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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

明治「チョコレート効果」大ヒットの裏側…17年間の低迷→売上200億円超へ

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

明治「チョコレート効果」大ヒットの裏側
「72%・86%・95%」がある明治「チョコレート効果」(写真提供:明治)

 お菓子のなかでもチョコレートは、基本的に「甘くて美味しい」が人気の商品。全国の小売店で気軽に買える商品から、特別な相手に贈る高級品まで、消費者ニーズを意識した多彩な味で各メーカーが訴求してきた。

 だが近年は、「健康訴求」の視点から熱い目が注がれている。チョコレートの原料であるカカオに含まれる「高ポリフェノール=カカオポリフェノール」が脚光を浴びているのだ。

 その市場を切り拓いたのが、明治「チョコレート効果」だ。個別包装された一口サイズの板チョコが紙箱や袋に入っている。最近は小売店の店頭で存在感を高めており、新商品のようなイメージもあるが、発売されたのは1998年、来年で25周年となるブランドだ。

 なぜ人気が高まり、これまでどんな訴求をしてきたのか。メーカーの担当者に話を聞きながら考えてみた。

「キットカット」や「ガーナ」を抑え、売れ筋首位に

「2022年上半期(4~9月)のチョコレート販売ランキングデータ(※)では、当社の『チョコレート効果』ブランドが首位となりました。パッケージに “美と健康を考えた、高カカオポリフェノール”を明記した健康訴求のチョコレートです」

 明治の新田大貴さん(マーケティング本部 カカオマーケティング部 グローバルカカオG)はこう説明する。同調査での2位は「キットカット」(ネスレ)、3位は「ガーナ」(ロッテ)で、長年人気の両ブランドを抑えて1位となったのだ。

 食べた経験がある人はご存じだが、「チョコレート効果 CACAO 72%」「同CACAO 86%」「同CACAO 95%」と3種類があり、数字が大きいほど、カカオポリフェノールの含有量が増え、甘さがなくなる。もっとも売れるのは「72%」で、ブランド全体の約7割を占めるという。
※インテージSRI+(チョコレート)2022年4~9月

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「チョコレート効果」ブランドを担当する新田大貴さん。神奈川県エリアでの営業、大手流通の本部担当などを経て、マーケティング本部に異動した(写真提供:明治、撮影のためマスクを外しています)

ブランドを支持する大半が50代以上

 明治の人気商品Best3を買って、味を比較してみた。同商品でもっともビターな「ブラック」と「72%」を食べ比べても前者が甘く感じたほど。つまり「チョコレート=甘い」を覆す商品なのだ。それが売り上げ首位となったのに時代の変化を感じる。

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ハイミルク、ミルクチョコレート、ブラックチョコレートがある「Best3」と「チョコレート効果」(95%)、同じメーカーなので個別包装パッケージは似ている(筆者撮影)

「チョコレート効果は現在、50代以上のお客さまが約7割を占め、チョコレートは好きだけど健康面も気になる方から支持をいただいています」(同)

 年々支持が拡がり、ブランドの売り上げは200億円を突破した。競合も参入し、カカオ分の高いチョコを示す「高カカオチョコレート市場」も形成されて市場全体の約8%を占めるようになり、小売り店頭の棚も広がった。

 今でこそ大人気だが、ブレイクするまでは長い雌伏の時を過ごした。

ココアブームを契機に発売するも、17年間低迷

 商品開発のきっかけは、1995年に起きたココアブームだ。テレビ番組でココアの持つ健康効果が紹介されると人気に火がついた。「ココアの原料カカオには、健康やダイエットに効果的な成分が含まれている」というのが消費者の支持を受けた理由だった。

「当社は長年チョコレートの商品開発を行っており、ココアブームの前からチョコの原料であるカカオに豊富に含まれるポリフェノールにも注目し、研究を進めていました。そこで、おいしさに加えて健康をコンセプトに、カカオポリフェノールを多く含むチョコレートの開発を目指し、1998年『チョコレート効果』を発売したのです」

 当時のチョコに対する消費者意識は(今でも多くはそうだが)、子どもからお年寄りまで大好きな嗜好品で、大半の商品は甘さが持ち味だった。

 そんな時代に“苦みのきいた健康訴求のチョコ”は受け入れられずに低迷した。

「チョコレート=甘い」は長年、消費者に刷り込まれた意識だ。一般的に食べられるようになったのは大正から昭和にかけて。「ポケット用ミルクチョコレート」(1918年、森永製菓)や「明治ミルクチョコレート」(1926年、明治製菓=当時)が発売された。戦後の高度成長期以降、多くのメーカーから発売されて大衆化、巨大市場が創られていった。

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「明治のチョコレート」現在のパッケージ。今でも人気は高い(写真提供:明治)

 消費者が持つイメージを払拭するのは簡単ではない。ただし、チョコレートは美味しい一方で、健康面を考えるとネガティブなイメージがあり、食べる量を制限したい商品でもあった。「チョコレート効果」はここに目をつけたが、発売から17年も低迷した。

共同研究で高評価…メディアに報道されてブレイク

 この間、耐え忍んでいたわけではない。カカオに含まれるポリフェノールは苦くて渋いので、課題を解決するため世界中のカカオを研究、あまり苦くないカカオも探したという。

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カカオの木(左)とカカオの実。「カカオポッド」と呼ばれるラグビーボールのような固い殻で覆われている(写真提供:明治)

 潮目が変わったのは2014年だ。愛知県蒲郡市と愛知学院大、そして明治という産官学の共同研究で臨床実験を行った。具体的には蒲郡市内外に在住する347名(45~69歳)に「高カカオチョコレート(カカオ豆由来の成分が70%以上のチョコレート)を1日25g、4週間にわたり摂取」してもらった。臨床者の摂取前後のデータを測り、検証した。

 その結果、高血圧の人は血圧が下がったり、善玉コレステロール(HDL)の血中濃度が上昇したりするなどの効果が認められた、という。これを2015年にメディアが「カカオ70%以上の高カカオチョコレートの健康機能性」として報道すると、「チョコレート効果」も脚光を浴びるようになる。同年の売り上げは低迷期の2010年に比べて約10倍となった。

 現在は紙箱(標準12枚入り)だけでなく、大袋(同22枚入り、45枚入りなど)もあり、味もアーモンドやマカダミアのナッツタイプを用意するなど、さまざまな喫食シーンに対応している。前述したように主要支持層は50代以上だが、パウチタイプだけは違う動きをする。「ほどよい苦みと、ちょうどよい甘みからか、会議の前やちょっとした息抜きとして20~40代の支持が高い」という。

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売れゆきが拡大し、「チョコレート効果」のラインナップも増えた(写真提供:明治)

喫食が習慣化すれば、大袋人気が高まる

「チョコレート効果」は、1日当たり3~5枚食べるのが一般的。もちろん新田さんは毎日習慣的に喫食するそうだが、興味深い動きも出てきた。

「コロナ禍で、袋入りを買われる方が増え、全売り上げの4割を占めています」

 喫食が習慣化すると、箱入りに比べて1枚当たりの単価が安くなる大袋を買う人も増えるのだろう。別の取材ではコロナ禍で「アイスクリームもノベルティ(1個売り)よりもマルチパック(複数個が入った箱や袋入り)の売れゆきが高まった」という話を聞いた。

 メーカー側の訴求も、消費者心理を見据えて行っている。

「大切なのはカカオポリフェノールを継続的に摂取することですが、美味しさや楽しさの視点が欠かせません。消費者の方と向き合うと、『健康になりたいよりも、QOL(Quality of Life=生活の質)を高めたい』意識を感じます。美味しいチョコだから続けられる、おやつを食べる楽しさ、も訴求しています」

 昭和時代から続き、何度もブームとなった喫食での「健康志向」だが、病気になった時に飲む薬のような意識では長続きしない。一般の健康機能性食品が、昔に比べて味わいやすくなったのも、そうした一面が大きいだろう。

健康志向の一方で、糖分摂取への思いも

「高カカオチョコレート市場」が形成された今だからこそ、消費者に対する正しい啓発も必要だ。たとえば「カカオ分〇%=カカオポリフェノールの数値」ではない。新規商品が増えて市場が活性化すると、玉石混交となる恐れもある。

「チョコレート効果 CACAO 95%」(内容量60gの紙箱。標準12枚入り)では、パッケージにカカオポリフェノールが「1枚当たり174mg、1箱当たり2088mg」と明記されている。“説明責任”としては親切だが、消費者にとっては、1日当たりの適切なカカオポリフェノール量も知りたいところ。パッケージで何をどこまで表示するかの問題もあるが、商品と向き合ってそんなことも感じた。

 また、消費者は健康志向の一方で「糖分への欲求」もある。

 清涼飲料の例では、「無糖飲料製品の構成比は、2018年で約49%」(全国清涼飲料連合会調べ)というデータがあるが、最近は各メーカーから有糖の茶系飲料が発売されている。紅茶飲料は今でも有糖が強い。取材を重ねると「甘みでほっとしたい」思いも強いようだ。

 年々売り上げが拡大する「チョコレート効果」は、前途洋々が続くのか。これまでの取り組みにはリスペクトしつつ、今後の状況も注視したい

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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