(「日立アプライアンスHP」より)
「とうていできるとは思えない」
約1年前の2011年6月8日、多くの日本企業関係者の度肝を抜いたニュースが、日本経済新聞の一面に載った。「日立、900社の人事共有 グループ人材 世界の適所に」という記事がそれだ。読み進めると”実現すれば”素晴らしい文言が並んでいることに気がつく。
「11年度をめどに36万人いる従業員のデータベースをつくる」
「管理職以上の評価基準を統一する」
「グループ全体から機動的に人材を登用」
これが実現すれば、例えばインド子会社のマネージャーが日本に移ったり、アメリカの社員がヨーロッパに異動したりという人事異動が円滑にできることになる。グローバル企業を目指す日立の本気度がうかがえるが、当時、この新聞記事を通じて内容を知った日立関係者は、「子会社の社長や役員レベルでもそんなことはできてない。そもそも、日立の業態からしてとうていできるとは思えない」と語っていた。
「日本の産業の縮図」。電機業界では日立をこう呼ぶ人が多い。電気シェーバーからテレビ、自動車部品、火力発電所まで、ありとあらゆる事業を手がけているからだ。「この木、なんの木」で知られる同社のテレビCMではグループ会社名が延々と流れるが、一度のCMですべてを流せないので、複数のパターンをつくっているほどである。
選択と集中がまったくできていないのでは?
よくいえばなんでも揃っている、悪くいえば選択と集中がまったくできていないともいえる。原子力と半導体に選択と集中を図った永遠のライバル・東芝とは、実に対照的な姿である。それでも日立が総合電機の王様として君臨できたのは、個々の事業部門や子会社が独力で戦ってきたためだ。「『野武士の日立』と呼ばれるように、事業部やグループ会社は独立精神が旺盛。日立は、そうした企業群の事業複合体に過ぎない」(アナリスト)
こうしたなか、日立が本体の求心力を高める戦略に転換したのは、09年3月期に7873億円という巨額赤字を計上したためだ。その後、半導体など赤字事業の整理に乗り出し、社会インフラ事業への原点回帰を打ち出した。だが、国内ではすでにインフラ事業が頭打ち。電力、社会システム、産業機器、情報通信などの事業複合体が世界に打って出るために、グループ人材の効率的活用が喫緊の課題として浮上したというわけだ。