日銀「黒田砲」に踊れなかったパナソニック 弱腰な改革姿勢で市場も見放した
日本銀行の黒田東彦・新総裁が打ち出した「量的・質的金融緩和」に市場は好感。80年代末期のバブル時代さながらの熱気に包まれた。
全面高にもかかわらず、買われなかった銘柄もある。パナソニック株の5日の終値は、前日比12円(1.96%)安の612円。608円まであった。
バブルの再来を思わせる熱気がパナソニックの頭上を通り過ぎていったのは、津賀一宏社長の、この一言が原因だ。
「(プラズマテレビからの撤退については)可能性がゼロかといえば、ゼロではない。ただ、頑張れる限り、頑張る」
津賀社長は3月28日に、就任後初となる中期経営計画を発表した。プラズマテレビ事業そのものからの撤退を予想した事前の報道が多かったが、津賀社長は撤退を明言しなかった。「事業を継続しながら赤字をなくす」という中途半端な姿勢を示した。
売却する方針と伝わっていたヘルスケア事業は「外部資本を導入する」と言うだけ。「パナソニック株を買おうという材料は皆無だった」と国内の運用会社の幹部は厳しい評価を下した。
津賀社長に対する期待は失望に変わった。3月29日の東京株式市場では、朝方からパナソニック株に失望売りが殺到。売り気配で始まり、一時は前日比56円安の648円をつけ、8.0%の下落となった。株式時価総額も1兆6000億円近くまで落ち込み、ソニーに逆転を許した。
中期経営計画(2013~15年度)の営業利益の見通しは、12年度の1400億円から、15年度には3500億円以上を目指す。目標達成の道筋として、(1)赤字事業の止血で1300億円の改善、(2)各事業部に5%以上の営業利益率を課すことで1400億円の収益改善、(3)全社的な効率改善などで700億円(の利益)――の3つを示した。
これを見て「期待を裏切られた」という市場関係者が多かった。津賀社長は専務時代にテレビ事業の縮小に大なたを振るったことで知られる。投資家はプラズマテレビからの撤退という、思い切った決断をすると期待していた。
赤字事業はテレビ、携帯電話、半導体、回路基板、光部品(ピックアップ)の“赤字5兄弟”だ。なかでも赤字の元凶はプラズマテレビ事業だった。12年にプラズマテレビ工場を一部停止、プラズマの新規開発も中止した。
プラズマテレビの販売台数は11年3月期が750万台で、12年同期は450万台。13年同期には250万台に減る。今期以降も回復は見込めない。
株式市場では、プラズマテレビからの撤退は織り込み済みだった。しかし、津賀社長は、どうしたわけか、撤退については明言しなかった。「単に撤退すれば確かに赤字は消えるが、安直な選択肢はとらない。赤字の垂れ流しを止める」。まずやるべきことは赤字事業をなくすことだと語った。