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田部康喜「会話のネタがつくれちゃう!? 新メディア時評」第1回

9月7日から3日間、なぜ橋下徹のツイッターは止まったのか?

文=田部康喜

9月7日から3日間、なぜ橋下徹のツイッターは止まったのか?の画像1『ツイッターを持った橋下徹は小泉純一郎を
超える』(講談社/真柄昭宏)
 朝日新聞記者、ソフトバンク広報室長を経て、現在はシンクタンク・麻布調査研究機構代表理事を務める田部康喜氏が、気になる書籍やメディア報道の紹介を通じて、ホットなあの話題の真相に迫る! 

 橋下徹・大阪市長のツイッターが止まったのは、7日午前6時48分27秒だった。この日は17回つぶやいている。最後のツイッターが「posted at 06:48:27」である。教育について、教育委員会と首長がどのように関与していくべきかが、つぶやかれている。

 橋下市長のフォロワーは82万2763人、フォローしているのは中田宏や東国原英夫ら28人である。政治家として、そのフォロワーの数はトップクラスである。1日に10回以上もつぶやくことがある橋下のツイッターが、2昼夜にわたって止まったのである。

 大阪市長の橋下徹が率いる大阪維新の会は9日、国政への進出を目指して、まず政党設立に向け、自民党、民主党、みんなの党所属国会議員7人と討論会を開いた。政党要件である5人以上の国会議員の参加を得て、総選挙に打って出る構えである。

 そして、橋下のツイッターは止まってから4日目の10日になってようやくつぶやきを再開した。しかしそれは、フォロワーが期待した国政の話ではなく、大阪市が補助金の削減対象としている文楽についてだった。

『ツイッターを持った橋下徹は小泉純一郎を超える』(講談社)は、小泉純一郎内閣のもとで総務相や金融担当相など務めた、竹中平蔵の政策秘書だった真柄昭宏(まがら・あきひろ)による橋下論である。

「ラジオを駆使したヒトラー、テレビを駆使した小泉純一郎、そしてツイッターを駆使している橋下徹は、まったく異なるメディアを使ったまったく異なるリーダーである」――「腰巻」と呼ばれる本の内容を盛り込んだ、表紙の巻き紙には、世界を惨禍に陥れた独裁者と長期政権を樹立した首相が並べられている。

 しかしながら、本書が多くの頁を割いて綴っているのは、リーダー論ではない。書名にあらわれているように、著者の真柄は橋下市長にシンパシーを抱くものではあるが、大阪維新の会の政策を論じて、その優れた点を指摘するのでもない。ましてや、橋下市長を批判する学者らがよくなぞらえる、ヒトラーとの比較論ではまったくない。

 つまり、ある政治勢力が権力をつかむために掲げる「理念」となる政策や、権力の頂上にのぼりつめる「戦略」を説く書籍ではない。「何をなすべきか?」あるいは、「それをどのように実現していくか?」を語る軍略書ではない。

 それでは、本書は何を描こうとしているのか?

 橋下市長が政権を握ったときに、その権力を長期に維持する「戦術」について多くのページを割いている。

 ドイツの社会学者のマックス・ウェーバーは「職業としての政治家」のなかで、「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という有名な言葉を語っている。この著作は、1919年1月にミュンヘンにおいて学生を対象にした講演録である。ドイツは第1次世界大戦の敗北から帝政の廃止に向かって、さまざまな政党が乱立していた。

 この混乱のなかから、民主主義の精華といわれたワイマール体制が生まれ、それがヒトラーによって全体主義へと導かれるのである。ドイツ国民である学生に対して、近い過去の経験に学ぶのではなく、歴史に学べと訴えたウェーバーの警句は生かされなかった。

『ツイッターを持った』のなかで、真柄が多くのページを割いて綴っているのは、小泉政権の経験である。現代史ともいえないきわめて近い過去から、橋下市長の権力維持の「戦術」を説く。

 小泉政権の経済政策、特に不良債権処理などの拠点となった、経済戦略会議の主導権を握る竹中の戦術に光をあてる。橋下市長のもとに大阪市役所顧問などの肩書で参集している、「改革派官僚」たちが、省庁の外で集まって政策を立案する。政策秘書であった、著者の真柄もメンバーである。事務局が書き上げた政策案が決定される直前に、改革派が練った政策を実現するために報告書などに重要な文言を加える。

 改革派官僚と呼ばれる元官僚たちの著作に、必ず現れるシーンである。

 真柄は彼らが橋下市長のもとに集まり、維新の政策を練っていることを高く評価する。橋下が権力を握った際には、彼らの戦術を使うことを勧めている。

 小泉政権はいわば、現代史にもなっていない。その政策の是非について正当な評価が下るまでには、時の砂が落ちるのを待たなければならない。

 今学ぶべきは、歴史である。国民による国家すなわち国民国家は、フランス革命とアメリカ独立によって「発明された」新しい歴史的な枠組みである。大ざっぱにいえば、国旗と国家に忠実を誓えば、その国の国民となる。

 この国民国家は、それまでの王政に比べてきわめて強力であった。欧米諸国はこぞって国民国家の建設を目指したのである。明治維新によって、日本はアジアのなかで唯一、国民国家の設立に成功し、列強の位置に滑り込んだ。

 尖閣列島と竹島の問題は、日本人に国民国家の意識を覚醒させた。

 そして、東日本大震災である。戦後の死者の数としては最大であり、戦争の犠牲と同様の思いを国民に想起させるものである。いままさにウェーバーが学生に向かって講演していたときのような瞬間に日本はあるのではないか。

 民主党と自民党の代表、総裁選、維新の政党化……この混沌とした政局のなかで、いったい何が起ころうとするのか? 

 歴史に学ぶ視点を固く持ちながら、経験を語る『ツイッターを持った』を読むのは悪くない。

 日本を再生に導く政治家は誰なのか。歴史にならない経験を見ていけば、愚者がわかるであろう。それは政治家に限らない。彼らの周辺でうごめく者たちも含めて。
(敬称略)

田部康喜

田部康喜

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員(経済、農業、社会保障担当)などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。メディア論、産業論、政策論など、幅広い分野で執筆、講演活動をしている。

個人公式サイト 株式会社ベネル 田部 康喜公式サイト

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