「シャープは5000人、NECは1万人の人員削減」
かつて、日本経済の牽引役となった大企業。そこへ入社さえできれば、定年までの雇用と高額の退職金が約束された時代は、とうに終わったとの声がよく聞かれる。リストラや賃金ダウンで、転職を強いられる人もいるだろう。
そこで今回、
「知られざる転職の常識とは?」
「転職に失敗する人/成功する人の共通点とは?」
などについて、日本企業の現役の人事採用担当者4人に、語ってもらった。
――失敗する転職者の共通点は何でしょうか?
C 転職エージェントに頼り切りの人はだめ。
A 「本人が何をしたいの?」ですね。「本当に自分のやりたいことがあるので転職する」というのでないとシンドい。「転職するから年収が上がる」ではない。自分にない経験を手に入れるのだったら、10年後を見据えて、年収が下がることもあり得る。大手に行ったからハッピーになれるわけでないし、年収を下げても、「とにかくこの企業で、こういう仕事をして、こういう経験を積みたい」という人でないとだめです。今どき、お膳立てしてくれる会社はない。みんな、幻想を抱いている。
別にいいんですよ、転職の動機がお金でも。でも、そのために何をするかです。「営業だけど早く帰りたい」とか、「福利厚生はどうなっているのか」とか、そういう意識の人は転職先では持たないでしょう。
D 転職エージェントは使い方次第だと思いますよ。R社さん、I社さんとか、ある種デパートです。自分は何ができるかわからないけれど、とりあえず転職したいという人のための、「候補先のウィンドウショッピング」としてなら使ってもいい。でもデパートで見て、本当に良い物を買いたいのなら、専門店に行ったほうがいい。「本当に自分がこれをやりたい」というのなら、それに強い転職エージェントに行ったほうがよい。会社側もデパート型のエージェント会社には、簡単なポジションしか求めていない。
何を手に入れたいのか?
――「自分がこの会社で何をしたいか?」が明確な人が、成功するわけですね。
A 会社ではないでしょう。「あなたが3年後に何をしたいか、5年後にどうか?」ですね。
B 「10年後に独立したいから、御社でこれとこれを手に入れたい。その代わり、これは提供できる」と言ってくれたほうが採用しやすい。
C 「これをやりたいのでこれから8年間は死ぬ気で働きます」と言ってくれたほうが楽です。
D 単純に会社のネームバリューや憧れだけで「とにかく頑張ります」という人は、それでやれるのだったら「やって」という感じですね。大きい会社同士の合併もあるし、ここで頑張ると言っても、10年後に会社があるかどうかもわからない。
B でも、そういう人が多いですね。
C 転職はさまざまな手段を使って取り組みますが、結局最後に決めるのは自分。それなのに誰かのせいにして転職する人が日本には多すぎる。一番多いのは、
「元の上司に誘われたから転職した」
「エージェントに声を掛けられたから転職した」
「最初に見た求人広告が魅力的だったから転職した」
など。落ち着いて考えると不思議なことがたくさんあって、最後自分で決めたはずなのに「聞いていた話と違った」ということがたくさんある。
転職すれば年収が上がるという神話
――「年収を下げても転職したいという人はいますか?
D ほとんどいないですね。「神話」で10%は最低上がると、みんな思って転職しますから。
B 年収を交渉する時に「何を大事にしますか?」と質問すると、成功報酬を除いた基本給を大事にする人が多い。
C 安定志向だね。
A こんなヤツ、「ウチに来て大丈夫か?」と思うね。入ってやる自信のある人は、基本給なんて聞かない。トータルでやる自信もあるし。それ以上に、超えた時の話をしてきます。「青天井なのか?」とか。
C そういう人、最近少なくなった……。ヤル気のある人は「こういう場合、いくらになるか?」と聞いてくる。
転職後に失敗する人の共通点
――新しい会社に入社した後で失敗する転職者の、共通点や法則などはありますか?
A 「前の会社はこうだった」と言う人ですね。特に年配の人。
B あと、大企業の看板で営業していた人。前職では優秀な成績を上げていても、ウチへ来るとダメという人が多い。
C ウチの営業担当役員が言っていたのは、「いくつになっても素直に聞ける人は勝つ」と。最近、周囲に聞くことができなくて、何かわからないと、ひたすら自分でパソコンに向かっている人もいる。それは時間の無駄で、社内の知っている人に聞けば10分か20分で済んで、残りの時間をお客様対策に費やせる。
A 採用の時は「自分はこういうことをしてきた」とアピールするが、入ったらそれをかなぐり捨てて、またゼロベースで頑張れるか。
D いろんな意味で、素直な人は勝つ。新しくここで学び直すという姿勢が大切ですね。アシスタントの女性にも「すみません。わからないので教えてください」と言える人ですね。
A それを上から目線でいると、「誰がお前なんかに教えるか」となる。
自分のネットワークを使う
――転職を考えている人に「こうすれば成功する」とか、「こうしてはダメ」というアドバイスがあれば教えていただきたい。
A エージェントに頼らず、自分のネットワークを使う。今ならいろんなSNSがあるので、自分の行きたい会社の人にコンタクトできるし。
B せめて行きたい会社のホームページから直接コンタクトすることはしたほうがいい。転職エージェント経由よりいい。別に直接コンタクトしたからって、低く買い叩かれたりするわけではない。
C 転職エージェントからのスカウトメールで喜んでいてはダメ。あれは単に候補者を大量に欲しいだけだから。「この人を宛先に入れておけば、誰かにつながって、いい候補者に引っかかるかもしれない」とか、「将来、他の企業からのオーダーに使えるかもしれない」ということだけでメールを出しているので、勘違いしないほうがいい。企業からの直接のメールは別ですが。
D 最近すごく思うのは、転職エージェントの功罪の「罪」の部分で、そもそもハンティングとかスカウトとかは、それに値する人が受けられることであって、リクナビに登録してスカウトメールが来たからといって、採用する企業が「あなたを欲しい」と思っているわけではない。
A 転職エージェントからスカウトメールが来るというのは、売るための商品の仕入れと同じですからね。
D 転職エージェントを使っていい役職/職種と、使えないものがあります。転職エージェントを使わなければ受かるのに、使ったために落ちる候補者はたくさんいる。
C 企業に余計なカネを払わせるだけの価値が、自分にあるか考えたほうがいい。
B それは厳しいね。だけど本当だね。
C だけど、ハローワークを通じて採用すれば、企業側は場合によっては助成金をもらえる。なのになぜ転職者に100万円も払わなければいけないのか?
直接企業に申し込む
A 結局、この企業に行きたいと思ったら「私はこういう経歴で、御社でこういう仕事をしたい」と直接申し込むほうがいい。
B その企業で働いている人に、SNSなどを使って連絡を取る。
D 「興味があるのですが、お話を聞かせてください」と。
C もしくは各ホームページに採用案件が載っていなくても、「自分はこういう仕事に興味がある」とメッセージを書けば、絶対返事は来ますよ。
B 日本人はもっと危機感を持ったほうがよいと思っていて、ホームページに採用募集を出した途端に、中国人やインド人からすごい量の応募が来ます。
A 条件に「日本語がネイティブ」と書いていても、彼らは「3カ月で学ぶから大丈夫」と平気で応募してきます。彼らは日本人と同じ能力を持ちながら、収入は4分の1から5分の1です。日本で就職できれば母国に家が建つ。アグレッシブですね。「そういう人たちと戦っている」という自覚を持ったほうがよい。
B 日本人って、これまで転職に関して草食系だったのかも。声掛けられて「じゃあ転職しようか」となる。しかし、中国とかインドとか韓国とか、肉食系の人がたくさん入ってきて、自分の行きたい企業があれば自分で売り込む。自分のキャリアパスを考え、海外に行きたいとか自分でアグレッシブに動かないと、日本人は転職できなくなる。国内の転職でも外国人や留学生がたくさんいて、待っていてもチャンスは来ない。自分のチャンスは自分でつかまないと。
新卒採用のメリットとは?
――企業の側からすると何も知らない新卒より即戦力を採用したほうがよいと思うのですが、なぜ新卒を採用するのですか?
C やはりDNAの継承ですか。文化を継承するというメリットはありますね。
A 新卒を採るメリットは、今までコストの高い人が行っていた仕事を若い人へ移行することで、コストカットになる。あと、自分たちの企業の文化を継承している人を、社内で増やしたいということがある。新卒研修からみっちりできるメリットがあります。
B 新卒を採ってわかるのは、会社への忠誠心や頑張り度が違う。最初から「こんなものだ」と思いますから。3年後、5年後、10年後、中心になってくれると思う。外部から来ると、前の会社はこうだったと悪いところばかりが目に付く。
D 新卒のコストは、転職エージェントの費用などを考えると、中途採用と比べものにならないほど安い。
A 新卒を採る理由は、新陳代謝を促す点があるね。ある大手企業では、赤字のプロジェクトでも新人の教育のために受注すると聞いたよ。開発とは何かを知ってマネジメントするために。中国やインドにオフシェア(海外の開発会社への委託)で振るための勉強させるといいます。
――学生1人に100万、200万円をかけて採用しているって、なんだかんだ言っても、日本企業の人事はすごいですね。学生はそこまで認識しているのでしょうかね。
B 入社を辞退してもいいけど、200万円払えって言いたくなるね(笑)。
(構成=編集部)