話題のユーシン社長公募、なぜ失敗?同社の誤解から、企業が採用で犯す過ちを考察
「再び社長公募に踏み切った理由は。うちの中に人材がいないからだ。ヘッドハンターにも頼んだが、なかなかいい人材を見つけられなかった。だったら、うちに来たいと手を挙げてくれる人がいいだろうとなった」(2月20日付東洋経済オンライン記事より)
●2度目の社長公募も中止、迷走する後継者選び
10年7月に行われた1回目の社長公募は、上場会社がそんなことをしたのが前代未聞だということで随分話題になったが、それについて田邊氏は次のように振り返っている。
「一度目の公募は失敗だった。応募者は1,740人集まったが、みんな自分の会社を辞めてここに来ようとするわけで、社内ではあまり優遇されていなかった人なのではないかと思う。そういう人は、元来、好ましくない」(同)
「今さら何を」というのが筆者の感想だが、その厳選採用されたY氏についてはこう述べている。
「Y君はウソをつかないし、人格的には本当にいい男だったが、商売には向いていなかった。立派な人間でも、経営に向かないことはある。(略)当時、『Y君のほかに社長候補はいない』と話していた。(2011年秋に)メキシコの新工場の建設担当として現地に行ってもらおうと考えていたが実現せず、結局、Y君はほかの会社へ行ってしまった。僕の中ではメキシコ行きがなくなった時点で、もう社長にするのは難しいという気持ちがあった」(同)
筆者もかつて「雇われ社長」の経験を数多くしているため痛感するのだが、Y氏の立場からすれば、このような気まぐれな雇用主と遭遇してしまったのは不幸なこととしかいいようがない。自分のキャリアというのはそれぞれ一生に一回しかないのだ。「リスクを取る」のが自分だとしても、その席を追われてからもこんな具合に雇用主に論評されるのは堪えられないことだろう。
一方、雇用主側からすると配慮、度量を示し切らなければ、一流の人材が懐に入ってくるわけがない。大経営者なら「惻隠の情」を持たなければならないし、示さなければならない。
この2回目の公募について、前出・東洋経済オンライン記事のインタビューで田邊氏は次のように語っていた。
「前回は条件設定がまずかった。一つは報酬。今回は社長就任時の報酬を『最低でも1億円』と打ち出した(前回は入社時年俸3500万円以上)。1億円というのは、普通のサラリーマンでは稼げない額。今の会社で優遇されている人間にも、十分魅力的だろう。履歴書や面接では、今の会社内でどのような課題に直面し、解決してきたかを重点的に見ている。今のところ、いい人が集まっていると思う」(同)