アップルを部品納入企業が提訴 他社に技術漏洩させ発注先変更、不当な減額要求の疑い
一連の事態を受け、島野は開発・設備投資費用、生産ライン停止による赤字、不当なリベート要求などを損害として請求。また、特許権侵害対象商品の日本での販売差し止めを求めている。
筆者が取材したところ、本裁判においてアップル側は上記事実について一部事実を否認して争う姿勢であることが確認された。本裁判は現在審議中であり、その行方については現時点では不明だが、裁判で明らかになった事実が報道され大きな反響を呼んでおり、今後の展開に世間の注目が集まる裁判となっている。
●米大手IT企業との取引におけるリスク
筆者は日本企業に対するマーケティング・コンサルティングを多く行っているが、今回のような米大手IT企業から取引について、どう対応するのがよいかという主旨の相談が複数寄せられている。
日本メーカーの中でも特に技術に強い企業の場合、販売先は海外市場が大部分であるケースが多く、中でもアップルのような米大手IT企業からの発注は、発注数量が巨大で、開発要求の難易度も高い。そのため受注する側の企業は巨額投資を行い、独自の生産ラインを構築する必要に迫られる。よって、取引により一時的に売り上げが大きく上がったとしても、技術が社外に流用され発注を急に止められれば、大量の在庫と汎用性のない生産ラインを抱え、大きな損害を被ることになる。まさに一度食べたら要求をのみ続けるしかなくなる、「禁断の果実」となってしまっていることがあるのだ。
このほかにも、品質面のリスクもある。米大手IT企業が新商品開発を行うスケジュールは近年、28週間(約7カ月)ほどであるケースが多い。しかし日本メーカーは部品のリコール等で納入先や消費者に対して迷惑をかけないよう品質検査などの独自基準を設けており、米企業の要求スケジュールに応えて商品を開発しようとすると、その品質検査も十分にできず、品質リスクをはらんでしまう危険性が高い。
これにより発注元企業にとっても、商品の不具合により自社への信頼を棄損しかねないリスクを負うことになる。さらに今回のように裁判に発展すると、コストカットのための理不尽な要求の実態が公開された場合、企業イメージを大きく損なうリスクも負うことになる。結果として、短期的にはコストカットにより利益が上がるかもしれないが、長期的には企業ブランド価値そのものを毀損しかねないリスクを負うことになる。
加えて長期的には、発注先企業に無理な要求を続けていれば、本当の意味での協力関係も築けず、発注元企業の雲行きが怪しくなった時には取引先から一斉に切り捨てられるかもしれない、リスクが高い行為となってしまっている。