毎年春先の黄砂現象は、タクラマカン砂漠やゴビ砂漠など、中国西部や北部で舞い上がった砂が強い偏西風に乗って日本に到達するものだ。洗濯物や車が汚れる程度ならかわいいものだが、今年はPM2.5の問題で、まったく違った様相だ。黄砂は中国沿岸の工業地帯を通過する際に、気管支炎やぜんそくの原因となる煤煙をも吸着してしまう。今や、黄色い砂ではなく真っ黒な砂であることが判明した。
黄砂には、1980年以前の大気圏内核実験で残されたセシウムも含まれていると指摘する専門家もいる。カナダの遺伝子学者のチームによると、人間の精子の遺伝子構造の変化を発見したとの報告もある。それが本当だとすると、福島原発事故の放射能汚染と同じくらい、恐ろしいではないか。
●大気汚染が原因で肺炎? 1週間絶対安静の診断
これだけ日本で連日報道されているPM2.5だが、現地中国ではどのような状況なのか?
日本のテレビニュースでは、現地の中国人もマスクをしている様子が映し出されているが、神奈川県の専門商社・テクノアートの原田晃社長は「上海では大気汚染の報道を見たことがないし、話題にもなっていない」と言う。原田氏は3年前から中国で取引を始め、1年の半分は上海に滞在している。
「日本に帰ってきてから、北京のひどい状況を知りました。私は上海にずっといたので慣れっこになっていたのかもしれませんが、日本から来たお客さんは、確かに『なんでこんなに曇っているの?』と言っていました。そう言われてみると、天気予報で晴れと言っていても、太陽が見えるのは10回に1回くらいでしたね。上海の人は『今日は霧が濃いから、車の運転怖いね』なんて会話をしていました」
昨年暮れ、原田氏はひどいぜんそくになり、ヨレヨレになって帰国したことがあった。病院で診察を受けると肺炎を起こしていた。
「空港から病院に直行したら、白血球がかなり多く、レントゲンを撮ったら真っ白。1週間絶対安静と言われました。原因については特に何も言われませんでしたが、そのときは風邪をこじらせたと思っていました。しかし、今になって思うと、大気汚染の影響だったのかもしれません。それから、鼻をかんだら、黒い鼻水が出てきたこともありましたし、傘を忘れて雨に濡れたときに顔をふいたら、顔に泥がついていましたね。黄砂のせいだとばかり思っていました」
原田氏は、大気汚染について思い当たることが、ほかにもたくさんあると話す。
「通勤で朝7時に家を出ていましたが、真っ暗でした。日の出時刻を確認したら6時45分くらいでしたけど、高層ビルに囲まれているからかなと。5メートル先の人の顔が認識できないこともありましたが、5年前に目の手術をしたことがあって、そのせいだとばかり思っていました。それから、向こうではモバイルPCを使っていて、部屋の中が暗くて画面が見づらかったのですが、日本に1カ月ほど滞在していたら、よく見えるようになってきたのです。手術のせいではなく、向こうは空気が悪くて本当に見えなかったのかもしれません」
日本の高度経済成長期、公害地帯の風景といえば、高い煙突が何本も立っていて、そこから煙がモクモクと出ているものだった。上海にも工業地帯はあるものの、昔の日本のような絵に描いたような公害の風景はあまり見られないらしい。原田氏が3年前に国営の宝山鋼鉄という鉄鋼メーカーの工場を見たときは、かなり煙がモクモク出ていたそうだが、最近はそうでもないという。原田氏は、ゴミ処理の燃焼方式が心配だと指摘する。
「中国におけるゴミの量は、日本では想像もつかないほど膨大です。しかも日本みたいに工夫を凝らして処理しているわけではないので、焼くときにダイオキシンの問題があるような気がします。焼くことができない生ゴミは処理せずにそのまま海に捨てられていますし、これは違った形で公害になりそうです」
●ネットの記事も規制、大気汚染を知らされない中国人
中国はテレビや新聞はもちろんのこと、インターネットの記事や書き込みを当局が管理し、都合の悪いものは削除している。尖閣問題に関する記事が自由に検索できないのは、その代表だ。