大卒採用増に隠れた、憂うべき大学の実態…日本電産・永守社長の“採用基準”とは?
『大卒採用10%増 円安で製造業回復』
確かに、大企業だけでなく中小企業も大学新卒予定者の採用に前向きになっているようだ。とはいえ、ネットによるエントリーが一般化し一部の企業に応募が集中するため、大学生の間で人気が高い大企業の門はますます狭くなっている。そのため、「相変わらず大企業志向」と言われていた大学生が中小企業に目を向け始めた。この動きを表層的に見ると良いことなのだが、現場では大マスコミが報じない現象が起こっている。
「うちにも(一流大学である)A大学の学生が入社試験を受けに来ました」
こうした言葉を口にして喜ぶ中小企業の経営者を目にする。しかし、単純に喜んでいいものだろうか。そこで、問いたい。
「なぜ、一流大学の学生が、あなたの会社の門を叩いたのでしょうか」
もちろん、その中には志高き青年がいることを否定しているわけではない。だが、「どこもとってくれなかったので中小企業でも」と考えているプライドだけが高い「でもしか」学生であるかもしれない。
●日本電産・永守社長の採用哲学
28歳の時に京都市のプレハブ小屋で日本電産を創業し、ハードディスク駆動装置用モーターで世界シェア断トツ首位を獲得した永守重信社長は、20年ほど前の経験から次のような例え話をする。
「『日本電産に入りたい』と思い、日本電産一本に絞って応募してくる三流大学の天橋立大学(仮名)の学生。片や『他の会社に行きたかったけれど不採用だったから、仕方なく来た』と思っている京都大学の学生。2人に採用通知を出したとします。反応はまったく違います。天橋立大学の学生は歓喜し、さっそく親に連絡する。母親も赤飯を炊いて祝います。ところが、京都大学の学生は『こんな会社に受かるのは当たり前』と、すました顔でいる。2人が入社したとき、どちらが成果を上げると思いますか。答えははっきりしています。天橋立大学の学生です」
その理由について永守氏は持論を展開する。
「天才を別にして、頭の良い人とそうでない人の差は、せいぜい2~3倍程度です。しかし、やる気のある人とやる気のない人では、意識がまったく違い、仕事の成果に100倍の差が生まれます。IQ(知能指数)とEQ(心の知能指数)という言葉に置き換えれば、わが社はこれまで徹底的にEQの高い人を採用してきました」
筆者も同感である。確かに、一流大学の学生の中には、IQとEQが両方とも高い人がいる。しかし、「一流大学」の看板だけをあてにしていると期待はずれに終わることもある。なぜなら、永守氏が指摘するように、「変なプライド」が邪魔をしている場合があるからだ。自信がある割には、企業が求める「問題解決能力」「行動力」「コミュニケーション能力」に欠ける人が少なくない。その背景には、試験、受験にターゲットを絞った「想定された答えを見つけさせる教育」がある。その結果、自ら未知の分野を探索しようと行動もせず、人と議論しようとしない学生が増えていると考えられる。ビジネスを行う上で、これでは困る。
企業が社員に求めるこの3条件は、企業人としては必須であり、受験秀才が幼少から受けてきた「英才教育」により磨かれた能力よりも優先される資質と言えよう。この能力を発揮し「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を体現してくれる人物こそ逸材である。
●無名大学に潜む掘り出し物
そこで、多くの著名経営者と対話し、国立大学から無名校まで、さまざまな大学で教鞭をとってきた筆者の経験から問題提起したい。
「偏差値の低い大学の学生を、全面否定していいのか?」
田中真紀子・前文部科学相が、3大学を一時不認可とした問題に端を発し、「大学教育の質が低下している。そのために就職できないことにもつながっている」という発言が話題を呼んだが、無名大学にも確実といっていいほど「掘り出し物」が潜んでいる。そこで努力してきた「変なプライドなき謙虚な原石」を見いだし、ダイヤモンドに磨き上げてはどうか。具体的な戦略としては、学業だけでなくスポーツ、社会貢献などで優れた実績を残した無名校のトップクラスばかりを集めるという手もあるのではないだろうか。
とは言ってみたものの、実際にこうした「掘り出し物」を見つけようとするとなかなか難しい。日本人学生の学力低下が著しいことはすでにあちらこちらで報じられている。無名大学には目も当てられない学生が少なくない。例えば、まったくコミュニケーションができない学生がいる。ひどい事例を挙げると、授業で意見を求めても無言、頭を横に振り「わからない」という意思表示さえしようともしない学生がいる。おまけに、何を考えているのかさっぱりわからないほど無表情。このような学生が就職の面接を通過するわけがない。卒業後、本当に一人立ちできるのだろうかと心配になってくる。