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木村隆志「現代放送のミカタ」

『母になる』沢尻エリカ、圧巻のジェットコースター演技でズバ抜けた才能見せつける

文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト
『母になる』沢尻エリカ、圧巻のジェットコースター演技でズバ抜けた才能見せつけるの画像1沢尻エリカ

『家売るオンナ』『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』『東京タラレバ娘』と、3作続けてポップな作品が続いていた日本テレビ22時台のドラマ放送枠「水曜ドラマ」に、かつての“重さ”が戻ってきた。

 沢尻エリカ主演『母になる』の主なあらすじは、3歳の息子・広が誘拐されて、結衣(沢尻)と陽一(藤木直人)の夫婦が絶望に襲われる。失意のまま離婚し、9年の歳月が流れたある日、13歳になった広(道枝駿佑)が現れ、親子3人でやり直そうと決意するが、思わぬ苦難が待ち受けていて……というもの。

 1話の展開を見て、2010年に放送された『八日目の蝉』(NHK)、『Mother』(日本テレビ系)の2作を思い出した人が多いようだ。

『八日目の蝉』『Mother』のアナザーストーリー?

『八日目の蝉』は不倫相手の赤子を誘拐して育てる、『Mother』は虐待されていた少女を誘拐して育てる女性の物語。一方、『母になる』は「子どもの誘拐がきっかけとなる母子の物語」という点は同じだが、ヒロインは子どもを誘拐された女性であり、その意味では2作の“アナザーサイド・ストーリー”と見るほうが自然だろう。

 しかし、ヒロインが「奪うほう」から「奪われるほう」に変わっても、母性や母子の距離感を描こうとしている点は変わらない。再会した広に向ける結衣の一挙手一投足は母性に満ちている。結衣は広の「お母さん」という一言や微笑みだけで幸せを感じ、間違ったことを言えば「子どもが欲しがるもの、なんでも買うのがお母さんじゃない」とはっきり伝えていた。

 今後は、広の育ての親・麻子(小池栄子)に対する気持ちを知り、「悔しいけど、子どもの気持ちを理解しよう」と前を向く姿が描かれていく。

 制作サイドは、視聴者に結衣の母性を感じさせるために、広との微妙な距離感を描写していくはずだ。「近づいたと思ったのに、まだ遠かったことを思い知らされる」「遠さに打ちのめされていたら、思いのほか近くに感じる出来事があった」など、9年間の空白を巧みに生かした感情の浮き沈みで、ドラマチックなムードをつくっていくだろう。

10年ぶりの可憐なヒロイン、沢尻エリカの真骨頂

 もうひとつ特筆すべきは、沢尻の悲壮感あふれる演技。「あの沢尻エリカが戻ってきた」と感じさせるシーンが何度となくあった。

 まず視聴者を魅了したのは、いわゆる“「別に」騒動”前の主演作『1リットルの涙』(フジテレビ系)、『タイヨウのうた』(TBS系)で見せた控えめで清楚な女性像。

 1話で見せた、北海道から上京し、陽一と出会い、結婚するまでの姿は、今なお正統派ラブストーリーの主演を飾れる華があることを感じさせた。ちなみに、このような沢尻の可憐な姿は、“「別に」騒動”を巻き起こした映画『クローズド・ノート』(東宝)で小学校教師を目指す女子大生を演じていたのが最後で、約10年ぶりとなる。

 ただ、そこからが女優・沢尻エリカの真骨頂。幸せな笑顔を見せていた直後に、最愛の息子を失う悲痛な姿で涙を誘い、2話では広への接し方に戸惑いながらも明るく振る舞い、最後に育ての親・麻子の存在を知り、激しく動揺しながらも耐え忍ぶ様子を演じた。

木村隆志/テレビ・ドラマ解説者/コラムニスト

木村隆志/テレビ・ドラマ解説者/コラムニスト

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

Twitter:@takashi_kimura

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