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楽天銀行、中小企業融資参入の狙いと勝算は? ネット銀初、乱立状態抜け出しを賭けた勝負

文=編集部
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楽天銀行、中小企業融資参入の狙いと勝算は? ネット銀初、乱立状態抜け出しを賭けた勝負の画像1通販サイト「楽天市場」より
 インターネット専業銀行である楽天銀行が、中小企業向け融資に参入する検討に入ったことが明らかになった。ネット銀行による本格的な法人向け融資は、これまで例がない。法人融資では大企業向けはメガバンク、中小企業向けは地方銀行などの領域であり、与信審査などのノウハウが必要なため、ネット銀行にとってハードルは高かった。楽天銀行はネット銀行の強みである低利融資に対する中小企業の需要は大きいと判断し、中小企業向け融資を銀行の収益基盤の強化につなげる計画だという。

 手数料の安さを売りにするネット銀行各社は、24時間365日いつでも好きな時に振り込みや送金ができる利便性が受け、預金量や口座数は右肩上がりだ。ネット銀行と一口にいっても各社の得意分野はさまざまで、出資母体企業の事業と密接に結びついている。

 SBIホールディングスと三井住友信託銀行が折半出資の住信SBIネット銀行や大和証券グループ本社が設立した大和ネクスト銀行は、それぞれSBI証券、大和証券に証券口座を持った顧客を抱える。銀行口座から証券口座への入出金をスムーズに行えることを目玉に、預金量を伸ばしている。KDDIと三菱東京UFJ銀行の折半出資のじぶん銀行は、携帯電話向けカードローンが主力だ。ソニーフィナンシャルホールディングス傘下のソニー銀行は、個人向け外貨預金でメガバンクを猛迫。オリックス信託銀行から商号変更したオリックス銀行は、投資マンション向けのローンなど個人向けローンが主力だ。日本初のネット専業銀行として設立された三井住友銀行の子会社ジャパンネット銀行は、消費者ローンのほか、商品代金の決済手数料が収益源の1つになっている。

 楽天銀行の前身は、2001年に国内で2番目に誕生したネット専業銀行のイーバンク銀行。09年に楽天が買収し、10年に楽天銀行に商号変更した。通販サイト「楽天市場」のカードローンなど、グループ内の事業を活用したビジネスモデルだ。13年12月末に預金残高が1兆88億円と1兆円を突破。稼ぎ頭はカードローンで「楽天銀行スーパーローン」の残高は14年3月末で2547億円。前年同期比31.3%増と高い伸びをみせた。

 14年3月期、一般企業の売上高に相当する経常収益は「楽天銀行スーパーローン」の伸長で同10.2%増の454億円だが、純利益は前年度の国債売却益などがなかったため、同36.7%減の74億円にとどまった。収益力を高めるため、13年11月に住宅ローン、14年4月に不動産担保ローンに進出を果たしており、中小企業向け融資なら地銀などと競争しても勝算があると判断したようだ。

 流通系のネット銀行ではセブン-イレブンなどのグループ店舗を中心に14年3月期末に2万1000台と国内最多のATMを持つセブン銀行が、14年3月期の純利益で212億円と過去最高を更新。ダントツの収益力を誇る。イオンのショッピングセンター内で拠点の開設を進めているイオン銀行は住宅ローンが主力だが、投資信託の販売などフルバンクを志向している。流通系ネット銀行の貸出残高は計4兆円程度。これは地銀中位行1行分の規模でしかなく、極めて小さい。逆にいえば、ニッチな存在だけに伸びしろはあるといわれている。

経営破綻した新銀行東京

 過去に中小企業向け融資に挑戦して、あえなく頓挫した新規参入組の銀行が2行あった。新銀行東京と日本振興銀行だ。00年代前半、大手都銀が不良債権処理のために貸し渋りや貸し剥がしを行い、中小企業は資金繰りに窮した。そこで05年、石原慎太郎・東京都知事(当時)の旗振りの下で新銀行東京が設立され、中小企業に対する無担保融資を謳い文句に、資金繰りに悩む中小企業の支援に乗り出した。しかし新銀行はわずか3年で1000億円近い累積赤字を抱え、事実上、経営が破綻した。都が400億円の公的資金を注入して、事業再建が図られた。

 新銀行東京は規模を大幅に縮小。14年3月期の当期利益は8億円の黒字となったが、売上高に相当する経常収益はわずか67億円。石原都政の“負の遺産”である新銀行東京を切り離すために、これまであおぞら銀行やオリックスの名が売却先に挙がったこともある。

国内初のペイオフ発動例となった日本振興銀行

 一方の日本振興銀行は04年、日本銀行出身で金融監督庁(現金融庁)の金融監査マニュアル策定にも関わった木村剛氏が中心となって設立された。だが、木村氏が日本振興銀行の基本理念に掲げた「無担保・無保証」のビジネスモデルは早々とほころんだ。中小企業向け融資から債権買い取りビジネスに転換したが、不良債権をつかまされて経営が破綻。10年9月には、国内初のペイオフ(一定額の預金を払い戻す制度)が発動された。それまで政府は影響の大きさを考慮して、金融機関が破綻しても預金は保護してきた。初めて実施されたペイオフで、元本1000万円超える預金者は一部の預金と利息をカットされた。

 日本振興銀行は整理・解体。優良資産は12年3月、イオン銀行に譲渡された。異業種の銀行参入失敗を隠すため、金融庁が瀕死のイオン銀行を救済したといわれている。日本振興銀行の優良資産をタダ同然の値段で手に入れたイオン銀行は大化けした。14年3月期の預金残高は前年同期比40.6%増の1兆7153億円、経常収益は同50.7%増の1085億円、当期利益は同30.4%増の100億円。死んだ日本振興銀行が、イオン銀行を助けた格好だ。

 現在、イオン銀行は経常収益、当期利益とも楽天銀行を上回るが、「楽天は、ネット銀行乱立状態の中から一歩抜け出すためには、中小企業向け融資しかないと決断した」(金融筋)との見方もある。ネット銀行として初の試みに打って出る楽天銀行の賭けは、吉と出るのか。業界勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めた同社の試みに、注目が集まっている。
(文=編集部)

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