特に人手不足が深刻だといわれるIT業界だが、求人の募集条件が「経験者限定」ばかりで「未経験者が入り込める隙がない」「どこで育てているの?」という指摘や疑問が一部で話題を呼んでいる。未経験者がIT業界でエンジニアとして働くにはどうすればよいのか。また、誰もが社名を知る有名IT企業に就職するには、どうすればよいのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
多くの業界で人手不足が叫ばれるなか、成長が続くIT業界の人手不足は顕著だ。IT・Web領域における人材紹介事業を手掛けるレバテックの調査によれば、ITエンジニア・クリエイターの正社員求人倍率は12.9倍にも上る(2023年6月時点)。
「特にニーズが高いのがAI(人工知能)、データサイエンス、セキュリティ分野の人材。外資系IT企業では、大学院でこれらの領域を学ぶ人材に新卒1年目で年収1000万円を提示するケースも珍しくない」(中堅IT企業社長)
採用ニーズが高く給与も高めのIT業界、なかでも誰もが知る有名企業に就職しようとしても、そのハードルは高い。求人の多くが経験者採用になっているのだ。例えばフリマアプリ運営会社のメルカリは現在、自社サイト上の採用ページで「エンジニアリング」カテゴリとして計32のポジションを募集しているが、ほぼすべての職種で実務経験があることを応募条件としている。
<例>
ポジション:Software Engineer, Machine Learning & Search (Ads)
必須条件:
Elasticsearch の開発、運用経験
検索アルゴリズム、関連性チューニング、クエリ最適化に関する知識及び経験
自然言語処理(NLP)技術とツールの専門知識
データインデックス、ETLプロセス、大規模データセットの取り扱い経験
また、新卒採用でも「オファーまでのモデルケース」によれば選考過程で「技術課題」があり、一定の専門スキルを求めている様子がうかがえる(選考過程に「技術課題」がないポジションもあり)。
ポータルサイト「Yahoo!JAPAN」やメッセージアプリ「LINE」を運営するLINEヤフーは採用ページで「エンジニアリング」カテゴリとして計99のポジションを募集しているが、同社もほぼすべての職種が実務経験を応募条件としている。
<例>
ポジション:アナリティクスエンジニア(横断データ開発)
必要な経験/スキル:
SQLを用いた分析用データウェアハウス・データマートの設計・開発・運用経験(3年以上)
データモデリングとデータベースの基礎知識と利用経験
データ利用者(企画・開発・分析)をはじめとする関連部署と連携してスムーズに業務を進めるためのコミュニケーション能力
<経験者しかいりません。新人育ててる役を我が社が担いたくありません>
このほか、「楽天市場」や「楽天モバイル」を運営する楽天グループは採用ページで「エンジニア」カテゴリとして計約250のポジションを募集しているが、大半の職種で実務経験があることを応募条件としている。
<例>
ポジション:楽天ペイメント株式会社 FinTech システム開発部 システム開発グループ:リードエンジニア(候補)
必須要件:
5年以上のソフトウェア開発経験(設計からリリースまでの運用を含む)
担当サービスとシステムに対する当事者意識
スケジュール管理、他のチームとの調整を行うことができるコミュニケーションスキル
明確なプロセス構築しながら開発や運用チームをリードした経験
管掌システムの改善やバージョンアップに従事した3年以上の経験
RDBMSに関する知識
Redis、Kafka、k8sに関する知識
RESTful APIの実装と維持に関する知識
高可用性の実装と維持に関する知識
こうした現実を受け、ネット上では以下のような声があがっている。
<IT企業「経験者しかいりません。新人育ててる役を我が社が担いたくありません。よその会社の育てた人材がほしい」未経験志望者「・・・」>
<どこで育てるの?>
<プログラマの「新人育成」なんて不可能>
<企業が人を雇って育てても、いざ育ったら他社行ったり独立したりされちゃうから、人を育てるメリットが減ってる>
3年間の修行が必要?
では、どうすれば比較的待遇が良いとされる大手IT企業にエンジニアとして入社できるのか。複数のネット系企業で働いた経験のあるプログラマーはいう。
「エンジニア職に限らず、中途採用ではどの職種でも実務経験が求められるのが一般的だと思うので、その前提でお話ししますと、IT系の大学学部や専門学校の出身ではない場合は、ある程度独学でプログラミングなどを学んだうえで、採用選考でそれほど経験やスキルを求めない小さなシステム開発会社やSES企業などに入って、3年くらい働くのが入口としては現実的。そのような企業には低賃金、長時間労働が常態化しているところも少なくなく、地方や郊外にある顧客のデータセンター常駐になることもザラだが、修行のつもりで耐えられるかがカギです。その際に重要になってくるのが、自分が就く業務が業界的にニーズの高いスキル、つまり重宝されるスキルの習得につながるのか、もしくは将来自分がなりたい職種やエンジニア像につながるのかを意識して、就職先を選ぶということ。ある程度、仕事の傍ら必要な勉強を続けることも必要になってくる。
そして3年くらい耐えて実務経験があれば、現在のIT業界は本当に人手不足で経験者へのニーズは高いため、転職活動では、ある程度は会社を選べる立場になる。こうして数社の転職を経ながらステップアップを重ねていけば、業界で求められるスキルも自ずと見えてくるので、勉強しながらその道に進む努力をし、晴れて人もうらやむ有名大企業のオシャレなオフィスで働ける道が開けてくる。
もっとも、上位大学の情報系学部に進んで真面目にAIやデータサイエンスなどを勉強して修士まで進めば、いきなり新卒でそうした有名企業に就職できる確率は高くなってくるので、それが最短距離のような気もします」
また、大手SIerのシステムエンジニア(SE)はいう。
「大卒で大手のベンダやSIerに就職しても、こうした企業のSEは顧客企業との折衝や下請けの開発会社の管理、損益の管理などがメインになってくるので、自分でプログラミングなどができるスキルがつきにくい。将来的にプロフェッショナルなエンジニアとしてやっていきたいのなら、別の就職先を考えたほうがいい」
(文=Business Journal編集部)