ゴールドマン・サックスといえば、言わずと知れた世界最大の米系投資銀行。日本でもバブル経済崩壊後に経営危機に陥ったさまざまな企業や不動産などの資産を購入し、“ハゲタカ”などと呼ばれた。近年、日本ではもうかる投資案件が減少したこともあり、その“活躍ぶり”に目立ったものはないが、世界を見渡せばゴールドマン・サックスはいまだに強大な力を持っている。
その象徴ともいえそうな出来事が、11月26日に起こった。イギリスのジョージ・オズボーン財務相が下院議会で、イングランド銀行(BOE)の次期総裁に、現在、カナダ中央銀行の総裁であるマーク・カーニー氏を指名したのだ。
BOEの次期総裁については、同行生え抜きのポール・タッカー副総裁(金融安定担当)が本命と見られていただけに、サプライズ人事となった。初代総裁のジョン・ホーブロン卿から120人目の総裁となるカーニー氏は、1694年のBOE創設以来、初めての外国人総裁となる。
カナダは、リーマン・ショック後に世界が金融危機に陥った局面でも、公的資金による金融機関の救済や巨額の財政政策による経済の立て直しなどを回避しており、10年6月には先進国の中で真っ先に利上げに転じた。こうしたカーニー氏のマクロ経済政策の運営手腕は高く評価されている。
さらに、カーニー氏はG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議で構成される金融安定理事会(FSB)の議長、国際決済銀行(BIS)の役員も務めており、国際的な金融規制・監督にも精通している。
65年生まれの47歳という若さのカーニー氏は、ハーバード大学で経済学学士、オックスフォード大学経済学修士・博士を取得しているが、特筆すべきは88年から13年間、ゴールドマン・サックスでの勤務経験がある点だ。アナリストとしてゴールドマン・サックスに入社後、カナダ投資銀行部門責任者で退社するまでの間、ニューヨーク、ロンドン、トロントのほか、東京での勤務経験もある。03年にカナダ中銀副総裁に就任し、08年から総裁を務めている。
同氏は、13年6月1日にカナダ中銀総裁の職を辞し、7月1日にBOE総裁に就任する予定となっている。
これでついに、ゴールドマン・サックスが世界の金融市場をコントロールすることになりそうだ。世界の金融市場における同社出身の代表格は、EU圏の債務危機対策を最前線で務める欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁(11年11月就任)。同氏は、ゴールドマン・サックスで副会長兼国際部門経営責任者だった。さらに、イタリアのマリオ・モンティ首相(11年11月就任)もゴールドマン・サックスの国際顧問を務めた過去を持つ。