5月26日付朝日新聞は1面で、「経営不振に陥っている半導体大手のルネサスエレクトロニクスが、取引先の銀行に対し、全従業員の3割近い計1万2000人程度を削減し、日立製作所をはじめとする親会社3社などに計1000億円の増資を引き受けてもらう経営再建策を示している」と報じた。
巨額増資を前提とした経営再建策は、絵に描いた餅にすぎない。日立やNECは出資に否定的だからだ。親会社3社が出資に応じなければ、経営再建策は空中分解する。
ルネサスは、日立と三菱を母体とする旧ルネサステクノロジと旧NECエレクトロニクスが10年4月に統合して発足。存続会社はNECエレで、発足時の筆頭株主はNEC。当初の出資比率はNECが35.46%、日立が30.62%、三菱が25.05%だった。
その後、業績が低迷するNECは出資比率を徐々に減らしていく。11年2月、NECはルネサス株の一部を退職給付信託に追加拠出した。信託設定額は約710億円。これに伴い、NEC名義の出資比率は16.71%に低下し、筆頭株主でなくなった。退職給付信託の名義は、従来の分と合わせて18.75%に上昇した。年金財政の健全化が目的としているが、実際は違う。11年3月期決算を乗り切るために、ルネサス株式の拠出に伴う信託設定益(単体決算ベースで約180億円)をひねり出す苦肉の策であった。
NECはルネサスからの撤退を早める。5月1日付でルネサス株式の一部を退職給付信託に追加拠出した。信託設定額は約270億円。その結果、NEC名義の株式の出資比率は3.02%に激減。退職給付信託名義は32.44%に高まった。13年3月期の単体決算で信託設定損として150億円の特別損失を計上するというおまけまでついた。
NECが特別損失を計上してまでルネサス株式の名義を移し替えたのは、ルネサスから手を引くためだ。信託の名義にしておけば、退職金を支払う際に、いつでも信託銀行経由で市場で売れる。信託設定分まで含めるとNECの出資比率は35.46%で、日立(30.62%)を上回るが、単独ではわずか3%。大株主の上位3社に入らない。これなら、ルネサスからの追加の出資要請を断る口実になる。