なぜソフトバンクは「つながりやすさNo.1」になれた?ビッグデータのまやかし
実は、その背景にも対象データを絞り込んだ賢いスモールデータの活用がある。携帯電話やスマートフォン(スマホ)のつながりやすさを改善するには、基地局と呼ばれる通信設備をとにかくたくさん「打っていく」必要がある。しかし、ソフトバンクが設備投資でまともに勝負しても資金力に勝る他社に勝つことは難しい。問題は、なぜ設備投資額で劣るソフトバンクが、他社を抑えて「つながりやすさNo.1」となることができたのかということだ。
携帯電話では、アンテナが立っているのに(つまり通信できる状態にあるにもかかわらず)通信できない状態が発生することがある。こうした問題があることはわかるものの、実際に、いつ、どこで、どのくらいつながらないのかはわからなかった。そもそも、つながらないのだから基地局側で問題を把握しようがなかったのである。
ところが、スマホのアプリを使うとそれが可能となったのだ。つながらなかったら、その情報をいったんスマホに保存しておき、次につながった時にその情報を吸い上げることができるからだ。
ソフトバンクは、そのような「利用者がつなげようとしてつながらなかった情報」を月に約10億件も収集しているという。実際につながっていない人の情報を収集して分析すれば、基地局を打つべき場所を特定でき、優先順位をつけて効率的に弱点を改善できるという寸法だ。広く薄く基地局を打つのではなく、スマホが実際につながりにくい地域を発見し、そこに集中して基地局を打つことによって効率的に設備投資してきたのである。
スマホのアプリによる情報収集のもう一つの特徴は、自社だけでなく他社の接続状況も把握できることだ。だからこそ、「つながりやすさNo.1」であると堂々と他社データも交えて示すことができる。「他社は山間部では勝っているが。都市部に弱い」といった分析まで可能となる。まさに漠然としたビッグデータではなく、スマートなスモールデータを賢く利用した事例といえよう。
「ビッグ」である必要はない
このように、先進的な企業はデータを積極的に活用し、ビジネスで成果を上げている。しかし、そうした企業はごく一部であり、我々には関係ないと最初から諦めている企業が多いだろうが、大企業でなくても、データ量が膨大でなくても、データを活用して成果を上げている企業もある。企業規模もデータ量も必ずしも「ビッグ」である必要はないという両方の意味を込めて、「ビッグデータ」ではなく「スモールデータ」なのだ。
次回は、そうしたスモールデータを活用して業績を伸ばしている企業の事例から、その活用のポイントを整理してみたい。
(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営専攻>教授)
※参考文献
・『ドコモの栄光と挫折』(「週刊ダイヤモンド」<ダイヤモンド社>/14年2月1日号)
・『下手なビッグデータよりも賢いスモールデータ』(宮永博史/Kindle版電子書籍/15年4月)