実際、役人が画策した現場を無視した計画ゆえか最初からつまずく。当初、工場の売却先としてもくろんだ米グローバルファウンドリーズ(GF)は自社の業績が芳しくないこともあり、交渉が難航。GFは中東のファンドが大株主であることもあり、経産省も資金面で余裕があるとみたのだが、これがひとつ目の誤算になる。「GFは、世界各地に新工場を建てて生産能力を拡大している割には、受託量があまりにも少ない。いくらなんでも生産能力に余剰感が強く、GFもルネサスなどの工場の買収には二の足を踏んだ」(金融筋)という。
2つ目の誤算が、エルピーダメモリの破たん。同社には公的資金が注入されており、破たん直後には国の責任を問う声もあった。そのため、リストラが進まないルネサスを含む3社統合に官が、再び大手を振って援助するわけにはいかなくなり、交渉が凍結された。
工場の買い手が見つからない
7月、ルネサスが従業員の約3分の1弱にあたる1万人の大規模リストラを表明したことで交渉は再開されたが、肝心の工場の買い手が決まっておらず、再編の先行きは不透明感が増す。
金融関係者は、
「そもそも、不採算工場の切り離しを狙った3社が、経産省のスキームに乗ったというだけ。再編ありきではない話だけに、頓挫する可能性も高い」
と指摘する。実際、富士通にしてみれば、三重工場が売れれば半導体の構造改革がほぼ完了する。再編だろうが単独での売却だろうが、工場の処理にメドがつけば方法は選ばないというのが本音だろう。
ルネサスにしても、3社統合の前には東芝との事業統合に動いていたことからもわかるように、システムLSIとその主力工場の切り離しこそが最優先課題。人員削減には鶴岡工場の売却も織り込み済みだけに、売却交渉が破談すればリストラの枠組み自体が狂うことになる。手段を選ばず、是が非でもまとめたいところだ。
工場処分合戦は、これからデッドヒート
7月初旬、富士通とルネサスの売却交渉相手とされるTSMCのモリス・チャン会長は、「ルネサスのどの工場も買う計画はない」と明言。交渉を有利に進めるための発言か真意は不明だが、技術的にもTSMCのほうが優れているため、安値でなければ買う意思はないともいわれる。