。ただ、自動車業界トップのトヨタの系列ディーラーでこれだけ不正が次々と発覚するというのは、ちょっと信じがたい。規模的にも1000件以上と、件数だけみればビッグモーターと同レベルであり、『トヨタ系だから安心』と考え長年にわたり利用している顧客が多いなか、トヨタグループの信用低下につながるのは必至」(同)

 また、別のディーラー関係者はいう。

「現在は整備士不足などで修理や整備の入庫待ちが1~2カ月待ちというケースも珍しくないほど、ディーラー系、個人経営に限らず多くの整備工場が逼迫している。そうしたなかで、連絡ミスによる請求ミスといった手違いは増えていくだろう」

クリア塗料のランクを落とすことで折り合いをつけた?

 今回の札幌トヨペットのような事例はディーラー・自動車修理業界では珍しくないのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。

「今回の件は修理費の過大請求という表現で報道されていますが、そもそも過大請求なのか、という点から考えるべきかと思われます。事の流れを簡単に解くと、顧客から修理を承る受付担当者と、その受付担当者から作業依頼書をもとに実作業を受ける鈑金工場の担当者との間で伝達ミスが起こってしまった。具体的には、車種ごとに適切な塗料が指定されているのに、指定されている塗料より安い塗料を使って修理してしまったことを『過大請求した』とされているわけです。過去2年で1417回、同じようなミスをするものでしょうか。連携ミスというよりは、意図的に安い塗料で修理をして利益を稼いでいた、ということではないかと思われても仕方がないですよね。

 こういった事例がディーラーや自動車修理業界では珍しいことなのか否か、という質問に対して、普通に考えると珍しいと思います。ただ、受付担当者と鈑金工場の担当者との間では、けっして珍しいことではなく当たり前のように進められてきた結果の1417回なのだと思われます。言い方を変えると、やっているところは幾度となくやっているし、やらないところは絶対やらない。つまり、指示を出すディーラーもしくは鈑金工場によって、仕事に対するモラルも含めた考え方に、雲泥の差があるということになるでしょう」

 このような事例が発生する原因はなんであると考えられるのか。

「ディーラーに修理を出したら、すべての作業をディーラーで行ってキレイに直してくれる、と思っている方が多いと思います。しかし実際は違います。車検修理は自社整備工場で行うディーラーが多いですが、鈑金工場については自社工場を構えるディーラーのほうが少ないのではないでしょうか。

 実際にディーラーへ鈑金修理の依頼をしたことがある人はわかると思いますが、小さな傷は簡単に見積りが出てきますが、大きな凹みがある修理は基本的に部品交換と工賃が含まれた見積内容が出てきます。なぜかというと、前述のとおり自社に鈑金工場がなく、職人が常駐していないため、大きな鈑金塗装の修理に対してどれくらいの技術料が適正なのか判断できる人がいないため、部品交換を前提で見積りするのです。そうしなければ、初めに修理できると思って見積りをしたのに、実際は修理できない、もしすると高額になるため部品交換したほうがまだ安くつく、なんていうケースもあり、つまりはユーザーとのトラブルの原因になるからです。

 鈑金塗装の修理は、部位によっては修復歴がついてしまうこともあります。部品交換するだけで修復歴になる(修理なら修復歴はつかない)箇所などもあり、車体に関する修理は剛性面など安全性にも関わるため、シビアなところがあります。それなのに、なぜディーラーに鈑金工場が併設されている例が少ないのかというと、主にロードサイドに建ち清潔感を重視するディーラー店舗に、塗料やシンナーなど有機溶剤を取り扱う鈑金工場を併設し管理するということが、立地や設備の面で現実的に難しいからです。有害な溶剤の臭いや廃棄処理に関する環境面、ボディパネルを叩く騒音なども考えると、そこは理解できますよね。それに、鈑金塗装は人材育成も難しいジャンルであって、ディーラーが賄う範疇を超えてきます。だから、鈑金塗装修理に限っては、提携の外注工場に仕事を投げることがほとんどなのです。

 そして、今回の核心の部分、修理受付担当者と鈑金工場との連携ミスという話。ディーラーにとって鈑金修理というのは、自己負担の小さな修理から自動車保険を使った事故修理まで、一件あたりの修理費が高額になりがちです。言い方を変えると、利益を取りやすい仕事。さらに外注依頼となれば、下請けに安い工賃で修理させて、ディーラー規定の修理費用を請求すれば、儲けが大きくなります。ディーラーによっては、鈑金工場に一般的な工賃の半値くらいで仕事をさせて利益を積んでいるという話も聞きます。そうなってくると、鈑金工場も経営が厳しくなるので、一件あたりの仕事に丁寧さを欠きますが、それではクオリティ担保の厳しいディーラーの仕事を受けられなくなります。結果、ディーラーと相談のうえで、修理の原材料である塗料のなかでも、最後の仕上げに使うクリア塗料のランクを落とすことで折り合いをつけましょう、ということなんじゃないかと推測できます」(同)

ユーザーの感覚と、実際の構造に乖離

 トヨタ系ディーラーということで信頼している顧客も多いと考えられるが、なぜ信用力の高い大手自動車系のディーラーでこのような事態が起きたのか。

「信頼性の高いディーラーだからこそやってしまえる、という点です。今回の例ですと、メーカーが指定する特殊なクリア塗料(傷への耐性が高く、修復特性の優れた塗料)を、安物のクリア塗料にランクダウンして利益を増していたわけですよね。メーカーが自社の商品力を誇るために欠かすことのできない、質感クオリティに関わるクリア塗装を、まさかメーカー直結のディーラーがランクダウンさせるなんて思いもしませんよね。町工場での修理ならいざ知らず、自社の商品の質をメーカーの顔となるディーラー自らが落とすわけですから。そこまでして利益を出さないといけなかったディーラーも悲惨だなと思いますが、一方で提携の鈑金工場の首が回らなくなると困るのは元請けのディーラーですから、お互いを存続させるための苦肉の策だったのかもしれません。こんな話は、一般的なユーザーが知るよしもない部分なので、信頼しきっているディーラーがまさか、というところが大きな落とし穴だったわけです。

 整備士も鈑金職人も年々なり手が減る一方で、提携工場が欠けるとディーラーはたちまち困るのが目に見えています。違う視点から見ると、ディーラーではなく鈑金工場にユーザーが直接修理を依頼して同じことが起こるかといえば、確率はかなり下がると思います。職人のプライドもさることながら、塗料の質を変えることで仕上がりや数年後のコンディションが異なることはユーザー以上に職人のほうが知っていますから、よほどのことがない限り、あえてランクダウンなんてことはしないのではないでしょうか。それに、ディーラーの下請けで通常の半値で仕事をさせられているのに、ユーザーには正規の値段で請求しても、『ディーラーより安くてキレイに直してくれてありがとう』と言われるのですから。

 メーカーの看板を掲げているディーラーだからすべてにおいて信頼できる、と考えるユーザーの感覚と、実際の構造に乖離があるという点が、こうした事例の問題点だと思われます。見た目はまったく同じようなディーラーでも、運営する会社の考え方でユーザーへの対応や仕事の質は大きく異なるということに、メーカーもユーザーも気付かなければいけません。古いクルマに乗って行っても、『弊社のクルマを大切にしていただいてありがとうございます』というディーラーもあれば、『なんでこんな古いクルマに乗られてるんですか? 新しいのに乗り代えてくださいよ』というディーラーもあります。メーカーはこういったディーラー間の対応の差を埋めるために、どこを向いて商売をしているのかという基本の基本を改めて指導していくべきではないでしょうし、メーカー自身も自分の胸に手を当てて考えることが、必要なのではないでしょうか」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

桑野将二郎/自動車ライター

桑野将二郎/自動車ライター

1968年、大阪府生まれ。愛車遍歴は120台以上、そのうち新車はたったの2台というUカー・ジャンキー。中古車情報誌「カーセンサー」の編集デスクを務めた後、現在はヴィンテージカー雑誌を中心に寄稿。70~80年代の希少車を眺めながら珈琲が飲めるマニアックなガレージカフェを大阪に構えつつ、自動車雑誌のライター兼カメラマンとして西日本を中心に活動する。
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