本社の社員約3000人を対象にした100人の早期退職を実施して、不採算店舗131店を閉鎖するだけでは、業績の回復はないだろう。モラルハザード、経営陣のオーナーシップの欠如が是正されない限り、マクドナルドの再生は遠い。同社FC店の経営者が語る。
「業績悪化に加えて今期の配当方針も未定という厳しい内容の決算予想発表だったにもかかわらず、発表翌日17日の株価は前日比で小幅安だった。カサノバ社長は、その株価を見てホッとしているそうだ」
株価を下支えしているのは、食事券などの株主優待目当ての個人株主がいるからだ。浮動株が少ないことが、売り叩きが起こらない原因だ。
「マクドナルド株は、業績などにより選別された銘柄で構成される株価指数、JPX日経インデックス400に組み込まれている。銘柄の見直しが行われて外されれば、株価は急落するだろう」(中堅証券会社役員)
マクドナルドは2期連続の赤字となる見通しであり、「ファンダメンタルからすれば、現在の株価は完全に割高だ」(外資系証券会社のアナリスト)とみられている。
そんな株価を尻目に、全店売上高は昨年2月から今年3月まで14カ月連続でマイナスを続けている。15年12月期の業績について、「既存店売り上げが(平均で同年前月比)マイナス10%なら営業赤字は100億円、同20%なら200億円と想定されていた」(マクドナルド関係者)。1~3月のペースで客数減が続けば300億円の営業赤字に着地するとみられていたが、16日の会見では250億円の営業赤字とした。
他の外食に客が流れる
マクドナルドの稼ぎ時はランチタイム。1日の売り上げの60~70%を稼いでいるとみられているが、コンビニのほか、他の外食チェーンが漁夫の利を得ている。月次動向から見ると、セルフ式うどんの丸亀製麺(運営会社はトリドール)やサイゼリヤなどに流れている。
そんな中、世界最大規模のファストフードチェーン、ヤム・ブランズ傘下のタコベルが日本に上陸した。ジャスダックに上場しているアスラポート・ダイニング(焼き肉「牛角」のFC店を展開)がタコベルとFC契約を結び、日本の1号店を4月21日に東京・渋谷に開店した。タコベルは世界で6000店舗以上を展開しており、日本を重点エリアと位置付けている。想定単価は700~800円強で、マックと同じ価格ゾーンだ。
今後マクドナルドが年内に閉鎖する100店以上の跡地をめぐり、外食各社の陣取り合戦が再燃するともいわれる中、業界に静かな地殻変動が起こりつつある。
(文=編集部)
【続報】
日本マクドナルドHDの15年1~3月期の連結純損益は、前年同期の12億円の黒字から145億円の赤字に転落した。経常損益は111億円の赤字(前年同期は21億円の黒字)。売上高は前年同期比34.4%減の408億円。不採算店を中心に19店を閉め、新規出店はゼロ。4月の既存店売上高は前年同月比21.5%減。3月の29.3%減からやや改善したものの、15カ月連続で前年割れ。依然として20%以上の減少が続いている。4月の来客数は15.4%減となり24カ月連続で前年を下回った。2年間、来客数は減り続けたことになる。1~3月期に赤字を計上するのは01年の上場以来初めて。業績不振の店舗の資産価値を引き下げたため、35億円の特別損失を計上した。15年12月期は売上高が2000億円、純損益が380億円の赤字とする従来予想を変えていない。第1四半期の145億円の赤字を4倍にすると580億円の赤字になる。このままの不振が続けば、380億円の赤字ではおさまらないだろう。経営が悪化しているフランチャイズ店に対しては、本来、売り上げに応じて受け取るロイヤリティーを減免する措置を講じている。