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豊田章男社長とは犬猿の仲で、内紛も勃発していた!

奥田・元経団連会長 トヨタ “決別宣言”と”舞台裏”

文=編集部
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post_132.jpgどことなくすっきりしたお顔の奥田総裁。(「JBIC」サイトより)
「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」。かのダグラス・マッカーサー元帥の退任の弁である。わが国の経済界の元帥閣下は消え去るどころか、表舞台に戻ってきた。元経団連会長でトヨタ自動車の社長&会長を務めた奥田碩氏(79)である。4月に国際協力銀行(JBIC)総裁に就任した。

 JBICの総裁に就任したのと時を同じくして、トヨタ自動車は「奥田氏が相談役を退任し、トヨタの役職から完全に外れた」と発表した。トヨタは国際協力銀行法で同行役員が営利事業に携わることが原則禁止されているため、と退任の理由を説明したが、「渡りに船」といった印象が濃かった。

 奥田氏は95年にトヨタの社長に就任。99年から会長を務めた。取締役相談役を経て、09年6月から相談役、統合前の99~06年までは経団連会長も務めた。小泉純一郎内閣では経済財政諮問会議の民間議員として、小泉構造改革の推進役を担った。政治とは一線を画する方針のトヨタの中では異色の経営者といえた。

 豊田家の4代目の御曹司である豊田章男社長(55、トヨタ自動車11代目社長)と、奥田氏の不仲は有名である。4代目というのは、佐吉(豊田紡織創業者)、喜一郎(トヨタ自動車創業者)、章一郎(章男の父、トヨタ自動車6代目社長)、そして章男と続く創業一族の系譜だ。

 奥田氏は章男氏の経営力を買っていなかった。「章男級の人材はトヨタにはゴロゴロいる」と言ってはばからなかった。米国での大量のリコール(無料の回収・修理)問題の責任をめぐり、章男社長と奥田氏ら旧経営陣の内紛が噴出したこともあった。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本版(2010年4月14日付)が報じて明らかになったが、トヨタからの広告が差し止めになることを怖れて、日本のメディアはどこもこの内紛を報じなかった。

 WSJは「豊田社長が仲介者を通じて渡辺捷昭(かつあき)副会長に、副会長を退任して関連会社の経営に当たるよう提案したが(※編集部注 豊田自動織機の会長ポストを提示したとされる)、渡辺氏がこれを拒否。元社長で創業家一族でない奥田碩相談役は、(このような無茶な提案をする)豊田社長の方こそ辞めるべきだと述べた」と書いている。

 トヨタを世界的な自動車メーカーにした旧経営陣と創業家がリコール問題の責任の所在をめぐり、真っ向から対立したのである。トヨタの現経営陣(というより章男社長)にとって、目の上のたんこぶだった奥田氏がトヨタから完全に離れたのは、誠に喜ばしいことなのである。

 奥田氏がJBICの総裁に就任した裏には経営者というか、男同士の激しい愛憎があったのだ。

 実は奥田氏は東京電力の会長に内々定していた。内々定というのは少し語弊があるかもしれない。奥田氏は民主党の仙谷由人政調会長代行の要請に応えて今期、東電会長を受諾する腹を固めていた、と奥田氏の周辺は証言する。章男の父親の豊田章一郎氏にも根回しを終え、章一郎氏も奥田氏の考えに反対しなかったという。

 ところが、まとまりかけた人事に、トヨタの現経営陣が待ったをかけたのだ。「トヨタブランドに傷がつくことを強く懸念したため」と伝わっている。

 昨年夏には原子力損害賠償支援機構のトップに、渡辺捷昭・前トヨタ社長の就任が水面下で進行した時も、同じ理由で反対したといわれている。奥田氏は現経営陣との相克を乗り越えてJBICの総裁に就任したわけだ。

 久々に表舞台に登場した奥田氏は弁舌滑らかだった。4月2日に行われたJBIC総裁の就任会見では、まるで経団連会長時代に戻ったかのようであった。人選が難航する東京電力の次期会長の人事について、「一般に商品を売る会社の出身者は適切ではない」と語った。表面的には「東電に対する批判が、会長の出身企業に波及し、商品の売れ行きが鈍る恐れがある」との懸念を示したものと受け止められた。しかし、章男社長との激しい相克を知る関係者は奥田氏のトヨタ(章男社長)への決別の辞だったと打ち明ける。

 ちなみに東電の勝俣恒久会長(72)の後任候補と取り沙汰された経済人は少なくない。ざっと挙げると、葛西敬之・JR東海会長(71)、三村明夫・新日本製鐵会長(71)、吉川廣和・DOWAホールディングス相談役(69)、數土(すど)文夫・JFEホールディングス相談役(71)、槍田松瑩(うつだ・しょうえい)・三井物産会長(69)、大橋光夫・昭和電工相談役(76)、中国大使の丹羽宇一郎・伊藤忠商事元会長(73)、そして奥田碩・トヨタ自動車相談役だ。

 奥田発言に早速、政財界から反応があった。経済同友会の長谷川閑史・代表幹事(武田薬品工業社長、65)は記者会見で「奥田さんの懸念はよくわかる。その会社の製品のボイコットという形にならないように望みたい」と同調。「大変な役割なので、スムーズに(人選が)いかないのは無理もないと思う」と人事の困難さに対しても理解を示した上で、「すべてをなげうって東電のため、国家のために難しい仕事をやってもよいと判断される経営者がいれば、(財界・経済界を挙げて)サポートしていくことが大事だ」と述べた。

 奥田氏は「日本の政治、経済は、世界の変化に2周も3周も遅れた。体力のあるうちに国のために貢献したい」と述べた。その上で、JBICの総裁に就任するにあたって「安住淳・財務相(50)から直接打診を受けた」ことを明らかにした。だが、本当は岡田克也副総理が奥田氏を口説いたのだ。口説いたというよりも、奥田氏に(章男社長に対して)リベンジさせようとしたのかもしれない。経済同友会の長谷川代表幹事の発言を思い出してほしい。「すべてをなげうって東電のため、国家のために難しい仕事をやってもよい」と判断した奥田氏をトヨタ(というより章男社長)はサポートしなかったのだ。

 現役の経団連会長(米倉弘昌氏)よりも、元経団連会長の発言のほうが重く、政財界の反応が大きいというのは正直言って不幸なことだ。

 奥田発言が波紋を呼ぶのはいつものことだ、などといって済まされる問題ではない。結局のところ政財界の人材不足に行きつく。と同時に、奥田発言は豊田章男・トヨタ自動車社長の「日本の製造業を守る。地域のために貢献する。国内の雇用やものづくりに貢献できなければ意味がない」という発言は付け焼き刃にすぎなかったことを、間接話法で証明してみせたのである。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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