コロナ禍以降、お菓子市場が大きく変わってきた。ガム、キャンディー、チョコレート菓子からグミに顧客が流出しているのだ。その結果、グミの市場は10年前の約3倍にまで拡大。さらに、グミ市場の中でも変化が起きている。かつては圧倒的なシェアを誇っていた明治とUHA味覚糖に、カンロが猛烈に追い上げて割って入った。経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、明治とカンロのブランド責任者に取材し、業界を分析した。
スーパーやコンビニなど各地の小売店で買える菓子(業界では流通菓子という)は、調査データにもよるが約2兆円の市場規模といわれる。
2020年から始まったコロナ禍で、菓子は行楽制限による需要減、在宅時間増加による需要増という両極の動きを示した。近年は消費者意識の変化で人気の品も変わってきた。
そして2021年に起きた現象が、「グミ」が「チューインガム」を上回ったこと。その4年前はガムとグミは200億円以上差があったので驚くべき事態だ。好調を実感するのが、コンビニの売り場だ。店内の1等地と呼ばれる場所でも、グミ関連商品が幅を利かせている。
筆者もコロナ直前の2019年末、「仕事おやつがガムからグミへ」という記事を書いたが、コロナ禍でもグミは拡大を続け、「2023年(1~12月)は972億円」(インテージSRI+の推計販売規模)といわれる。
現在、どんな状況となっているのか。2社のブランド責任者に聞いた。
グミ人気が高まった5つの理由
「近年の伸びはコロナの閉塞感の中で、味に加えて楽しさが評価されたのも大きいと思います。コロナ明けの現在は仕事中の息抜き、在宅での気分転換などで喫食されています」
明治で「果汁グミ」などを担当する福島浩介さん(グローバルカカオ事業本部 カカオマーケティング部 課長補佐)はこう話し、人気の理由として、「(1)バリエーションの豊富さ、(2)新商品のわくわく感、(3)コミュニケーションツール、(4)コスパ・タイパの良さ、(5)小腹満たし・手が汚れない」の5つを挙げる。
それぞれ補足すると、(1)は色・形・味の種類も多く、(2)次々に登場する新商品を楽しむ人もいる。また、(3)人と会う時に渡したり、一緒に楽しんだりもでき、(4)価格も100~200円程度が多く、口に入れればしばらく味わえる。(5)手軽に小腹を満たすことができ、大半の商品は手が汚れない。“スマホをいじりながら”の現代人にも合っているのだ。
日本のグミ市場を開拓したのが、明治(当時は明治製菓)だ。1980年にコーラ味の「コーラアップ」を発売。さらに1988年に「果汁グミ」を発売した。果汁の煮詰め技術やゼラチン溶解技術を実現させた同商品の大ヒットにより、競合他社もグミ市場に参入した。
2000年以降は各メーカーから果汁系や飲料系のラインナップも増え、近年、より市場が活性化しているのだ。味は大きく分けて「果汁系」(約6割)とコーラやソーダなどの「飲料系」(約3割)、「グルメ系などその他」(約1割)と聞く。
各社の競争も激化、玩具メーカーも台頭
各社の競争は激化しており、メディアも注目している。
今年4月、『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生著、プレジデント社刊)という単行本も発売された。著者・出版社の許可を得たので内容の一部を紹介したい。
上表のように2022年のメーカー別順位は1位明治、2位カンロだったが、近年は明治やUHA味覚糖などがシェアを落とし、カンロが伸びている。上位に玩具メーカーのバンダイが入るのが意外かもしれないが、アニメのキャラクター系グミが人気だ。
マーケティング視点で気になる部分もあったので、一部紹介しよう。
<もうひとつ興味深いデータがある。グミはガムの市場から顧客を奪っているわけではないということを、マクロミルが分析している。同社によると、錠菓も含めたガムなどの口中清涼菓子のほかにキャンディー、チョコレートからも顧客がグミに流入しているという>(同書P23より引用)
これに続き、小袋タイプのチョコレート菓子(ポケチョコ)から約16億円がグミに流れた例を紹介する。上記の錠菓とは「ミンティア」などのタブレット菓子だが、コロナ禍のマスク生活、人に会う機会の減少で口臭ケアの必要性も減り、一時販売が激減した。
カンロ「ピュレグミ」が首位に
グミに対する消費者の思いも聞いてきたが、次のような点を挙げる人が多かった。
「いろんな味を楽しむことができ、さまざまな種類や食感が楽しいです」(20代女性)
ブランド別順位では変化が起きた。長年首位だった「果汁グミ」(明治)にかわって2022年から「ピュレグミ」(カンロ)が首位となり、2023年の順位は次の結果になった。
カンロの河野亜紀さん(ピュレグミ・カンデミーナ ブランドリーダー)は、最近の実績と躍進の理由をこう説明する。
「ブランド全体ではグミブランド売上No.1(DATA: 株式会社インテージSRI+ グミ市場2023 年4 月~2024 年3 月累計販売金額)を維持し、累計販売数は12億袋を突破しました。
好調要因としては、ピュレグミの情緒的訴求が挙げられます。直近3年間では、カラフルなパッケージや、見つけるとうれしいシークレット型、底面メッセージやカラーストーリー、気持ちを前向きにさせるプロモーション施策など、“ピュレグミがそばにあることでトキメキ、気持ちが上がる”という価値を意識的に伝え続けてきました」(河野さん)
同社から「ピュレグミ」が発売されたのは2002年。発売当初から大人の女性をメインターゲットにした。同ブランドは右肩上がりの後に伸び悩み、2015年頃から商品のリニューアル、ラインナップ拡充などを行い、近年の好調さにつなげている。“きゅんと、果肉食感”を掲げる「ピュレグミ」、“濃密果実ジュレin”を掲げる「ピュレグミプレミアム」などで市場を攻める。2013年には男性向けに「カンデミーナグミ」も発売した。
一番人気は「ぶどう」系、「噛み心地」には変化
ちなみに「グミ」の人気フレーバーは、昔も今も変わらない。
「一番人気はぶどう味(グレープ)で、どのブランドもぶどう味が強いと思います。ゼラチンとの相性が良く、ジューシーさが感じられるのでしょう。『果汁グミ』も“ぶどう”が1位で、2位が“温州みかん”、3位が“マスカット”です」(明治の福島さん)
「業界全体としてぶどう味が一番人気ですが、グミは味×食感の表現のしやすさからフルーツ以外にも、炭酸飲料系や、グルメ系へも広がりを見せています。
また、最近ではインバウンド需要から、とろりとした食感の『ピュレグミプレミアム』シリーズの“山梨産白桃”味も非常に人気となっています」(カンロの河野さん)
一方、硬さは商品によって違う。「果汁グミ」はやわらかい噛み心地。「ピュレグミ」は少し硬く、きちんとした噛み具合だ。
外国製で人気の「ハリボー(HARIBO)」(原産国ドイツ。取扱いは三菱食品)は非常に硬い。クマのグミで知られるハリボーは100年以上前に誕生し、欧州ではおなじみのブランド。日本でもファンを拡大し、上記の表に示したように存在感を高めている。
近年は硬いグミを好む人も増え、ネット情報で「ハードグミ人気おすすめランキング」が紹介されるほどだ。メーカーもそうした消費者の変化を意識する。やわらかさが持ち味だった果汁グミからも2022年に「果汁グミ 弾力プラス」というシリーズが登場した。
今後の課題は「喫食未経験者」と「休眠客」
市場拡大を続けるグミだが、課題も残る。カンロの河野さんはこう指摘する。
「実は、日本のグミ喫食率はまだ50%にも達していないのです。また、ピュレグミは発売22年になりますが、過去に喫食経験がありながら最近食べていない休眠層の方も多くおられます。未経験の方や休眠層の方に手に取っていただく機会を訴求していきます」
明治の福島さんも「日本のグミ喫食率は約45%なので消費者と商品の出合いを増やしたい」と同じ指摘をした。自社ブランドについては「“果汁100”や“着色料不使用”といったブランドの本質は維持しつつ、消費者訴求には少し遊び心も取り入れたい」と話す。
前述したように欧州では誕生100年超のグミだが、日本では同40年程度。喫食率90%を超えるチョコレートなどに比べて未経験者も多いのだ。
休眠層に対しては、たとえば「家庭用アイスクリーム」の事例が参考になりそうだ。近年好調なアイス市場は大人に人気で、高齢層の支持も高い。
喫食再開のきっかけは、特に男性の場合、「定年退職により外で飲酒や会食機会が減って自宅時間も増えた。そこで久しぶりにアイスを食べたら美味しかった。それ以来、手軽な息抜きとしてアイスを食べる定年世代が増加した」――という話を取材で聞いてきた。
グミもアイスと同様100円や200円で買えるので、訴求次第で可能性が広がるだろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)