アサヒビール、なだ万買収の不思議 販売増・認知度向上などの相乗効果期待薄か
11月14日、アサヒビール(東京・墨田区)が老舗料亭のなだ万(同・新宿区)を買収すると発表した。アサヒは、その目的を次のように説明している。
「老舗料亭の経営ノウハウを取得し、外食企業に対する営業提案力の強化につなげることにあり、海外進出を積極化している外食企業に対しても、ノウハウの提供が可能となります。また、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された『和食』文化をリードしてきた『なだ万』ブランドを、グループ力を活用し、日本国内および世界に広めていくことも視野に入れています」(同社プレスリリースより)
現在アサヒは高級ビール「ドライプレミアム」の販売に力を入れるなどプレミアム戦略を推進しており、その路線とのマッチングを図った買収とみられている。しかし、ビール飲料と高級外食産業に実際どれだけの相乗効果が期待できるのだろうか。この買収がまず違和感を与えるのが、両社の規模の違いすぎる点だ。
アサヒは年商1兆7000億円(連結ベース、2013年12月期)、グループ社員数1万8000人以上だ。一方のなだ万は創業1830年という老舗だが、年商150億円、社員数1300人と、売り上げ規模でアサヒに2桁劣る。このような2社が資本関係に入ったとしても、買収側のアサヒにとってどれだけ戦略的な「報酬」が期待できるのだろうか。
相乗効果に疑問
なだ万は国内に26店、海外に7店の高級和食レストランを展開している。アサヒはなだ万海外店を通じて、そのプレミアム・ビールの海外認知度を高めること狙っているとの見方もあるが、世界中に散らばるレストラン7店のみでは、その効果は限定的といえよう。かといって、海外展開を急速に加速させることも難しい。老舗の和食レストランの質を担保する板前の育成には長期間を要し、このクラスの料亭にふさわしい仲居を海外で確保することも容易ではない。ファスト・フードのチェーン店を海外出店するのとは次元の異なる話である。
また、なだ万各店で出すビールはすでに9割がアサヒの商品だといい、販売量増につながる効果は見込めない。
逆になだ万にとっては、安定した経営資金的なバックアップを得られるだろう。
こうして分析してみると、この買収は、あまり相乗的な効果を見込めないと筆者は考える。アサヒにとって買収の実質的な効能は、取引先企業の接待を担当する専門料亭を獲得したという程度で終わりかねないのではないか。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)