経営再建中の半導体大手・ルネサスエレクトロニクス。政府系ファンドの産業革新機構(以下、革新機構)が大株主となり、再出発することになったが、最大の焦点は次期社長の人事だ。その有力候補として、ソニーでかつて社長候補と目された人物が挙がっている。
ルネサスは赤尾泰社長をはじめ主要役員の引責辞任は既定路線。早ければ4月にも新社長が誕生するが、次期社長人事は現時点では混沌としている。革新機構に加え民間企業も出資するため、出資額が多いトヨタ自動車からの招聘も噂されたが、「出資したほかの民間企業との関係からありえない。トヨタも、主体的に再建に関与したくないはず」(証券アナリスト)との見方が支配的だ。
ソニー社長レースでは平井氏と競った
こうした中、有力候補と見られているのが吉岡浩氏だ。ソニーの元副社長で、テレビなどのAV事業や放送機器事業などを担当。ハワード・ストリンガー前CEOを支えた「四銃士」の一人で、一時期は次期社長候補の筆頭ともいわれた。同社関係者によれば、「現社長の平井(一夫)さんはCBSソニー・レコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)出身で音楽やゲームを担当してきた傍流。一方、吉岡さんはソニーの本流を歩いてきた人」という。しかし、吉岡氏が管轄したテレビ事業は赤字が続き、その間に平井氏はソニー・コンピュータエンタテインメントの社長を務め、ストリンガー氏が掲げたソフト・コンテンツ路線の強化を忠実に実行。社長レースは平井氏に軍配が上がった。
吉岡氏は2012年4月からの平井体制下ではメディカル事業を担当してきたが、昨年末に退任。新聞各紙は「本人の都合で退任したいと申し出があった」と報じた。突然の退任だったため、タイミングから「ルネサスのトップに招聘されたのでは?」との観測が一気に広がった。
ルネサス社長の人事権を握るのは大株主の革新機構だが、機構関係者は「吉岡さんは候補の一人」と認める。すでに、吉岡氏と革新機構の間にはパイプもある。一昨年にソニーと東芝、日立製作所の中小型液晶事業が統合した際に、交渉に当たったのが吉岡氏だった。
手腕を疑問視する声も
吉岡氏の手腕を疑問視する声もある。ソニーという巨大企業での事業部門のカジ取りの経験があっても、今のルネサスは大ナタを振るわなくてはけない局面。リストラをどこまで進められるかは未知数だ。「ソニーではテレビ事業を改善できなかった。吉岡さんだけの責任ではないが、マイナス局面に強い人ではない」(ソニー関係者)との指摘もある。
それでも、経産省関係者は「社長にいきなり就任するかはわからないが、将来の社長含みで、役員として『入閣』する方向で話は進むのでは」と語る。というのも、ほかにめぼしい人材がいないのが実情だからだ。
実際、新年のある業界団体の賀詞交換会では「ポスト赤尾」として、5月に退任するインテルのポール・オッテリーニCEOや韓国サムスン電子の幹部の名前が、参加者の間で冗談交じりに飛び交っていた。
前出の経産省関係者は「国がカネを出すのに外国人の起用はあり得ないが、そうした噂が出るほど、マネジメントに長けた日本人の人材が枯渇している」と嘆く。半導体は典型的だが、総合電機の傘に長らく守られてきたため、事業部門長クラスでも、「上にさえ伺いを立てればよい」という感覚がいまだに抜けきらない人材が少なくない。ルネサスの次期社長人事は、日本の電機業界におけるマネジメント層の人材不足を露呈している。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)