つい、「医療保険に加入すればよい」と思いがちだが、高額の医療費がかかったときには、健康保険から高額療養費という制度で払い戻しを受けることができる。たとえ100万円の治療費がかかり、3割負担の30万円を支払わなければならない場合でも、通常、自己負担分は約9万円。高額所得者の場合でも、16万円ほどで治療を受けることが可能だ。そう、払いすぎた分は、高額療養費として還付される仕組みなのだ。
さらに、医療費控除を適用することで、税金面でもセーフティネットが設けられている。ただし、医療保険やガン保険などで多額の入院給付金や手術給付金を受け取ると、医療費控除の対象外になってしまうことも。
近年、保険のニーズが死亡保険から医療保険へとシフトしている。子育てが一段落したら、長生きに備えて自分のために医療保険へ加入する人が多い。現在、医療保険は1回の入院で60日間保障されるものが主流だ。
気がつくと、支払う保険料は高額に
医療保険とは、ケガや病気で入院をすると、1日当たり決められた入院給付金や手術給付金が支払われるもの。1日当たり入院給付金を5000円に設定する人がもっとも多い。保険会社のホームページを見ると、5000円や1万円という例をよく目にするが、3000円から1000円単位で、自由に指定することが可能だ。
保険料は、1カ月当たり3000円や5000円と比較的払いやすい金額なのだが、長い間払い続けると、あっという間に100万円を超えてしまう。中には、終身払いという保険もある。長生きすればするほど保険料が高くなるしくみだ。
その一方、所得税や住民税を計算するときには、「医療費控除」という制度があり、1年間に10万円を超える医療費を支払ったときに税金が還付される。これは所得控除のひとつで、自分や家族の医療費を支払った場合、確定申告により一定の金額の控除が受けられる。
医療費控除対象外に注意
ただし、医療保険から受け取った入院給付金や手術給付金分は、医療費控除の対象とはならず、差し引かなければならないのはご存じだろうか?
・医療費控除 = 医療費の合計 — 保険金などで補填される金額(※1) — 10万円(※2)
※1:入院給付金、手術給付金、ガン診断給付金、高額療養費など
※2:所得金額が200万円未満の人は所得の5%
つまり、医療保険やガン保険などから、入院給付金や手術給付金などを受け取った結果、医療費控除が受けられないケースも多い。さらに高額療養費の払戻金や出産育児一時金も差し引く必要がある。
例えば、交通事故で手術を受けて16日間入院し、30万円を自己負担したAさんのケースで考えてみたい。所得税率は20%とする。
Aさんは、医療保険などには加入していない。30万円の医療費から10万円を引いた20万円が、医療費控除の対象となる。20万円の30%で、合計6万円の税金が還付される。
<Aさんのケース>
30万円-0円-10万円=20万円
20万円×20%(所得税率)=4万円
20万円×10%(住民税率)=2万円
合計:6万円の還付
医療保険で還付される税金が減ってしまう?
次に、医療保険から入院給付金を1日につき5000円受け取った、Bさんのケースを考えてみよう。入院日額5000円×16日=8万円、手術給付金10万円の合計18万円が支払われたと仮定する。
医療費30万円から、18万円とさらに10万円を差し引くと差額2万円。所得税率20%、住民税10%の場合、所得税4000円、住民税2000円の合計6000円しか還付されない。さらに、Bさんは医療保険の保険料負担があることを忘れてはならない。
<Bさんのケース>
30万円-18万円-10万円=2万円
2万円×20%(所得税率)=4000円
2万円×10%(住民税率)=2000円
合計:6000円の還付
医療保険に加入していないケースであっても、健康保険から高額療養費が支払われ、税金面では医療費控除の対象となり税金が安くなる。つまり、医療費が高額になるリスクをカバーする公的保障のしくみが用意されているのだ。
医療保険の準備が足りないと考える人は60%以上にのぼるが、あくまでも医療保険は、公的保障を補完するという位置づけであるということを前提に考えてほしい。場合によっては、保険に入ったつもりでその分を貯蓄しておくのも賢い方法だといえる。
(文=横川由理/フィナンシャルプランナー)