よほどの危機感があるのか、人材のデータベース化は当初より遅れているものの、11年度中にグループ全体の8割近くを済ませた。一方で、計画の難しさも浮き彫りになっているという。人材の再配置にはまず対象の絞り込みと評価軸の設定が必要だ。管理職から始める計画だが、「管理職といっても地域ごとによって定義が違う。どこまでが管理職に相当するのか。その解釈の統一からやっと始まったところだ。ハッキリいって誤算続きだろう」(日立関係者)。対象人数を把握している状況、つまりは事業進行の入り口でつまずいている今、本格運用など夢のまた夢ともいえる。
大手有力子会社からは危機感と強い警戒
また、日立建機や日立化成など有力子会社の一部幹部の間では、日立本体のこうした動きに警戒を示す向きもある。
「正直、今さら口を出されてもという気持ちがないと言ったらウソになる。すでに独自でグローバル化が進んでいる我々から見て、今回のグループでのグローバル展開で、メリットがどの程度あるのか……」(日立建機関係者)
日立は人材以外でも、「ひとつの日立」を旗印にした計画を昨年から次々と打ち出している。同社幹部が最大の課題に挙げるのが間接費の削減。「米ゼネラル・エレクトリックなど、海外勢と肩を並べる2ケタの営業利益率をたたき出すには、間接費の削減は必須」(同)であるからだ。
日立は、社員寮や社宅の本社一元管理から、オフィス賃貸契約のグループ一本化まで、幅広い施策を掲げる。しかし、冷静にみてみれば、これまではグループ約900社がバラバラに運用してきたことにほかならない。言い換えれば、すでに各社が独自に行ってきたため、複雑な内情があるわけだ。日立社員からは「そもそも取引の相手にしても、各社が個別に培ってきたもの。それを十把一絡げにグローバル化するなんて、できっこない」との否定的な声も飛び出している。実際、グループ企業まで含めた一元化のメドは、現時点ではまったく見えていないという。
人材グローバル化の前に、ドラスティックな企業体質改善を
東芝関係者は「われわれも日立さんのような取り組みは考えているが、実現が難しいから大声では言わない。できるかどうかもわからないのに公言するあたりが、プライドが高い日立さんらしい」と語る。ただ、日立がゆっくりとだが着実に変わり始めた点は市場も評価している。総合電機で頭ひとつ完全に抜け出したと礼賛する声も多い。
壮大な計画をぶちあげても、「鈍牛」と呼ばれ、図体が大きく意思決定が遅い日立のままではグローバル競争で勝ち抜けない。計画を遂行するためには、ドラスティックに企業体質を変えていくスピードもまた、要求されているのである。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)
【前回記事(5月7日)】
「同業他社も呆れる…日立グローバル人材戦略の内実」