スカイマーク、パイロット強制解雇裁判で全面敗訴
これに対して重大な懸念を持ったラックラン氏は、バスを止めさせ、本日の業務を行わないよう伝えた。その理由は、「JCAB(国土交通省航空局)により認められたスカイマークの業務マニュアルと、機長としての経験によって、もし客室乗務員がしゃべることもできないのであれば、緊急状態において適切に役割を果たすことは不可能」と判断したためだ。
しかもJCABの規則によれば、羽田空港を離陸するにあたっては、少なくとも4人の客室乗務員が確保されていることが最低限の要件のため、代わりの要員を用意し、補てんするよう、本社に依頼した。
それからしばらくすると、なんとスカイマークの西久保愼一社長がバスに乗り込んできて、飛行機を飛ばすよう指示した。
しかし、「安全上の理由から、このままの状態で搭乗業務を行うことはできません」と社長の命令を拒否したラックラン氏は、バスから降ろされ、事務所に連れ戻された。そして、スカイマーク会長で安全統括管理者も兼ねている井手隆司元社長の自室に連れて行かれた。
ラックラン氏は、ことの経緯を井手氏に説明し、「話は簡単です。代わりのチーフ・パーサーを呼んでくれればよい」と述べた。すると、井手氏は「我々は交代要員など有していない。しかも、既に177人もの乗客が君を待っている状態だ。搭乗してくれないと困る」と言った。
「スカイマークは飛行機運航の安全をそこまで軽視するのか?」とラックラン氏が聞き返すと、井手氏は「彼女(四元氏)は別に病気じゃない」というので、直接、確かめた。
四元氏の声を聞いた井手氏は「彼女が病気で、よく話せないことはわかった。ただ、チーフ・パーサーの役割は、長島(仮名)に担当させることもできるではないか」と言う。つまり、四元氏を、一客室乗務員として搭乗させようとしたわけである。
ラックラン氏は「彼女(四元氏)は通常の搭乗業務を遂行できる体調ではありません。一体どうやって彼女に緊急時における任務が遂行できるとお思いですか?」と聞き返した。すると、井手氏は、驚くべきことにこう言ってのけた。「(緊急事態など)何も起こらないよ(Nothing is going to happen)」。
その後、飛行機は別の機長が飛ばすことになった。ラックラン氏は帰宅させられた挙げ句、解雇された。そもそもラックラン氏の雇用形態は、パーク・グループという外資の派遣会社を通して、3年契約の更新制でスカイマークの機長をしていたが、契約途中での突然の解雇だった。解雇理由は、「業務命令に従わず乗務を拒否したこと」が主因だった。
この解雇は違法であるとして、ラックラン氏は10年4月、地位確認と判決確定までの給与の支払いなどの損害賠償(提訴時の金額2944万円強)を求めて東京地裁に提起した。