一昔前、着信でバイブレーション機能が動作したときは、携帯電話が激しく「ブワワワワン、ブワワワワン」と踊り狂うように動いていた。ところが、最近のスマホでは、そんなけたたましさは影をひそめている。ネット上でも「振動が弱いので電話に気づかずに困る」「交換機種のバイブの弱さにうんざり」「バイブ弱すぎ」などの嘆きの声が見られる。
スマホの振動は、機器に組み込まれた「振動モーター」という素子がつくるもの。モーターの回転軸の先端に、重心をわざと不釣り合いにした分銅が付いている。着信の電波を受信するとモーターが回転するが、回転軸につながっている分銅の重心が不釣り合いになっているため、これで振動が生じるわけだ。
分銅の不釣り合いの度合を大きくすれば、その分、振動は大きくなる。一昔前の携帯電話では、分銅の不釣り合いの度合が大きかったのだろう。
スマホの“軽薄短小”化が進むなかで、振動モーターにも小型化が求められてきた。小さな素子で大きな振動を生み出すためには、技術的な難しさはあるだろう。
●メーカーが、あえて振動を弱めている?
だが、スマホを製造するメーカーが、あえて振動を弱めていることも考えられる。“震え過ぎ”による周囲の素子への影響を軽減するねらいもあるだろうが、“テーブル直置き”に対応する狙いもありそうだ。カフェでは、数人がけのテーブルの上にスマホを置く人が多くなった。着信でスマホが振動すると、ほかの客にも伝わる。それでも人々はテーブルの上にスマホを置こうとする。であれば、振動は小さいほうが都合がよい。
携帯やスマホを使う本人にとっても、突然の大きな振動は驚くものだ。特に折り返しの電話を待っているときには、いつかかってくるかと緊張感を強いられる。大きな振動がストレスになる人もいるだろう。
他人への迷惑や自分へのストレスを減らすために、弱い振動のほうがよい。妥当な考え方だ。
●生活環境の振動と同化
しかし、振動が弱まることでの問題もある。着信に気づかないという使い勝手の問題はもちろんのこと、精神的な問題も起きうる。
街中や室内を見回すと、振動するものはスマホ以外にも多くある。土木工事、道路上のトラックの通過、上空のヘリコプター、冷蔵庫のモーター、洗濯機のドラム、などなどだ。たいてい、これらの振動は遠くで起きていたり、弱かったりするため、意識しなければ感じないくらいのものが多い。
スマホの振動が弱まっていくことは、その振動が、これらの生活環境での振動に近づいていることを意味している。その先にあるのは、着信に対する過敏な反応だ。
携帯電話が着信していないのに、「バイブが震えているのでは」と錯覚することを「ファントム・バイブレーション・シンドローム(幻想振動症候群)」という。着信に対する神経過敏ぶりの現れとされている。
これまでは、どちらかというと「本当は振動を感じていないのに、携帯電話が振動しているように錯覚する」ことが問題の中心だった。現在は「ほかの振動を感じているのに、スマホが振動しているように感じてしまう」という問題が、さらに加わった状況といえる。
バイブレーターが弱いと迷惑になりにくい。でもバイブレーターが弱いとストレスにもなる。バイブ機能利用者は、そのジレンマのなかにいる。
(文=漆原次郎)
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