「リコールが続く理由は、『早い、安い、うまい』を推し進めた伊東氏の経営方針の弊害です。経営層がまず新車の販売スケジュールをつくる。何か問題があっても、決められたスケジュールに間に合わせなければならない。問題が見つかっても、なかったことにする。こうした体質をマズイと思っている社員はいなくはないが、そんなことを口にしようものなら、上層部から非難される」(自動車担当アナリスト)
「スケジュールに合わせて見切り発車したフィットハイブリッドのリコールの発生は、発売前から予測されていた」と指摘するエンジニアもいる。ホンダは年間世界販売台数600万台、国内100万台を目指してきたが、新車の相次ぐリコールとタカタ問題でもくろみが崩れた。社内外からは「伊東氏と腹心の野中俊彦常務(四輪事業本部長、本田技術研究所副社長)が辞めるべきだ」との声が広がりつつある。
●「ホンダらしさ」を失ったホンダ
「創業者の本田宗一郎時代の中小企業の風土を知っている世代がいなくなり、大企業になったホンダしか知らない経営陣ばかりになった。ホンダらしいといわれた自由闊達さは失われ、上から下まで官僚化が進行し、保守化が進んでいる」(自動車業界関係者)
伊東氏は15年6月に社長就任6年目を迎え、交代のタイミングだが、後継者が育っておらず本人もやる気満々だとみられている。次期社長の候補に挙がるのは、専務執行役員で、11月1日付で四輪事業本部品質改革担当兼本田技術研究所取締役副社長執行役員に就任した福尾幸一氏と前出の野中氏だが、前述の通り連続リコールの責任を問う声が多く、「上にはゴマすり、下には尊大」(元役員)と酷評する向きもある。
“ポスト伊東”の最短距離にいたのは、初代フィットを開発してインド事業拡大のために同国へ赴任した松本宣之常務執行役員だった。松本氏は過剰な拡大主義を否定し、伊東氏と対立。結局、社内抗争に敗れて後継争いから外れた。松本氏に代わって社長候補に浮上したのが福尾氏という図式だ。福尾氏は初代HV「インサイト」の開発責任者で、ハイブリッド、燃料電池車の開発を担当してきた。
年度初めの明るい見通しから一転、伊東氏の社長退任論浮上にまで発展した連続リコールで、ホンダ周辺には、にわかに物騒な雰囲気が漂いつつある。
(文=編集部)
【続報】
ホンダの14年度国内自動車生産が90万台程度と、当初見通しを15%下回りそうだ。今秋に続き、15年1~3月も減産する。14年度の国内生産計画は13年度(実績)比で3%減となり、3年ぶりにマイナス成長となる。ホンダは当初、14年度の国内販売計画を前年度比25%増の103万台としてきたが、フィットハイブリッドが合計5回のリコールをしたことが響き、販売が低迷した。1~3月には軽自動車を生産する鈴鹿製作所(三重県)でも1日の生産台数を予定より2割少ない1600台に落とす。