ホンダHVの欠陥は昨年末には自動車業界中に知れ渡り、社外でも専門家らの原因究明が始まり、年明け早々に原因がほぼ特定されていた。ブログなどで問題提起をする関係者もいたが、その一人は次のように説明する。
DCTの制御ソフト不良は、今回のフィット/ヴェゼルHV開発で新たに採用したHVシステムの複雑さにある。同社は従来、IMAと呼ばれるHVシステムを採用していた。エンジンとモーターがクラッチに直結した単純な構造で、発進、加減速、高速走行のすべての運転で常に両方が連動して駆動する仕組みになっている。
これに対して新HVシステムはエンジンとモータを分離、IMAではできなかったモータだけの「EV走行」を可能にしているのが特徴。つまり、2つのクラッチを持つDCTにエンジンとモーターを別々に結合させ、発進時はEV走行し、加減速や高速走行時は運転状況に応じてモータ補助走行やエンジン走行を自動的に行う仕組み。それだけ構造が複雑化している。
ホンダにとって不幸だったのは、DCTの採用経験がなかったことだ。このため、DCTの制御ソフト開発は試行錯誤状態で行わざるを得ず、同関係者は「ソフト開発工数がガソリン車や既存HVの比ではなかった。フィットHVの発売時期が迫る中、評価工程を簡略化して見切り発車した節がある」と推測。その根拠として「開発現場では発売後もバグ取りに追われていた」と指摘する。
同社開発部門トップの山本芳春専務執行役員は、10月24日に安全運転支援システム「ホンダ センシング)」を発表した際の囲み取材で、記者団からリコール連発の原因を聞かれた際、「複雑な新HVシステムに対しての知見が不足していた。採用前の習熟が必要だった」と語っている。「ホンダらしい性能競争でトヨタ自動車のHVを追い越そうとした焦りが、今回の見切り発車を招いたのではないか」(同関係者)という見方も強い。
●世界同時開発の誤算
また、別の業界関係者は「12年頃からホンダが加速させている世界同時開発が、リコール連発の背景にある」と次のように説明する。
同社は従来、世界展開する新型車を開発する際は、先行発売した国内モデルをベースに、数年かけて世界各地の現地仕様モデルを順次開発していた。それを国内モデルと並行して現地仕様モデルを開発・量産する「世界同時開発」に変えた。世界規模の生産台数をはなから確保することで、部品調達コストを大幅削減するのが目的だ。そのためには従来、数年かけて順繰りに投入していた開発要員を一気に投入しなければならず、そのひずみが開発現場を疲弊させていた。