そうなると問題は第3の矢である「成長戦略」の行方だ。どんなに金融緩和や財政出動で景気に火をつけても、それを経済成長につなげるには大胆な規制緩和や構造改革が不可欠になる。
成長戦略は、政府に置かれた「産業競争力会議」が5月中にもまとめることになっており、その中味次第で、アベノミクスの成否が分かれると言っても過言ではない。この産業競争力会議。安倍首相が議長を務めるほか、メンバーには麻生太郎・副総理兼財務相兼金融相や甘利明・経済再生担当相など政治家7人が加わっているほか、企業経営者や学者など民間人10人が「議員」として参加している。
もっぱら民間人10人が議論をリードする仕掛けだが、中でも改革派の最右翼が竹中平蔵・慶應義塾大学総合政策学部教授だ。小泉純一郎首相時代に経済財政担当相や総務相として「小泉・竹中改革」を推し進めた当の本人である。
議論したら負けることはない竹中氏だけに、会議も竹中流で進む傾向が強いが、これに不快感を示しているのが議長代理である麻生氏だという。もともと麻生氏の竹中嫌いは有名で、会議のメンバーを人選する際にも、竹中氏を入れることに最後まで反対したという。経済産業省とべったりとされる甘利氏や茂木敏充・経済産業相は、今でも「竹中を入れたのは失敗だった」と公言しているらしい。
●麻生・茂木は竹中氏の改革案を阻止?
そんな竹中氏。「産業競争力会議で浮いている」という話がメディア関係者の間に流れている。どうやら麻生氏や茂木氏周辺が大手マスコミに流している話のようだが、民間経営者が竹中氏の話に乗って、大胆な改革案を出してくるのを阻止したい狙いがあるようだ。そうなると、安倍首相が竹中氏をどう「使おうとしているか」がカギになってくる。
安倍首相はもともと構造改革派だが、一方で自民党や産業界などに根強い「小泉・竹中批判」があることも熟知している。それだけに、小泉氏のように全面的に竹中氏に信認を与えるようなことはしていない。
実は、麻生氏が竹中氏を徹底的に嫌うのは政策論が違うからというよりも、小泉政権時代に竹中氏にメンツを潰されたことが2度や3度ではなかったからだといわれる。産業競争力会議の場でも、麻生氏は竹中氏と目線を合わせようとすらしない。
自民党保守派などへの配慮があるからといって、安倍首相も竹中氏を遠ざけているのかというとそうではない。保守派は安倍首相が竹中氏の改革案を取り上げないことを期待しているのだが、どうもそうはなりそうにない。首相周辺によると、安倍氏は「戦う竹中氏」の突破力を大いに買っていて、最後の段階では竹中案を採用する腹積もりではないか、というのだ。
金融緩和による円安株高効果で、安倍首相の支持率は上昇している。首相も足元に不安がなくなれば、守旧派議員の反対を押し切って構造改革路線に進めるというわけだ。アベノミクスが本当に成功するのかどうか。佳境を迎えることになる産業競争力会議での竹中氏の扱われ方を見ていれば、アベノミクスの成否が見えてくることになる。
(文=編集部)