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安倍政権、金融緩和による円安・株高政策が見落とすワナ

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「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/12月29日号
・1月5日号)
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/同号)
 金融緩和による円安・株高政策で本当に景気はよくなるのかーー

 昨年12月26日に発足した安倍新政権は、デフレ脱却の経済政策が最優先だ。こうした考えに日本経団連も同調しており、民主党政権時代には冷え切っていた政・財の関係も改まろうとしている。これを否定するつもりはない。

 しかし、円安は一時的には株価を押し上げ、景気を回復させたように見えるが、グローバル経済が加速している時代は、デメリットもある。輸入している食料やエネルギーの価格が上昇する。原発が動いていない状況では、主力は火力であり、その燃料の原油やLNG(液化天然ガス)は値上がりし、電気料金にも跳ね返ってくる仕組みになっている。

 だから物価が上がって、デフレ脱却ということなのだろうが、年金生活者にとって負担は増す。経団連は定昇制度を見直す考えを示しており、給料が上がらなければ、サラリーマンにとっても負担は大きくなる。

 安倍新政権の閣僚ら関係者の言動で気になる点もある。「構造改革」という言葉がほとんど聞かれない点だ。日銀を使った「打ち出の小槌戦略」で通貨を大量に市場に出したり、公共事業をばらまいたりしても、一時的に景気は良くなったかのように見えるだけだろう。

●日本経済に空く「穴」

 もともと日本経済には「穴」が空いている。グローバル資本主義の時代に主役であるはずの日本企業、特にこれまでけん引してきた電機産業はリストラ続きでぼろぼろである。ソニーやパナソニック、シャープなどの万人単位での人員削減を見ればわかる。エンジニア切り捨てによる商品開発力の低下や時流を見誤った過剰投資など、経営陣の失策により赤字に転落した「人災」でもある。そして、抜本的な成長戦略を打ち出す能力にも欠けている。

 だから、エコポイント制度で補助金を何千億円と吸い込んでおきながら、その制度が終わると、大量にクビ切りをしている。そして経営トップだけは高額の報酬を得ている。ソニーのCEOだったストリンガー氏はその象徴的な経営者だ。パナソニックの中村邦夫相談役や大坪文雄会長も、リストラの最中に年間1億円を超える報酬を得ていた。

 円安・株高になって一服ついても、これは、穴のあいた袋に水を入れ続けているのと同じである。能力や志が低く、自分さえよければいい経営者が増えたようにも見える。こうしたトップがいる企業に対しては、政策や補助金という「水」を入れ続けてあげないと、「水」はなくなってしまう。自助努力で「水源」を見つける能力がないからだ。

 穴をふさぐことのほうが先決だ。穴をふさぐのが構造改革である。自分で穴をふさぐことができない企業に対して税金や政策で一律に支援することはやめるべきだ。そうした企業は市場から淘汰されるべきである。経営責任も追及してけじめをつけ、自分で穴をふさぐ意欲のある企業だけに支援すべきでもある。自助努力での競争を促すインセンティブが効くような政策でないと意味がない。そうでなければ税金を捨てるだけだ。税金が新たな税収や雇用を生み出す、めぐりの良い政策が必要なわけで、これが真の景気回復につながる。市場での敗者に対しては別の政策を用意すればいい。景気浮揚のために、ばらまいてすべてを助ける政策は、結局は後の時代にツケを回すことになるだけだ。

●破綻寸前に陥った日産の教訓

 かつての日産自動車は、1987年3月期に円高の影響を受けて創業以来の初の営業赤字に転落したが、構造改革を怠った。関連企業への天下りや労組との癒着など高コスト体質の改善に手を付けなかった。しかし、その後のバブル経済によって「シーマ現象」という言葉も生まれたように、利益率が高い高級車が一時的に売れて日産の構造的課題が覆い隠されてしまった。バブルという「メッキ」は剥がれると、馬脚を現し、土地や株を売って含み益を吐き出す経営が続いた。90年代半ば以降、日産は当期純損失を計上し続けて経営破たん寸前に陥った。