3社は、この事業統合に生き残りをかけている、とまでいわれていたが、ここにきて、各社は再編の枠組みよりも我先にと自社工場の売却に奔走している。自分の身が一番大切、というわけである。つまり、半導体の大型再編が頓挫の危機に瀕する可能性が浮上してきたというわけだ。
7月27日付日本経済新聞朝刊は、「富士通、三重工場売却」と報じた。富士通の半導体工場の中では最先端である三重工場(三重県)を、世界最大の半導体受託製造企業である台湾TSMCに売却するとの内容だ。当日開かれた富士通の4~6月期の連結決算発表で、同社幹部は「ノーコメント」と見解を述べなかったが、「三重工場を売るのは既定路線」とアナリストは語る。
富士通は08年秋の世界的な経済危機以降、半導体の構造改革に、他社に先駆け着手。各工場の生産ライン削減を進めたほか、今年は岩手工場(岩手県)を自動車部品大手のデンソーに売却。最大規模の工場である三重工場を売却できれば、福島県に小規模な生産拠点を複数持つだけになり、固定費を大幅に圧縮できる。
富士通、ルネサスがそれぞれ台湾TSMCに工場売却を打診
前出のアナリストは、「問題は売れるかどうか」と語る。というのも、TSMCにはルネサスも鶴岡工場(山形県)の売却を持ちかけているからだ。TSMCは世界中の半導体企業から生産を受託しており、生産能力が逼迫しているが、台湾でも設備を増強中。「地政学的にも、日本に2工場を持つ必要があるとは思えない」との見方が支配的だ。
三重、鶴岡の2工場の売却話が初めて浮上したのは今年の初頭。日本のデジタル家電の販売不振で、半導体工場の稼働率低下に悩むルネサス、富士通、パナソニックがシステムLSI事業の切り離しを検討した。システムLSIは複数の機能を1チップに収めた半導体で、00年代以降、日本メーカー各社が成長のエンジンに位置づけたが、多品種少量生産の製品計画が裏目に出て、赤字から抜け出せないで現在に至るからだ。そのため、3社は主力工場を受託製造会社に売却し、設計開発に特化した新会社を設立することで固定費の軽減を狙った。
経産省の統合シナリオ
この壮大な計画の全体像を描いたのは経済産業省だが、関係者の評判は芳しくない。ルネサス関係者は、
「3社統合は赤字のシステムLSI事業を切り離すことで、マイコンなど成長事業に各社の経営資源を集中させる狙い。逆に言えば、各社の不採算事業のシステムLSIを寄せ集める統合がうまくいかないのは、誰もがわかっている。それだけに、3社の現場レベルでは統合スキームに首をかしげる者も多い」
と語る。