佐賀県が2021年から手掛けてきた器と食のプレミアムレストラン「USEUM SAGA(ユージアム サガ)」。有田焼をはじめ日本有数の器の産地である佐賀県で、美術館(MUSEUM)に飾るような器を使い(USE)、佐賀の美食を楽しむことをコンセプトに開催される特別なイベント。第1弾から、県内外の注目の料理人たちが腕を振るってきた数日限りのこの企画は、毎回ソールドアウトの人気ぶり。2023年12月に開かれた第5弾の様子をお届けします。
USEUM SAGAが標榜するのは「ローカルガストロノミー」。「ガストロノミー」はフランス語で「美食」を意味し、ローカルガストロノミーとは、おいしさを追求するだけでなく、地域の風土や歴史、文化まで料理に表現することとされます。
豪奢な料理がもてはやされた時代を経て、SDGsの注目もあり、改めて食べることへの本質、そして地域経済を世界規模まで広げることが期待されます。
第5弾の舞台となったのは、江戸時代より佐賀藩の城下町として栄え、廃藩置県後は県庁所在地として佐賀県の行政や経済の中心を担ってきた佐賀市。。共演したのは、佐賀市で「カレーのアキンボ」を営む川岸真人(かわぎしまこと)オーナーシェフと、沖縄県宮古島で開業準備中の渡真利泰洋(とまりやすひろ)シェフです。ふたりによるスペシャルなコラボレーションが2日間、全3回にわたり佐賀市のカフェで繰り広げられました。
川岸シェフは、1984年佐賀市生まれ。東京で修業を積み、錦糸町で「カレーのアキンボ」を営んだ後、2015年に佐賀へ戻ってリニューアルオープン。「ゴ・エ・ミヨ2023」に選ばれ、「ミシュランガイド2019福岡・佐賀・長崎版」でビブグルマンも獲得、独創的なスパイス料理で美食家を魅了しています。
一方の渡真利シェフは、1984年沖縄県宮古島市生まれ。東京でイタリア料理からスタートし、パリの名店で研鑽を積み、31歳で伊良部島の「Restaurant Etat d’esprit」の総料理長に就任。「The Japan Times Destination Restaurants 2021」10選、2019年次世代を担う実力派シェフとして全国15人の1人に選出。琉球ガストロノミーを提唱しています。
ゲスト全員が席に着き、期待が高まる中で運ばれてきたのは、佐賀と沖縄の食材をもとに、ふたりの知恵と技が織りなす渾身のコラボレーションメニュー全10品。14代今泉今右衛門(今右衛門窯)や井上萬二(井上萬二窯)、中島宏(弓野窯)といった人間国宝の器のほか、選りすぐりの有田焼や唐津焼などが、料理の存在感を引き立てます。さらに、1皿ごとにソムリエの新川友稀(しんかわゆうき)さんがセレクトしたドリンク(アルコール又はノンアルコールを選択)も添えられました。
どれも独創性が光る料理ばかりで、運ばれてきた瞬間、料理と器が醸し出す世界観にワクワクと期待が高まります。シェフとソムリエからメニューの紹介を聞き、ゆっくり堪能しながら五感と脳が満たされる至福のひとときが流れていきました。
中でも、特に印象的だった2品をご紹介しましょう。
まずは3皿目の「ポーポー」。ポーポーは小麦粉ベースの薄く焼いた生地に油みそをぬり、くるくると巻いた沖縄の伝統的なお菓子です。今回巻かれていたのは、伊良部島のなまり節(半生のかつお節)にインド料理のスパイスやオイルを加えたものと、沖縄産の生のフーチバー(ヨモギ)。沖縄では、山羊汁の臭み消しなどに生のフーチバーをのせて食べるのだそう。もちもちの生地と、スパイスの主張に負けないなまり節の豊かな風味、フーチバーのさわやかな香りが見事にマッチしていました。
ペアリングのアルコールは「多良川16年古酒樽仕込み」。宮古島の多良川酒造が、16年の泡盛古酒を樽熟成させた貴重な1本をハイボールで。
器とポーポーの巻き紙は、肥前名尾和紙として300年以上の歴史を持つ唯一の手すき和紙工房「名尾手すき和紙」のもの。その技は佐賀県重要無形文化財に指定されています。
そして7皿目の「イラブチャー」は、沖縄では昔から親しまれ、野山や道端、庭先などでもよく見かける月桃の葉がのっていました。葉を開けると、東南アジア特有の華やかな香りがふんわりと漂い、白身の魚が出てきました。こちらは沖縄を代表するブダイ科のイラブチャーで、淡白な身をタイカレーの調味料とともに月桃の葉で包み焼きにしたもの。ココナッツミルクのかわりに、佐賀の甘酒を使ったとのこと。ぷりぷりとした魚の身に、月桃の清涼感とスパイスの柔らかな酸味や辛味がなじみ、あっさりとしていながら深みのある味わいでした。
そんなひと皿に添えたのは「ジュリアン・クライン/クルーツウェグゲヴェルツトラミネール2019」という、フランス・アルザスのドライな白ワイン。「ゲヴュルツ」はドイツ語でスパイスの意で、カレーに合うワインとしてセレクトしたというだけあって、料理との相性が抜群でした。
料理を彩る器は「井上萬二窯」のもの。染付など一切の加飾をせず、白磁の技法を追求し続ける有田焼の窯元で、井上萬二氏は1995年に人間国宝に認定されています。
鎖国によって独自の文化を発展させた佐賀と、外交で自分たちの地位を高めていった沖縄。ローカルを拠点にする川岸シェフと渡真利シェフは互いの土地を行き来し、文化を学び、食材を自ら確かめた上で、全てのメニューを一緒に作り上げたといいます。佐賀と沖縄の食文化が交わり、オリジナリティとクリエイティビティがあふれる全10皿とドリンクに、会場は終始、熱気と興奮に包まれていました。最後の挨拶では、川岸シェフが感極まって言葉につまるシーンも。この企画にかける並々ならぬ思いが伝わってきました。
イベントについて、川岸シェフは「世界中からお客さんを集める渡真利シェフの胸を借りるつもりで挑みました。渡真利シェフは前回、佐賀に来て食材のあたりをつけていたものの、今回新しい食材に出会ってメニューをガラリと変えました。今日の今日までチャレンジを繰り返し、今ある目の前のものを生かして面白いものを作ろうとする情熱にいたく感銘を受けました。それに、いいものを作るためなら遠慮がない。僕は今さら言ったらスタッフに申し訳ないと考えてしまうけれど、ここで引いちゃいけないという姿勢も勉強になりました」と話しました。
渡真利シェフは「佐賀で九州陶磁文化館に行き、器の歴史からじっくり学ぶことができました。料理の面では、沖縄にはカレー文化がないので、沖縄の食にカレーのエッセンスを入れるとどうなるかという新たな挑戦でした。1+1=2ではなく、もっと大きな相乗効果が生まれました」と笑顔で手ごたえを語りました。
イベント終了後、東京から地元へ戻った経緯や感想を問われて、川岸シェフはこう振り返りました。「もともと5年以内には地元に帰ろうと思っていました。いざ帰ってきたら、佐賀の食材がすごくおいしいと気づいて。東京でスペシャリティだったラムキーマカレーはやめて、地元の食材だけでやろうと決めました。生産者とどんどんつながっていくと、プライドを持って作っている人ばかりで、託された食材を生かそうとするうちにオリジナリティができてきました」
渡真利シェフは「東京で誰でもやるようなことをやっても、ワクワクしないし面白くない。沖縄には長い歴史があり、自分らしい料理を追求していきたい」と力を込めました。
一度は東京や世界へ出て、あえて地元に戻ったふたりが、それぞれの地でどのようにローカルガストロノミーを進化させていくのか。きっと、このUSEUM SAGAの経験が生かされるに違いありません。
日本で独自といっても過言ではない、佐賀が世界に誇るべき「食(食材)」と「器」の価値に光を当て、これらを磨き上げ、新たな価値を創造する料理人を育ててきた佐賀県。佐賀県ならではの「ローカルガストロノミー」は今後も様々な取り組みを通して、世界に通用する地域の食を体現していきます。
○器と食のプレミアムレストラン「USEUM SAGA(ユージアム サガ)」
※本稿はインフォメーションです。