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小林敦志「自動車大激変!」

新車の納期遅延が深刻化…「カローラクロス」の生産に見るトヨタの新たな試み

文=小林敦志/フリー編集記者
新車の納期遅延が深刻化…「カローラクロス」の生産に見るトヨタの新たな試みの画像1
トヨタ カローラ クロス | トヨタ自動車WEBサイト」より

 ここ最近は、半導体というよりは、むしろ新型コロナウイルスの感染再拡大でASEAN諸国の部品工場の操業に大きな悪影響が出たことによる供給遅延が深刻化したことで、国内完成車工場の操業に多大な悪影響を与え、新車の納期遅延が広範囲にわたるなど深刻化している。

 しかし、このような事態が発生する前から、人気モデルを中心に納期遅延というものが顕在化していた。通販サイトでは前日の夕方ぐらいまでに購入手続きを済ませば、翌日の午前中には自宅に商品が届くことに比べれば、契約してから登録車では最短でも1カ月ほどかかるという新車の納期は、何ともノンビリしたものに見えるし、携帯電話から何でも手軽に買え、すぐに手元に届く生活に慣れている若者には、なんともじれったく感じるものだろう。納期が最短でも1カ月というだけでも“クルマ離れ”を加速させているような気もする。

 ただし、これは完成車メーカーの努力だけでは目に見えて改善されるものでもない。登録車は初度登録申請時に車庫証明が必要となるが、これを申請して交付されるまでには1週間ほど必要となる。その間に印鑑証明など添付する公的書類の用意も必要となる。そして、書類が揃ったら、いよいよ運輸支局への申請となる。

 今や全国的にオンライン上でのOSS(ワンストップサービス)の利用が新車の初度登録申請手続きの主流となるが、申請手続きの効率化のために導入されたのに、なぜか紙ベースの頃よりも日数がかかるようになり、月の中旬には当該月分の初度登録申請が締め切られることになってしまった。筆者が見る限りでは、事実上契約当該月の初度登録申請は不可能のように見える。

 アメリカや中国では、各新車ディーラーがストックしている在庫車のなかから購入するのが大原則(中国の新車ディーラーでストック車両らしきマイクロバスを見たこともある)。そして、気に入ったクルマがあって契約成立となれば、そのまま乗って帰ることもできる(アメリカでは契約時に申請手続きを行い、カリフォルニア州では仮プレートが交付され、正式なナンバープレートは後日郵送される)。

 ただし、アメリカなどではメーカーから供給される新車について、ディーラーは「こんなモデルが欲しい」というリクエストは出せるが、基本的にはメーカーお任せで新車が供給される。日本でも、新型車の最初の配車分(初期ロット)はディーラーの希望に関係なくメーカーお任せで配車されるが、その後は受注生産(注文を受けてからメーカーに発注し生産)が大原則なのだが、最近トヨタ系以外では、ディーラーがあらかじめ売れ筋モデルの売れ筋仕様を“見込み発注”し、自社のストックヤードなどで在庫管理し、この在庫車をメインに販売することで納車期間をできるだけ短くしようとしている。

 トヨタ系ディーラーについては、原則的には積極的に在庫を持たず、“ジャストインタイム”による受注生産となっているが、人気モデルを中心に売れ筋グレードの人気ボディカラーや、装着頻度の高いオプションを装着した車両の見込み生産を行い、生産途中(予定段階から)で届けるべきエンドユーザーが決まるといったことになっているとも聞いており、可能な限り納期の短縮を行おうとしている。

人気車でも安易に増産できない事情

 最近話題となっているのが、発売以来高い人気を維持し、バックオーダーが増える一方なのに、生産計画を変えずに納期遅延が深刻になっていくというパターン。ただ、これについては業界を擁護するわけではないが、「バックオーダーがたまっているから」と、闇雲に増産をかけられない事情もあるのだ。

 バブル経済の頃のように右肩上がりで新車販売市場が成長していれば、増産に次ぐ増産で売りまくることもできるだろうが、国内新車販売市場は衰退の一途をたどっている。そのため、安易な生産拡大はできないのである。同じ車種でも売れ筋仕様の生産に特化するなど、コストをできるだけ軽くするために効率的で計画的な生産が求められているのである。そのため、売れ筋仕様の見極めを誤り、ほかのグレードにオーダーが集中することで納期遅延となることもあるが、そう簡単に軌道修正もできないのである。

 生産台数を増やすにしても、部品メーカーへも計画に沿った部品発注を行っており、部品メーカーもそれに沿って原材料の調達計画を立てている。つまり、市場動向に任せるままに生産台数を増やせば、さらなる手間やコストの増大を招き、それを許容しようとすれば、リスクをあらかじめ価格に上乗せするなど、消費者への“しわ寄せ”が増すばかりということにもなりかねないのである。

 最近ではメーカーオプションを少なめにするメーカーも出ているが、メーカーオプションがひとつ増えるだけでも、そのコストはそのモデル全体で負担することになる。そのため、以前あるモデルではリアワイパーレス(リアワイパーをなしにする)をメーカーオプションとはせずに、完成車としてラインオフした後に、“改造扱い”としてリアワイパーを取り外す作業が行われたと聞いたことがある。

 メーカーオプションをスリム化するのはコスト削減のひとつであるし、安定した納期の確保につながるのである。納期遅延のひとつのパターンとしては、あるメーカーオプションを選択するお客が見込みより多くなってしまった結果、そのオプションをセレクトすると納期遅延となるといったことも目立っているのである。

納期遅延を抑えようとするトヨタの試み

 9月14日に発売となった「カローラクロス」では、中間グレードのSについては、KINTO(トヨタの個人向けカーリースサービス)向けでは生産を行っているが、一般ディーラー向けについては、2022年2月より生産予定となっている。販売現場で聞くと、KINTO分と一般ディーラー向けで生産枠が異なるとのこと。新型発売後3カ月ほどは“新型車需要”とも呼ばれ、「カローラクロスが欲しい」といった、待ち焦がれたお客が多く購入するので、選択グレードもより上級グレードが選ばれやすいことを配慮したようにも見える。

 また、最近は残価設定ローンを利用しての購入が増えているため、より上級グレードを選んで購入するという新しいスタイルが販売現場では目立っていることも考慮しているようである。一般のトヨタ系ディーラーに話を特化すれば、グレード間で生産開始時期をずらし、カローラクロスでは最上級となるZと最廉価グレードとなるG系のみが現状生産されていることになるが、どう見ても生産比率はZが圧倒的に多いだろう。生産するグレード自体の絞り込みを行い、納期遅延をできるだけ抑えようとする新しい試みをトヨタが採り入れたといえよう。

 アメリカや中国では、契約書を交わしたその日に新車に乗って帰ることができる。それに比べて、注文から納車まで数カ月も待たされるのは理不尽との見方もあるが、それでは今すぐ改善することができるかといえば、それは不可能に近い。アメリカなどのように新車に乗って帰ることができるようにするには、日本の自動車登録制度(軽は届け出)を根本から変えなければならないし、各自動車メーカーの車両供給体制の大幅な見直し、そして新車ディーラーではアメリカや中国のような在庫販売をメインとするならば、各店舗に在庫車を大量ストックできるスペースが必要となるだろう(アメリカではどれだけ多く在庫車を抱え込んでいるかも人気ディーラーか否かを左右する)。

 ちなみに、日本では一部メーカーで完成車生産工場敷地内やその周辺に完成車をストックする広大なスペースを確保し、各ディーラーへ引き当て後も管理費用などを徴収し、売り先が決まるまで置けるようにしているとも聞いている。

「ランドクルーザー300」の4年や5年待ちというのはレアケースだし、「ヤリスクロス」はデビューから1年近く納車半年待ちが続き、今では1年待ちとなった。しかし、トヨタでは、かつて納車半年待ちが当たり前だった「アルファード」が、販売現場で聞いた限りでは、生産ラインの増強によりコロナ禍直前から最近までは1~2カ月ほどという納期短縮になっただけでなく、一時は各ディーラーで在庫車を多く用意するまでに供給体制が改善された。

 売れ筋というより、S Cパッケージもしくは、特別仕様車の“SタイプゴールドII”が販売のメインとなっており、ボディカラーもパールホワイトかブラックがほとんどなので、生産車種が特化できることも納期短縮につながっているようである。納期遅延があまりにも長期的に続けば、当然メーカーだって放っておかずに、生産体制の見直しは行うのである。

純粋な新車以外の選択肢も充実

 納期遅延に対する消費者の考え方も千差万別だろう。通勤などで日常的にクルマを使っている人や、乗っていたクルマが壊れたなど切迫した理由で「今すぐ欲しい」という人は間違いなく納車を急ぐので、ディーラー在庫車を選ぶだろうし、新車の納期遅延が広範に発生している今では中古車を選ぶだろう。

 しかし、「そんなに長くなくても“野ざらしに”なっていた在庫車は嫌だから、納車を待ってもいい」という人もいるはずだ(筆者は多少待ってでもいいので、“できたてホヤホヤ”みたいな新車を納車してほしいと考えている)。

 あまり良い傾向ではないが、新車の供給および販売手法上納期が他メーカー車よりかかりやすいトヨタ車を買い慣れている人は、セールスマンに購入希望車種の納期を聞きながら、自分が新車に乗りたい時期から逆算して発注するケースもあるとのこと(たとえば秋には新車に乗りたいという人の欲しい新車が納車まで半年かかるとなれば、その年の春までには注文を入れるといったこと)。また、あえて「展示車(試乗車)を売ってくれ」という人もいるようだ。

 大昔はクルマといえば新車もしくは中古車しか選択肢はなかったが、今では新車のほか、未使用中古車(ナンバープレートを付けただけの未使用状態の中古車)、ちょっとだけ使用した中古車(試乗車や点検代車などに半年間ほど使い、数千km程度しか乗っていない中古車)、認定中古車(高年式車メインで各メーカーが決めた一定基準をクリアした良質な中古車)など、主に中古車ベースとなるが、そのカテゴリーが細分化されており、新車の納期が気になるなら、純粋な新車以外の選択肢も充実しているのである。

 残念ながら、納期遅延は「メーカーけしからん」と言っても、メーカーにすべての責任があるというわけでもなく、日本の新車販売についての構造的問題も大きく孕んでいる(今回の部品供給遅延の深刻化による納期遅延はまた別問題)。そのため、前述したカローラクロスのように、できるだけ納期遅延とならないようにメーカーも工夫を凝らすようになっているのである。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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